[[[ サロマンブルーを目指して・・・ ]]]
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自分のために走りだし、誰かのためにゴールする


サロマンブルーと言う称号にあこがれて!
サロマンブルーの特典に惹かれて!!
それが切っ掛けだったサロマンブルーへの挑戦。最初は自分の欲求を満たすだけのものだった。ところが完走を積み重ね、もう一息と言うところまで近づいてきたら、サロマンブルーのゴール地点は自分の為だけではないと言う事に気づかされた。そんな瞬間が訪れる。『自分のために走りだし、誰かのためにゴールする』 何年か前の大会キャッチフレーズだった。

オホーツク海とサロマ湖を隔てる役目をしている、ワッカ原生花園。その中の1本道には果てしなく長いランナーの列が繋がっている。すれ違うランナーは残り数キロ。こちらは20キロ近く残している。苦悶の表情を浮かべながら、折り返し地点へと向かうランナーと、達成感を滲ませながら戻ってくるランナー。鬼と仏の分岐点(折り返し地点)が、このワッカ原生花園の奥に存在する。戻ってくるランナーへ視線を配りながら走っていると、またしても見慣れたユニフォーム姿。同行メンバーの一人である、でんでんさんだ。仲間内ではトップである。いつものようにハイタッチをして通り過ぎようとしたら、呼び止められた。

  

そして、そこから先は。。。なすがまま。。。されるがまま。。。
気がつけば、肩から大きな襷を掛けられていた。襷の背中部分には、サロマ同行メンバーの寄せ書きがあるようだが、襷が落ちないように、との配慮で、肩の部分を安全ピンで止められていて、今は読む事ができない。胸の部分には『もうすぐサロマンブルー』の大きな文字。選挙演説する時に付けるような大きな襷なので、とてもよく目立つ。

 
襷の表部分                     襷背中部分には寄せ書きが・・・(涙)

『そう来たかぁ~』
サプライズ好きな?仲間たちの事だから、サロマンブルーが掛かっていると言う事で何かあるんじゃないか?という期待?(不安?)を僅かながら持ち合わせていたが、ここで襷!というのは想定外だった。きっとバレないように、コソコソと寄せ書きをしたのだろうなぁ~などと、仲間たちの行動を想像すると、その気持ちが凄く嬉しかった。これがゴール間近だったら、間違いなく涙!そんなシチュエーションだったに違いない。でも、ここはまだ85km付近。まだまだ先は長く、険しい。涙を流せる状況ではなかった。仲間の思いを絶対、無駄にできない。サロマンブルー達成は自分だけのものでは、なくなってきた気がした。

暫く走っていると、すれ違うランナーが、こちらを見て、にやけ笑いを浮かべているのが感じ取れた。明らかに視線は襷に向けられている。
【襷をつけたランナーがやってくる】→【何て書いてあるんだろ】→【なるほどねー】→【ニヤっ】
『サロマンブルーおめでとう!』と言ってくれたら、こちらは、それに応える準備は出来ているのだが、襷の文字に目をやり、次の瞬間、にやけ笑いを浮かべる。これだと、どう反応したら良いのか非常に困る。すれ違うランナーの思考を考察すると、こういう事だろう。『残り15km以上もあるのに、まだ早いんじゃないか?』、 『折り返してからでも遅くはないだろう』、 『まだ何があるか分かんないぞ!!』

確かにそうだ。まだ『もうすぐ』というには早すぎる。それは承知している。これは自分で付けたんじゃないんだぁ!!と弁明したいが、イチイチそんな事は、言っていられない。同行メンバーで先行している人は、もういない筈なので、折り返すまで外しちゃおうか?と悪魔が囁いたが、襷が安全ピンでしっかりと固定されているので、簡単には外す事ができない。このまま行くしかないのだ。ワッカネイチャーセンター遊歩道との交差点に応援隊が登場したので、『こんなのもらっちゃった』と言うと、『そうだよ!』との応え。なんだ妻も知っていたのか? 釈然としない気持ちを抱えながら、鬼が仏に変わる分岐点へと足を運んだ。

  
  
サラリーマンとすれ違ってる

すれ違うランナーの、にやけた視線にようやく慣れてきた頃、折り返しまでの距離表示が現れた。折り返し地点まで残り1km。自薦、他薦問わず“もうすぐサロマンブルー”の襷を掛けている以上、だらしなく歩く訳にはいかない。先に折り返して、すれ違うランナーに対して、アドバンテージを手にするまでは、頑張らなければならないのだ。そんな思いで、走り続けてきた。そのプレッシャーからも、ようやく解放される。そんな気持ちの緩みが災いしたのか、海と湖を繋ぐ湖口に掛かる橋を渡り、砂利道に入った途端に、両足に痙攣が現れた。

脚が前に出ない。力めば完全に攣ってしまう。脚の力を抜いて、棒のように動かす。これも初めてのサロマで経験した感覚だ。折り返し地点をまわり、鬼が仏に変わる瞬間が訪れる筈だったが、脚の具合が深刻だったので、仏には、成り得なかった。数少ないワッカのエイドステーションで、手持ちのパワージェルと、塩熱サプリを口に入れた。痙攣はナトリウム欠乏の症状だ。塩を取れば解消される。痙攣防止のためにエイドでは梅干しを欠かさずに食べていたのだが、それだけでは塩分が足りなかったようだ。90km地点の通過は9時間34分26秒だった。最後の関門を通過した。残すはゴールだけ。990km/1000km地点だ。

  

気持ちの高ぶりとは裏腹に脚の具合は最悪だった。無理に走ると痙攣を再発してしまいそうなので、歩きと走りを繰り返すように進んだ。そうこうしていると、すれ違うランナーの視線が変わってきたように感じた。ニヤけた冷やかしの笑顔から、祝福の笑顔に変わったように思えた。気のせいかもしれないが、そう感じていた。しばらくすると続々と、すれ違うサムズアップのメンバー達。おめでとうの声を掛けて貰い、照れながらも有難うと応えた。エイドでは偶然、ツイッター繋がりの方に声を掛けて頂いた。そんな事を繰り返しているうちに、ふと余計な発想が頭に浮かんできた。

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写真協力:M.fukuda
※レース中の写真は本人が撮影したのではなく、M.fukudaさんの写真を使わせて頂いています。