[[[ サロマンブルーを目指して・・・ ]]]
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<Part7> <Part8> <Part9> <Part10> <番外> <エピローグ>

競走から共走へ・・・


だらだらと続いた長い上り坂を終えると、サロマ湖に向かう下り坂が現れる。緩やかな坂を静かに下り、ふたたび鮮やかなサロマンブルーに直面する。湖畔沿いのコースの彼方に、エイドの青いテントが見えてきた。60km地点到達。通過タイムは、5時間57分57 秒。この10kmは実に1時間9分25秒も掛かった事になる。トイレの休憩も、特別長いエイドロスもなかった筈なのに。。。だ。

サブ10を達成するには、10km60分。つまりは1km6分を維持していかなければならない。エイドでのロスも含めて、このペースを維持するには、走行ペースは1km5分30秒では遅い。エイドでのロスタイムが増えつつある、この状況下では1km5分そこそこのペースが求められる。前半ならば、問題ないペースだと思うが、ここまでくると辛い。記録だけを追い求め、イチかバチかの勝負を賭けたら、可能性はゼロではないと思うが、完走最優先のレースだけに、そんなリスクは冒せない。いや冒す勇気がない。60km通過地点で、気持ちを切り替えた。ペースにこだわらず、完走だけを目指そうと・・・ この瞬間から、記録を競い合う競走が、皆で共に完走しよう!という共走へと変わっていった。

60km地点を過ぎて湖畔のコースから離れ、コース中、最後とも言える坂道らしい坂道を上り、左へ折れてキムアネップ岬へと向かう農道に入る。とても静かな場所だ。牧場の前を通り、坂を下り、右カーブしながら道なりに進むと、右手に大きな駐車場が現れる。応援隊またも登場。調子を聞かれるが即答はできず、トイレへと駆け込んだ。このレース2度目の便意警報が発令されていたのだ。幸いにも待ち行列はなく、作業時間のみでコースに復帰した。応援隊に大丈夫か?と聞かれたので、『完走はする!でも記録は無理っぽい』と答えると、記録なんて狙うな!と言われた。

  

キムアネップ岬のエリアを走り、魔女の森へ差し掛かる手前に2つ目のスペシャルエイドステーションが現れる。距離にすると64km付近。ここでも派手な装飾をつけたペットボトルを受取り、ガムテープを剥がして中身を取りだした。中身はパワージェルに、ハチミツに、スニッカーズ。とりあえず全て背中のポケットにしまい、通常のエイドにある、給水・給食・被り水を一通り行ってコースに復帰した。ペットボトルに取りつけられたタグには、『サロマンブルーまであと35km』の文字。965km/1000kmまで来た。あと少しだ。

  

魔女の森は、サロマのコース中で唯一と言ってよい日陰のエリアだ。吹き抜ける風が涼しく、優雅に散歩でもしたら、とても気持ちの良いところだろうなぁといつも思うのだが、レースとなるとそうはいかない。魔女の森という名前は、ここのエリアに来ると、森に棲む魔女がランナーに歩けと囁き、その呪文に掛かって、多くのランナーが歩きだしてしまうと言う上岡竜太郎氏が本で書いていた事に由来する。そんな幻想を抱くほど、走るのが辛くなってくる位置なのだ。『負けてたまるか!』という反骨心から、これまでのレースでは幾度となく走りぬけたものだったが、今年は魔女の囁きを聞くまでもなく、自ら進んで歩きだした。スペシャルで受け取ったスニッカーズの封を切り、味わいながら食べ歩きした。もう記録は気にしなくてもよい。気にすべき事は、いかに完走するか!その一点である。再び低血糖を起こさぬよう、予防として糖分の摂取に努めた。ここから先、もっとも怖いのはアクシデントである。躓いて転んだり、歩道から足を踏み外したり、そういった事による怪我が一番怖い。身体が思うように動かなくなり始めた今、せめて判断力だけは正常でなければならない。そのためには脳に栄養を行きわたらせなければならないのだ。

  

1kmほどでスニッカーズを食べ終えた。ゆるゆると走りだすと、横にならんだ女性ランナーとペースが一致した。こちらは、成り行きのペースで走っているので、ペースの調整はしていない。横に並んだ女性は、私の半歩後ろに下がり、ずっと足音を響かせていた。魔女の森を抜け、大量旗が掲げられた住吉邸にたどり着くと、ご主人の予想に反して私設エイドが設営されていた。いつものように立ち寄り、給水させて頂く。水を飲み干し、ふぅーっとため息をつくと、先ほどまで並走していた女性ランナーも深いため息をついていた。大した事はない偶然だが、みな疲れているのは同じだと言う事が確認できただけで、なんとなく嬉しかった。

  

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写真協力:M.fukuda
※レース中の写真は本人が撮影したのではなく、M.fukudaさんの写真を使わせて頂いています。