[[[ サロマンブルーを目指して・・・ ]]]
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もしも、リタイヤしてしまったら?


プレッシャーを感じることなんて、殆ど無かった。『もしも達成できなかったら、旅行費出してね!』なんて冗談を言う人も居たが、大丈夫、大丈夫と受け流してきた。それが突然、身体が硬くなってきた。これだけ仲間にお膳立てして貰い、サロマンブルー達成の襷まで掛けて、走ってきたのに、ここで何かのアクシデントでリタイヤしてしまったら、どうなるのだろう? 来年、またやり直し? 1年間待ちに待って、この日を迎えたのに? 10年連続ノーミスで達成するという目標は? いや、この際、そんな自分の気持ちはどうでも良い。それよりも重要なのは、仲間たちの思い!だ。きっと優しい仲町たちの事だから、気を使って慰めてくれるのだろう。『また来年頑張れば・・・』とか、言って励ましてくれるのかもしれないが、きっと内心は、『せっかくの企画が台無しじゃん!』って事になるだろう。せっかくの打上げの席も暗く沈む? 深く考えるのが怖くなってきた。今年だけは、100%完走しなければならない。99.99%では駄目だ。100%でなければ… そんな事を考え始めたら、走るのが急に怖くなってきた。

ここから先、考えられるアクシデントは転倒くらいだ。転ばなければ何とかなる。肉離れが起こるようなスピードは、もはや出ないし、この状況でアキレス腱が切れる事もないだろう。お腹が痛くなってトイレに何度駆け込んでも時間はたっぷりとある。しかし転倒だけは、まずい。この疲労困憊の状況で大きく躓いて、転倒でもしたら、受け身なんて取れる筈が無い。骨折でもしようものなら、根性だけではどうにもならない。走るのが怖い…

脚は随分と前からボロボロの状態なので、摺り足になっていた。摺り足で走っているので、何度か路面の凹凸に引っかかる事があった。それでも、ここまでは、あまり気にしていなかった。それが、この瞬間から気になり始めた。路面のうねり、アスファルトのつなぎ目、挙句の果てには小石でさえも、大きな障害物のように感じた。摺り足でしか、運ぶことのできない足を無理に引き上げようとするために、動きは余計ぎこちなくなる。1歩1歩踏み出すのが、すごく大変なことのように感じていた。あと何回足を踏み出せば、ゴールにたどり着けるのだろう? 本当に走るのが怖い…

  
  fukuさん

そんな憂鬱な気分を変えてくれたのは、仲間の存在だった。赴任している中国からサロマへ参加するために、帰国していたfukuさんとすれ違い、写真を撮ってもらった瞬間、足運びへの意識がふと薄れた。お互いの存在を確認し、頑張っているのは自分だけではない、仲間たちも皆、同じゴールを目指して頑張っているんだ。そう思ったら、足に掛かっていた緊張が解けた気がした。『今まで一度だって転倒などしたこと無いじゃないか!』過去の自分が叱咤激励する。サロマだけでなく、レースでは一度も転倒したことはない。こんなところで転ぶ筈などないのだ。自分にそう言い聞かせて走りだした。


  
  fukuさんに撮ってもらった1枚

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写真協力:M.fukuda
※レース中の写真は本人が撮影したのではなく、M.fukudaさんの写真を使わせて頂いています。