わがまま温泉日記 お風呂の科学

当世レジオネラ考
お風呂の様式
お風呂の様式アラカルト
塩素投入条例
泉源から湯船まで
温泉法 vs 公衆浴場法

源泉かけ流しと循環のハザマにて
半循環

 レジオネラから始まって、思わぬところで寄り道をしてしまったが、循環風呂にもずいぶん詳しくなった。

 さてと、巷間、温泉の種類としては、「源泉掛け流し」と「循環」の2つに大別されてはいるものの、実際、いろんなお風呂に浸かってみると、その狭間にはさまざまな様式がある。
 すなわち、「源泉掛け流し」と「循環」というのは二者択一、あるいは、ウラ・オモテの関係にあるのではなく、別の構成要素といえそうだ。それが証拠に、たとえば、「半循環」なる概念は、この集合では説明できない。

三大構成要素
  ・源泉投入方法
  ・排湯方法
  ・循環方法
オーバフロー環水
早見表
 お風呂の様式
源泉掛け流し

●Thanks to Mr.Yamasemi
「掛け流し」の起源は酒造にあるようです。酒米を研いで水浸するときに、清水を流し放しにしてさらすことらしいです。しっかりさらさないと、糠が残って酒に臭みが出るとか。

 しばらくは、うまく分類できずにいたが、その原因は「源泉掛け流し」なる情緒的な用語にあった。反面、ここにこそ、からまった糸を解きほぐすカギは隠されていた。かくなる用語を、はじめて用いたお方に頭が下がる。

    「源泉掛け流し」=「源泉」+「掛け」+「流し」

 「源泉」という実質を排除して、形式だけに特化してみる。「循環」も「掛け流し」も、いずれもお湯の「IN」と「OUT」の形式だけを表す言葉。
 「半循環」と呼ばれる方式も、これなら表現できている。

   ・循環→循環方式
   ・掛け流し→放流方式

 さて、そこで、浴槽まわりのお湯遣いにつき、科学してみることにした。とはいっても、分類方法についての、ささやかな考察にしか過ぎないのだけど、果たして、すべての様式を網羅できるかどうか・・・。


三大構成要素

 すべてに形式的な分類を貫き通すと、次のようになるのだろう。

   ・掛け→投入方法
   ・流し→排湯方法
   ・循環→循環方法

 で、実質を表す「源泉」につき、どう考えればよいのだろう。もちろん、「循環湯」は源泉掛け流しでいうところの「源泉」ではない。ということは、「源泉掛け」とは言い得ても、「源泉循環」とは断じて言えない。
 そこで今回、浴槽まわりのお湯遣いとして、次の3本柱を立ててみた。

   ・源泉投入方法 in
   ・排湯方法 out
   ・循環方法 circulation

 右のベン図を見る限り、8種類に分類できるかに思いきや、これはそれぞれの方法を[YES・NO]のたった2つで表示したもの。これでは実態にそぐわない。そこで、それぞれの方法に4方式を立て、都合、4*4*4=64通りに分類してみた。
 これに、加熱・加水の項目までをも加えると、全部で4*(4*3)*4=192通りにもなってしまうので、今回そこまでは手を伸ばさない。 


源泉投入方法

 源泉の生い立ちにもいろいろあって、
   ・自噴
   ・掘削自噴
   ・動力掲揚
などが思いつく。やはり、温泉となるべく生まれた「自噴」こそ、その王道といえるんじゃない? もちろん、こんな湧出形態にまでは手を伸ばさないけど。
 源泉投入方法は2つに分けた。もちろん、「源泉」が「常時」あるいは「間歇」投入されねばならない。

1.上部投入方式
2.浴槽内注入方式

 [2]の方式で有名なのが、湯船の底から湧いてくるお湯。自噴の上に、お湯の鮮度は文句なし。しかも、人様が浸かれる適温でなくてはならない。まさしく、天の施し、地の恵みとしか言いようがない。
 ちなみに、側面から強制注入の方式も、こちらに含めることにする。


排湯方法

 滝のように流れ落ちるお湯の豪快さは、もとより捨てがたい。しかし、ひたひたと湯船のふちからあふれ出す、そのひっそりとした営みにこそ、安らぎのひとときを覚えてしまう。ワタシも枯れてきたかな〜。
 排湯方法も、これまた2つに分けた。

1.オーバーフロー方式
2.大気圧方式


 [1]は循環チェックに際しての最も分かりやすい指標である。ワタシもこれをもって判定基準にしていたのだが、それだけでは説明のつかない現象に出くわして、[2]の方式にたどり着く。
 いわゆる「パスカルの穴」ではあるが、排湯方式としては「大気圧方式」とでも呼んだ方がふさわしい。


循環方法

 カエルの「親」はカエルである。ワタシの父も温泉好き。その父親が「まわし」なる言葉を用いて温泉の判定基準にしていたのを幼い頃より耳にしていた。そのせいもあり、すぐ「まわし」なる語を使ってしまう。正式には「循環」という。
 もちろん、お湯の循環のみならず、不純物の濾過、ならびに塩素殺菌までをも受け持っている。
 循環方法は厚労省の分類では次の2つとなっている。

1.側壁吐出・底面還水方式
2.側壁吐出・オーバフロー還水方式

 が、これでは循環湯投入方法が側面吐出のみとなり、何とも釈然としない。しかも、オーバーフロー環水方式は、必ず底面環水と併用されているはずだ。さもないと、いずれ、ポンプが焼きつくぞ。システムとして、そんな仕組みをとるはずもない。
 もとより、ワタシはお役所ではない。「排湯方法」と組み合わせ、この難局を乗り切ることにする。オーバフロー環水の場合は"o1"とすればよいのだ。

1.循環湯上部投入方式
2.循環湯側壁吐出方式


 循環量を多くすれば、[1]では、湯量豊富な豪快な温泉に浸かった気分が味わえる。また、[2]では、源泉上部投入と組み合わせることで、「源泉掛け流し」と勘違いしやすくなる。


オーバフロー還水

松田忠徳著「温泉教授の温泉ゼミナール」光文社新書p64をご覧あれ。ウッソ〜!と思わず叫んでしまった。

 厚労省の「オーバフロー還水方式」で想定しているのは、湯船のふちに切られた溝から集水するもの。しかし、実は、オーバフロー還水方式にも二通りあるようだ。

  ・側溝集水方式
  ・洗い場集水方式

 前者は湯船のふちに側溝が切られており、ところどころに集水用の穴が開いている。はじめて見たときには「パスカルの穴」かと思ったが、循環用の穴だった。はっきり記憶しているのは塩原温泉「かんぽの宿」だけ。
 パスカルの穴ならパイプ1本ですむところ、側溝を設けるのは、浴槽水の表面に浮かぶ皮脂やら体毛などを洗い流すための仕掛けに違いない。ということは、「底面環水」よりも進んだ方式といえる。痰なんか、吐かないでね!

 後者は洗い場から集水する。あまりにおぞましい方式なので、将来なくなることを期待して、分類の対象にもしたくない。誰もまさか洗い場の排水口からお湯を集めてまで循環しているなんて思わないでしょ? さらにタチの悪いことには、その見分け方は容易ではない。なぜなら、底面環水方式も併用しているはずだから。
 温泉施設を星の数で表示しようという動きがあるそうだが、こんな方式を採っている施設に、星屑一つ分けてやる必要もない。たとえ、どんなに素敵な源泉をもっていようとも・・・。 


早見表

 2つずつピックアップてきた各方式に、「なし」と「併用」を加えて全4方式。後々の説明の都合上、その方式をまとめてみると次の通り。

源泉
投入
i
なし 併用
排湯
o
なし 併用
循環
c
なし 併用

 いよいよ、お風呂の様式を表す番だ。いわばお風呂の型番だ。例えば、わが家のお風呂を表すならば、i0-o0-c2 (ioc#002)となる。あ〜よかった! きちんと表示できている。

#000
#002 #012 #013
#110 #111 #112 #120
#130
#210 #211 #310


 お風呂の様式アラカルト

五右衛門風呂 ioc#000
源泉投入なし
排湯なし

循環なし

 小さい頃は五右衛門風呂の釜焚きを、ずいぶん手伝ったことがある。紙に火をつけ、木っ端に移し、息をフウフウやりながら、木屑に移す。それが燃え始めたら薪をくべる。今でも、こんなにリアルに覚えているくらいだから、さぞや面白かったに違いない。
 石川五右衛門、子供と一緒に浸かるに、何ら衛生上の問題はない。ただ、温度管理に気をつけて!

銭湯 ioc#002
加熱した水道水
底面環水

循環湯側壁吐出

 ここしばらくは街の銭湯に行ったこともない。エアロゾルが発生する危険も少ないので、同じく循環ならば、こちらの方が好ましい。しかも、銭湯ならば毎日換水、データによるとレジオネラの発生もなし。
 ただ、その泉質表示は次亜塩素酸塩泉かも知れないよ^^。

スーパー銭湯 ioc#012
加熱した水道水
オーバーフロー環水

循環湯側壁吐出

 厚労省「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」では、次のように紹介している。いわば、政府公認の方式。

 「浴槽内に浴槽の側壁や底面から湯を吐出させて、浴槽の縁からオーバフローさせた湯を集めてろ過器に戻す方法で、湯が豊富に溢れ出ているように見せる視覚的な効果と、浴槽表面の浮遊物の除去が可能です。節水の目的でも用いられる循環方式です。
 この方式は、最近、旅館の大風呂や大型の浴場(いわゆるスーパー銭湯等)で使われるようになっていますが、オーバフローした浴槽水に洗い場の排水を混入させない集水方法としなければなりません。


 浴槽のふちに溝の切ってあるタイプだと思うが、洗い場の排水が混入せぬよう祈るばかり。

温泉センター ioc#013
入れ替えたときのみ源泉
オーバーフロー環水

循環湯上部投入

 滝のように流れ落ちるお湯、湯船のふちからひたひたと溢れ出すお湯。この至福のひとときを追求したのが、この様式。
 目からも耳からも楽しめるのはよいのだが、エアロゾルをまき散らすようなもので、レジオネラ対策の点からいっても、大いに問題がありそうだ。

須川温泉
須川高原温泉
ioc#110
源泉上部投入
オーバーフロー

循環なし

 源泉掛け流しの典型的なイメージといえば、このタイプでしょ。しかも、豊富な湯量で泉源近くとなると、須川温泉がまず浮かぶ。千人風呂の豪快さといったら、ワタシを捕らえて離さない。
 その他、たくさんの「源泉掛け流し」のお湯を、「東北の秘湯」でレポートしているので、よろしかったら、どうぞご覧くださいな。

松之山温泉
凌雲閣
ioc#111
源泉上部投入
オーバーフロー環水

循環湯上部投入

 凌雲閣大浴場の湯口は二つ。一つは飲泉可能な熱々の源泉。もう一つは、適温の飲めないお湯。そりゃ、もうすぐに分かるよね。後者は低い位置に設けられており、エアロゾルの発生を少なくしようとの意図が感じられて好ましい。
 また、ダンナによると男湯ではオーバーフロー環水がおこなわれていて、浴槽へりに溝が切ってあるのだそうだ。あわてて撮ってきた写真を確認すると、やはり小さな女湯にはない。
 それでも、匂いといい、お味といい、存在感は十分だ。

松之山温泉
鷹の湯
ioc#112
源泉上部投入
オーバーフロー

循環湯側壁吐出

 松之山温泉はジオプレッシャー型に分類されるという。ということは、いつかは涸れる。湯量も細ってきているようだ。この温泉地を代表する共同浴場「鷹の湯」からして、お湯の供給が追いつかないのだろうか?
 飲泉可能・オーバーフローのこの形式は、それこそ、聞いてみなくちゃ分からない。ちなみに、小さな露天は循環なしの源泉そのまま。

燕温泉
樺太館
ioc#120
源泉上部投入
バスカルの穴より大気圧にて自然排湯

循環なし

 ちょっと見に、循環かと思ったのがこの形式。ところが、樺太館は源泉掛け流しで、パスカルの穴に危うくだまされるところだった。
 洗い場で転ばないようにとの配慮から、この形式にしているそうだ。しかし、湯面に浮かぶ皮脂・毛髪類が洗い出されることがないので、一考を要するところ。

草津温泉
日新館
ioc#130
源泉上部投入
オーバーフロー+バスカルの穴より大気圧にて自然排湯

循環なし

 こんなに凝った造りをもつのが草津温泉最古のお宿、日新館。代々、湯守を務めてきたという。「パスカルの穴」なるものを教えてくれた、ワタシにとっては特筆すべきお風呂。
 浴槽内に上下方向の新たなお湯の流れをつくり、お湯の入れ替えの促進を図っているそうだ。

蔦温泉
蔦温泉旅館
ioc#210
底部湧出源泉
オーバーフロー

循環なし

 底部から湧き出すお湯に豪快さこそ感じることはないのだが、新鮮なお湯にこだわるならば、このタイプに勝るものなし。何しろパイプでお湯を引っ張りまわしていないのだから。
 底部は玉砂利・板・岩盤といくつかある。足裏のツボを押さえているようで、玉砂利の鶴の湯露天もよいのだけれど、造りとしては、やっぱり板敷きの蔦温泉の方が好き。 

明治温泉 ioc#211
源泉浴槽内投入
オーバーフロー

循環湯上部投入

 「大浴場のお湯は濾過しているので透明です」との表示に、何やらうさん臭いものを嗅ぎとった。
冷鉱泉なので、加熱した上、濾過だけおこなっているとは信じられないでしょ?
 浴槽内を調べてみると、底部の正方形のスリットから、コンスタントにお湯が吸引されている。壁面の穴付近だけ茶褐色。ここから源泉投入されており、ずいぶん冷たい。

甲子温泉
大黒屋
ioc#310
源泉上部投入+底部湧出源泉
オーバーフロー

循環なし

 一番風呂はなぜ温まらない? 何かの本で読んだのだけど、熱い湯玉とめるい湯玉が混在し、湯温が均等化していないからとか。熱い湯玉で熱さを感じ、その実、身体が受け取る熱量は少ないというもの。ひょっとすると、とがった感じのするお湯も、こんなところに一因あるかも知れないね。
 ということは、底部からのお湯の流れを追加したなら、湯温の均等化が促進されてよさそう、あるいは悪そう。どっちなんだろ? ちなみに、甲子温泉では、底部から湯温低めの温泉が湧き出していた。

エピローグ

●湯守のおじさんをよく見かけた関東の温泉
那須湯本温泉「鹿の湯」
奥鬼怒温泉郷「加仁湯」
芦之湯温泉「松坂屋本店」


ioc#分類テータ(整理中)

 源泉掛け流しの温泉宿をひたすら求めて通っていたので、循環風呂はあまり知らない。というのは決して正しくないだろう。カルキ臭かったり、アンモニア臭かったりして、書く気になれなかっただけのこと。
 田沢温泉「有乳湯」で見た水質検査報告書がきっかけとなり、レジオネラ菌、さらには循環ろ過システムにつき、大いに勉強させてもらったが、なるほど、そういうことだったのか! と、妙に納得していたりする。

 近頃の循環風呂では、タッチパネルでビッビッビッと、お湯の管理ができるとか。便利になったものだが、不機嫌そうなお湯の表情を見ることはない。システムがすべてお湯の管理をしてくれて、その必要がないのだから。
 一方、湯守のおじさんは、たびたび女風呂にも顔を出し、迷惑がられる。素知らぬ顔して、湯船の温度を調べていくのだ。そして、湯口をチョコッといじってみたり、散らかった桶など片付けながら、姿をかくす。もちろん、色や匂いも含めて、お湯の表情を観察してるに違いない。

 お湯と人とのお付き合い、すでにこんなところからして始まっている。

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