わがまま温泉日記 お風呂の科学

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源泉かけ流しと循環
塩素投入条例
泉源から湯船まで
温泉法 vs 公衆浴場法


当世レジオネラ考

風呂ローグ


在郷軍人病

なぜ「当世」なのかというと、実は15年近くも前にワタシは、とある本を読んでいて、ビル屋上から飛散してくる冷却水を異様に恐れていたからだ。
まさか、アレがコレだったとは・・・。

バートン=ルーチェ著
推理する医学」西村書店
第21章バインヤードの雨の日

 死者まで発生したレジオネラ菌騒動により、いわゆる「循環風呂」の危険性が声高に叫ばれている。いずれも管理の悪さが背景にあるようで、一概に「循環」だからダメ! と言うのも考えもの。

田沢温泉有乳湯 それよりワタシは、消毒用の塩素投入が過度になされるおそれの方が気にかかる。水道水にも含まれる、塩素はかつての毒ガス兵器。何でも、細胞膜を破壊するのだそうだ。つまりは、お肌の老化を早めるとのこと。
 そのせいか、温泉地の共同浴場で見かける地元のバッチャン。お歳のわりに、みずみずしいお肌といったら、うらやましくなる。
 アトピーの外因ではないかと疑われている物質には、ハウスダストをはじめとして、食品添加物やら、虫歯治療剤やら、魚介類に至るまで、百家鳴争。ここにも、塩素が顔を出すのだ。

 やはり、お風呂は「源泉掛け流し」に限るようだが、都会暮らしの身にとって、そんな温泉どこにある? 思わず、ぼやきの一つもこぼしたくなる。

レジオネラ属菌
24時間循環風呂
塩素消毒
循環ろ過装置

生物浄化方式
 当世レジオネラ考
レジオネラ属菌

●なぜ、免疫力の弱った身体にダメージを与えるのだろう? 体内にバイオフィルム様の膜ができ、レジオネラ菌が寄生する宿主がたくさん潜んでいるからだろうか。

●霊泉寺温泉の一件は「みしゅらん」掲示板の過去ログ、「温泉の科学」でおなじみのやませみさんの10/10付投稿をごらん下さい。

●Thanks to Mr.Yamasemi
感染確率は喫煙と相関があるそうですから、そのせいかと思います。

 レジオネラ属菌(わずらわしいので、以下、単にレジオネラと呼ぶ)による、感染発症形態は肺炎である。単なる風邪だと思い込み、抗生物質の投与が遅れて死に至るケースが多いというのが、いかにも悔しい。やはり、危険性だけは十分認識しておくべきだ。

 感染発症しやすいのは、高齢者・乳幼児等、免疫力の弱っている人たち。女性よりも男性のレジオネラ肺炎発症率が高いのが、不思議といえば不思議・・・。染色体が1本異なるせいであろうか、そうだとしたら「Yの悲劇」に違いない。
 もちろん、肺炎を引き起こすのだから、レジオネラは気管に吸入される。どうやって? 何でも、汚染されたお湯がエアロゾルという超微粒子状になったところから吸い込まれるという。つまりは、飛沫飛び散る、気泡湯・打たせ湯・シャワー、それに加えて、高所に設けられた湯口付近は危険ということ。

 その繁殖は、バイオフィルムと呼ばれる、たんぱく質やら脂質やら、養分に富むヌメリ地でおこなわれる。ここには菌類を食すアメーバなどの原生動物が棲息し、レジオネラはその体内に寄生繁殖するという。しかも、アメーバから離れて、お湯の中でも生きていける。そのたくましさには驚くばかり。
 お湯の中に含まれるレジオネラは一つの表出形態であって、バイオフィルムこそがその根源。ならば、ろ過器・配管パイプ・浴室と、そのいずれもが繁殖地。お湯をきれいにするはずの、ろ過器が繁殖地だとは何とも皮肉。
 しかも、「源泉掛け流しなので安心」ということには決してならない。源泉掛け流しの霊泉寺温泉共同浴場でも、先月(Oct.02)レジオネラは検出された。どうやら浴槽まわりが汚れていたんだそうだ。
 そこで、厚生労働省の指針においても、消毒はもとより、特に、24時間循環風呂では、1週間に1回以上の清掃・換水・洗浄の励行が記されている。えっ、1週間にたったの1回・・・。

試 料 検 査
試料数
検 出
試料数
検出率
(%)
検出菌数
(CFU/100ml)
冷却塔水 246 125 50.8 4.0×100〜5.0×104
給湯水 80 7 8.8 4.0×100〜1.7×102
修景用水 95 19 20.0 2.0×100〜3.8×103
浴槽水 97 80 82.5 2.0×100〜4.6×105
温泉水 20 6 30.0 2.0×100〜3.6×101
雑用水 73 5 6.8 2.0×100〜6.0×102
プール水 76 1 1.3 1.0×102
データが古いとはいえ、浴槽水からの検出率には驚く
ばかり。温泉水では検出率こそ高いのだが、検出菌数
はかなり少なく、それほど気にすることもないレベル。
 各種水試料からのレジオネラ属菌の検出状況を示しているのが右の表。レジオネラは大腸菌同様、どこにでも存在している。冷却塔水・給湯水・噴水などの修景用水・浴槽水から土の中に至るまで・・・。そして、大腸菌ほどの繁殖力もない。
 過度に恐れる必要もないが、その危険性だけは認識しておいた方がよい。キーワードは次の三つにありそうだ。
  ・免疫力
  ・エアロゾル
  ・バイオフィルム


24時間循環風呂

●CFUというのは「コロニー形成単位」の略。培養の結果、生じたコロニー(菌の集団)1つが菌1つに対応するものとして計数する。

 次のデータは、東京都立衛生研究所による「浴槽水からのレジオネラ検出状況」から引用したもの。24時間風呂が軒並み高い検出率を示しているのが分かる。どうやら、換水が行われないところに大きな原因がありそうだ。

調査
年次
試料 検出
件数
検出率
(%)
検出菌数
(CFU/100mL)
備考
1995 11 9 81.8 1.8×102〜1.0×105 個人24時間風呂
1996 179 138 77.1 2.0×100〜6.8×105 個人24時間風呂
30 0 0.0   個人一般風呂
1997 156 128 82.1 4.0×100〜1.1×106 個人24時間風呂
1998 22 11 50.0 1.0×101〜2.4×104 個人24時間風呂
94 59 62.8 1.0×101〜4.2×104 特養施設24時間風呂
21 7 33.3 1.6×101〜8.9×104 特養施設循環風呂
34 0 0.0   特養施設一般風呂
1999 7 6 85.7 9.4×102〜1.5×106 個人24時間風呂
110 35 31.8 2.0×100〜3.6×105 特養施設24時間風呂
10 3 30.0 2.0×100〜2.8×103 特養施設循環風呂
5 0 0.0   特養施設一般風呂
2000 213 87 40.8 2.0×100〜4.2×105 公衆浴場、施設風呂等
2 1 50.0 3.3×106 個人24時間風呂
個人24h風呂
 衛生管理の悪さを物語るデータでしかない。きっと、ご当人もゾッとなされたことだろう。

●特養施設
 検出率を比べてみると、98年が62.8%、99年が31.8%と半減している。日ごろのお手入れ次第で、レジオネラを封じ込めることは可能と読んだが、塩素系薬剤の大量投入によるものなら、ことの本質を見誤っていると言わざるを得ない。いわば、原因が分かっているにもかかわらず、対症療法をおこなっているようなもの。

●公衆浴場・施設風呂等
 試料数も213と多いので、データとしての価値は高いが、何とも残念なことに、検出率は40%にもなる。公衆浴場、いわゆる銭湯のデータを除いてみると、検出率はさらに高まることが容易に予想できる。なぜなら、銭湯では毎日換水が義務づけられているそうだから。
 さて、その検出菌数であるが、水質基準が10CFU未満/100mLであるところ、2CFU〜420,000CFUと幅がある。これほど、違いが出るものならば、施設を選ぶ必要がありそうだ。日頃の手入れもできない施設なら、淘汰されても仕方がないね。


塩素消毒

●紫外線照射による殺菌と塩素消毒の併用も多くの施設でなされているようです。

 ろ過器の付かない循環風呂など、あり得ない。ろ過器がレジオネラの巣になっているのだから、消毒だって欠かせない。消毒方法には次の通り、いくつかの形態があるのだが、経済性を追い求めるなら、おのずと方式は限られてくる。
pH HClO
(%)
99.9%殺菌時の
CT値(0.5mg/l時)
6.00 96.9  
6.25 94.7  
6.50 90.9  
6.75 84.9  
7.00 76.0  0.3以下
7.25 64.0  
7.50 50.0  
7.75 36.0  
8.00 24.0  0.3以下
8.25 15.1  
8.50 9.1  0.4
8.75 5.3  
9.00 3.1  1.0
9.25 1.7  
9.50 1.0  2.5
9.75 0.6  
10.00 0.3 23.0
  ・塩素薬剤
  ・オゾン
  ・紫外線
  ・銀イオン、銀・銅イオン
  ・光触媒

 しかも、塩素薬剤以外の方式では、消毒効果に残留性がないため、当局では塩素薬剤による消毒を強く薦める。そこで、塩素が殺菌するかと思いきや、次亜塩素酸こそ、殺菌をつかさどる主成分。

 塩素+水分→次亜塩素酸+次亜塩素酸イオン

 ところで、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの殺菌力は100:1にもなるそうだ。右の表は、厚生労働省の「レジオネラ症の知識と浴場の衛生管理」と題するページから、「pHとHClOとの関係及び殺菌効果との関係」に関するデータを引用したもの。
 HClO(%)の項目は次亜塩素酸の割合を表している。そこで、100:1の殺菌力と成分の構成比を組み合わせ、pHの異なる温泉における殺菌力を比べてみると、

・pH6.0 のとき  100*96.9+1*(100-96.9)=9693.1
・pH10.0 のとき  100*0.3+1*(100-0.3)=129.7

となり、実に、75倍もの違いが生じる。

 pH値が高まるにつれ、次亜塩素酸の割合が低くなるため、殺菌作用が弱くなる。アルカリ性泉を循環利用している施設では、塩素投入量を75倍に増やすしかないとしたなら、次亜塩素酸イオン泉にでも浸かることになり、こりゃ大変だ・・・。


循環ろ過装置

●右の図は厚労省「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」よりいただいたもの。実物の写真や図面は竹村製作所のものがよく分かる。

「mg/L」という単位、水は1L=1000gなので「ppm」表示と同じことになる。

●Thanks to Mr.Yamasemi
「浴槽水中の遊離残留塩素濃度を1日2時間以上0.2〜0.4mg/Lに保つこと」
 ここが肝心なのに、一般には勘違いされているところでしょう。消毒剤の注入は、湯ではなく、浴槽や濾過装置を殺菌するためなのです。(ここが水道水での目的と決定的に異なる)
 常にカルキ臭い湯に保つ必要は全然なくて、終業後の洗浄時間にすればよいのです。最近やっと理解されてきたようで、循環施設でもカルキ臭のないところが増えてきたように思います。

 ところで、水道代や燃料代の節約になるという「循環風呂」とは、一体どのような構造をしているものやら興味津々。そこで、早速調べてみると、



というのが、基本構造。

▼集毛器 ヘアキャッチャーともいう。ポンプの羽にからまっては大変なので、その前に置くんだろうね。
▼循環ポンプ 浴槽のお湯を1回転/h以上が推奨値。1.5〜3回転の施設が多い。
●消毒薬剤注入装置 浴槽水中の遊離残留塩素濃度を1日2時間以上0.20.4mg/Lに保つこととある。ちなみに、水道水は蛇口で0.1ppm以上。化学浄化方式といえるが、なぜに集毛器の前に置かないんだろう? もちろん、生物浄化システムを活かすためには、紫外線やオゾンを用いた滅菌器でなくてはならない。
▼ろ過器 「物理ろ過」と「生物浄化」をおこなう。
▼加熱器 熱交換器となっていることもあるが、最後に加熱するところが何とも合理的。

 このシステムにおいて、バイオフィルム生成の危険性の特に高い箇所が「集毛器」と「ろ過器」なんだそうである。特に、「生物浄化方式」をとる「ろ過器」では、微生物によって汚れたお湯の有機物を分解するので、レジオネラが寄生する宿主には、こと欠かないのだ。そこで、水流を逆転させて、ろ材の汚れを洗い流す「逆洗」という方法で、システムの洗浄をおこなう。ちなみに、メーカーの説明にはこうある。

 「ろ過運転タイマーと逆洗タイマーを設定すると、後は自動的にろ過運転・逆洗運転を行います。逆洗運転は、あらかじめプログラムで設定した時間に、自動的に行 います。」

バイオフィルム 手間もかからず簡単そうだが、それでもバイオフィルムの完全除去は難しいとか。右の図は、消毒・清掃前と後のようすをイメージしたもの。お湯はきれいになったとしても、バイオフィルムを除去しない限り、根っこは残っていることを忘れてはならない。
 そこで、二酸化塩素を注入洗浄することで大丈夫と、アピールしている業者もあるが、「効果のほどは定かではない」というのがお上の見解。


生物浄化方式

●「水の科学エッセイ」という素敵なHPをご紹介します。興味を持ったら読んでみてね!

 わが家でも、「お上」というのは煙たがられる。つまりは、ワタシのことではあるが、お上の指示に従うだけでは、わが家のみならず、循環風呂にも未来はなさそう。
 そもそも、温泉で語られるのは療養効果。にもかかわらず、自宅の水道水以上の塩素を含むお湯に浸かるというのは、ちょっと変。そこで、思いついたのが、「塩素消毒なんぞなければよいのだ」という視点。
 ちなみに、ろ過というのは、

   ・物理ろ過・・・ヘアキャッチャー & ろ過器
   ・生物浄化・・・ろ過器における有機物の分解
   ・化学浄化・・・塩素薬剤の注入 or 滅菌器

とおこなわれるのが、先にも見たとおり通常の形態だよね。さて、ここで取り上げるのが生物浄化。なにしろ、塩素消毒の必要がないというのだから、動いた食指が止まらない。
 ワタシたちが浸かったお湯には、皮脂などの有機物が汚れとなって混入している。これらの有機物をエサとする微生物を、ろ過器内で繁殖させ、有機物を分解させているのが「生物浄化方式」。もちろん、レジオネラ菌や大腸菌などの病原菌まで分解してくれる、浄水場でも採っている代表的な方法なのだ。もちろん、規模は全然ちがうが・・・。

 そこで、浄水場で採られている方式につき、もう少し詳しくみてみよう。戦前は「緩速」ろ過方式が主流であったところ、経済成長の進展にともなう水需要の増大に対応するため、「急速」ろ過方式が普及した。違いは次の通り流量にある。「1日あたり」と「1時間あたり」とでは、実におよそ24倍もの違いに相当する。

運転方法 物理ろ過 生物浄化 化学浄化
緩速ろ過方式 4〜5m/日 塩素
急速ろ過方式 5m/時 塩素
高度浄水処理 急速ろ過と併用 オゾン+塩素

 急速ろ過では、生物浄化もさすがにうまくは機能せず、塩素消毒が必須だという。「蛇口で0.1ppm以上の残留塩素」との基準を満たすために塩素注入がなされる緩速ろ過とは次元の異なるお話なのだ。

 さてと、話を循環風呂にもどしてみると、滝のように流れ落ちるお湯はもちろん、緩速ろ過でないことは明らか。しかも、厚労省の水質基準からして、1時間に浴槽水1回転以上となっているので、急速ろ過以上の流量であることは、容易に想像できる。つまりは、生物浄化方式は、採ろうにも徒労に終わる基準じゃないの。流量が多すぎては、微生物だって、水溜りでのんびりお食事できないよ。
 しかも、残留性の観点から、塩素注入を好ましいとしていることは、さっき、読んだところだよね。塩素消毒が大腸菌とレジオネラ菌だけに効くとは聞いたこともない。あらゆるものに普遍的に効くはずだ。ということは、有機物を分解してくれる微生物まで殺してしまう。つまりは「ろ過器」を壊していることにはならないだろうか?

 こうみてくると、生物浄化方式のデリケートな側面が浮かび上がってくる。塩素を注入したお湯で、果たして「ろ過器」はその能力を発揮しているのか? ひょっとして、デフレスパイラルのような負の連鎖に陥っているのではないかと、思わず考え込んでしまうのだ。

×塩素注入あり→生物浄化不良→バイオフィルム生成あり→逆洗・消毒
○塩素注入なし→生物浄化良好→バイオフィルム生成なし→滅菌器で消毒

といった、構図を思い描いてしまうのは、果たして、このワタシだけであろうか・・・。
 どこのメーカーのチャートを見ても、塩素注入装置はない。あるのは、最終段階における紫外線あるいはオゾンによる滅菌器なのだ。そもそも、システムとして塩素注入は考えられてはいないのだから、その通りやってみたなら、どうだろう? たとえ、お上の基準に従ったとして、訴訟の際の免責事由にしかならない。あっ、それが大きいのか・・・。

 温泉は二つとして同じ表情を示すものがないという。そこに、ジャパニーズ・スタンダードをもって、みな一律に、お上は網をかけていく。循環風呂から殺菌力もつ硫黄泉に至るまで、みな一律の基準が果たして妥当なものか。
 結局のところ、残留塩素濃度は基準値に至らなくとも、レジオネラをはじめとする病原菌が健康に害を及ぼすほどでなければ許せるよ。いわば、All or Nothing のデジタル感覚ではなく、多い少ないのアナログ感覚で、天地の恵みと折り合いをつけていきたいものである。

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