郡山、福島盆地を貫いて、仙台湾に注ぎ込む阿武隈川の源流に、この温泉は湧く。つまりは、福島県の命の水だが、諸事万端、ことの始まりとはいかにも心細いものなのだ。奥の奥はさすがに細道、交互通行の信号機がある。
「世の中に 蚊ほどうるさき ものはなし ぶんぶというて 夜もねられず」と、寛政の改革を揶揄(やゆ)された白河藩主松平定信の別荘「勝花亭」は未だ健在。宿泊も可能である。
崖っぷちに建つ勝花亭から見下ろすと、川向こうに建つ湯小屋がほんとに小さく見える。こりゃ、風呂場まで行く道のりが、おっくうになるのも当然だわ〜。
館内から階段下りて、勾配つきの地下通路を通り抜け、長い階段を下り終えたかと思うと、いったん外へ出、鉄板敷きの橋を渡って、やっとのことでたどり着く。雨の日は傘をさして橋を渡ることになる。
ふだんなら、宿に着いて4〜5回は風呂場に向かうワタシだが、今回は、たったの3回という結果。10年後には1回になっているかも知れないな。足腰、鍛えるしかないね。
大浴場は混浴ながら、20:00〜21:00と、5:00〜6:00の都合2時間、女性専用となる。そもそも、夜8時といえば、夕食後のおくつろぎタイム。だから、たいていお風呂もすいている。
にもかかわらず、夜の8時に訪ねてみると、宿泊中の女性全員が集まったかと思われるほどの人数。ねぐらに戻ったカラス同様、夜の大集合がここでは見られる。もちろん、女性専用風呂とは比べものにならない大きな湯船がお目当てだ。湯船には満々とたたえられた無色透明のお湯。
キシキシきしみを立てつつ、お風呂の中でお肌をさすると、足裏を冷たい水がときどきかすめる。岩風呂の底から清水が湧き出している。湯船の底からお湯が湧き出すお風呂は蔦温泉、鶴の湯、木賊と知ってはいるが、清水湧き出すお風呂は初めて。
いや、実は、清水ではなく28度の泉温有する低温泉なのだ。湯口から注ぎ込むお湯は44度と熱めだが、ちょうど、ほどよい湯温となる仕組み。しかも、上がり湯は35度というから、いくつもの泉源を持っているに違いない。どこを掘っても温泉が湧くんだろうね〜。
一度だけの入浴じゃ、もったいないので朝5時に、一番風呂目指して、はるばる足を運んでみると、昨夜と同じメンバーが全員集合! みんな考えることはおんなじなんだ・・・。
全員がお風呂に浸かったところで、肩が触れ合うこともなく、深くて広い湯船が快適。
山奥の秘湯といえば、お湯さえよければ、設備そこそこであったところで文句は言えない。しかし、近頃ではいささか事情が異なっている。ここ、大黒屋のお食事処もこぎれいな、こじゃれた造りになっている。
工夫が見られる朝夕食の一品は、薄めの味付け好ましく、分量もよく、見た目も決して悪くない。なのに、やはり食べ残しだけは出るようだ。
屋外の自販機前に置かれた残飯あさりにくるテンを、冷えた清水を飲みながら、ロビーのソファに腰掛けて、ゆっくりながめる。次から次へとやってくるテンに驚き、さすがに目が点。もちろん10頭ばかりいたはずだ。ハハッ!
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