「木賊」 これを「トクサ」と読めるのは温泉好きだけだろう。会津高原最奥に広がる、のどかな田園地帯を、標識をたよりに進むと、木賊温泉に入る。川と並行する道沿いに、ポツポツと温泉宿がある。川の反対側では、田起こしが続けられている。
農作業の風景を尻目に、谷底に下ると、目指す井筒屋がある。駅前旅館がそうであったかのような大きなガラス戸を、大きな音を立てながら引き、声をかけてもだれも出てきやしない。やっと出てきたおばあちゃん。「名物の露天へ入ったら?」と、まるで営業意欲なしである。そこを頼み込んで、内風呂をつかわせてもらった。
狭い階段を下ると、途中に狭い脱衣場がある。これじゃ、何人も入れないぞと思いながら、浴室の扉を開く。
川沿いの岩風呂は、露天同様、やはり水面スレスレ。窓を開放すると、さわやかな薫風が吹きぬける。硫黄のにおいはまったくしないから、単純泉なのかも知れない。岩盤からは、小さな気泡がポワポワと舞い上がってくる。痔主のダンナに、その上に座ることを勧めたが、ちょっと熱かったらしい。
訪れたのは風薫る五月であったが、秋の紅葉はもっとすばらしいものに違いない。
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