国、自治体の政策

更新日:2007年2月25日

外国人義務教育化をめぐる行政による諸提言等とその意義

文責:島本篤エルネスト(2007年2月)

(1)在日ブラジル人に係る諸問題に関するシンポジウム(2000年から毎年開催)

主催:外務省

2004年3月の会議で「ブラジル人の子どもの不就学に関しては、親の責任が大きい。子どもを就学させることをビザ発給・更新の要件とすべきだ」との発言が参加者(財界人)から上がった。

(2)外国人受け入れ問題に関する提言 (2004年4月)

(社)日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/029/index.html

「日系人子弟などの非行を未然に防止する観点から、地域において彼らの居場所となる空間、時間を用意することが必要である。」
「小学生、中学生にあたる学齢の子弟の教育を外国人の保護者に義務化することについてはなお検討が必要であるが、入管法上の在留資格付与の要件として子弟の教育機関の特定を組み入れることや、在留期間更新時において子弟の就学状況を確認することなどを組み込むようにすべきである。」

 → 管理的立場から「就学義務化」を提言

(3)多文化共生社会の推進に関する要望 (2005年11月)

多文化共生推進協議会(群馬県・岐阜県・静岡県・愛知県・三重県・名古屋市)
 http://www.pref.aichi.jp/kokusai/tabunka/yobo/yobo.html

『外国人児童生徒等に対する教育の充実』の項で、
外国人児童生徒に対する教育についての基本的な方針を策定すること。
「不就学児童生徒の状況を速やかに把握し、公立小中学校、外国人学校など、いずれかの教育機関等で教育を受ける仕組みを検討すること」と要望。

 → 教育基本方針策定および義務教育化を要求

(4)「多文化共生推進プログラム」の提言 (2006年3月)

総務省「多文化共生の推進に関する研究会」
座長:山脇啓造氏(明治大学教授)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060307_2.html

従来、地方自治体の地域国際化の柱とされた「国際交流」「国際協力」に加え、地域社会の変化を勘案し、「多文化共生」を第3の柱とする旨提案。
提言の基である『多文化共生の推進に関する研究会報告書』で、
国の責務として、すべての子どもに教育を受ける機会が実質的に保障されるように、外国人児童生徒の教育のあり方についての基本的な考え方を示す必要がある(例えば学習指導要領に外国人児童生徒教育を明確に位置づけるなど)」と提示。

 → 政府系提言としては初めて、学習指導要領上の明確化に言及

(5)今後の外国人の受入れに関する基本的な考え方 (2006年9月)

法務省・今後の外国人の受入れに関するプロジェクトチーム
主査・河野太郎衆議院議員(法務副大臣―当時)
http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan51-3.pdf

日系人受け入れを失敗だったとし、特定技能労働者の受け入れを提案。
外国人本人も、子弟に義務教育を受けさせることなど、日本人と同等の義務を果たすこととし、それが実行されない場合には、在留を制限することとする。

 → 外国人保護者の義務履行を、在留の要件とすることを明確化

(6)外国人集住都市会議「よっかいち宣言」 (2006年11月)

外国人集住都市会議(2001年〜):太田市・大泉町・上田市・飯田市・大垣市・美濃加茂市・可児市・浜松市・富士市・磐田市・湖西市・豊橋市・岡崎市・豊田市・西尾市・四日市市・鈴鹿市・伊賀市・(小牧市)・(津市)・(湖南市)
※( )=オブザーバー都市 2006年4月1日現在
http://homepage2.nifty.com/shujutoshi/

外国人児童生徒教育の基本方針を定めるとともに、学習指導要領にも盛り込む。」
在留資格更新や在留資格変更の要件として子どもの就学を定める。

 → 外国人教育基本方針・学習指導要領・在留資格要件化を要求

(7)「生活者としての外国人」に関する総合的対応策(2006年12月)

外国人労働者問題関係省庁連絡会議 内閣官房・内閣府・警察庁・総務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省
  http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gaikokujin

「日本語指導の充実等公立学校における外国人教育の充実を図るとともに、就学の促進を図る。」
「外国人の子どもにとって、外国人学校が、教育を受ける場所の一つの選択肢になっており、その活用を図っていく。」
「母国政府の協力の要請等も行っていく。」

 → 公立学校への就学促進、外国人学校の活用を提案

(8)新聞記事「義務教育、外国人の子供にも・政府内で調整」

2007年1月11日付 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070111AT3S2901Q11012007.html

日本に長期滞在している外国人の子供にも義務教育を課す方向で政府内で調整を始めたことが11日、分かった。子供を学校に通わせることで、外国人家庭が地域に根付くようになり、虐待や犯罪の防止に効果があるとみている。公立学校の受け入れ能力の問題もあり、当面は対象を絞って検討。まとまり次第、学校教育法など関連法改正案国会に提出する。
 法務省の調べによると、外国人登録をしている5-14歳の子供は2005年末時点で約12万4000人(在日韓国人・朝鮮人を含む)いるが、公立小中学校に通学中なのは「6万3000人程度」(文部科学省)だ。アメリカンスクールなど出身国関係の教育施設にも通っていない子供が相当数いるとみられている。
 未就学の理由としては「日本語能力の欠如」が多いとされ、子供の保護の観点からも対策の必要が指摘されていた。

 当面の対象として検討中なのは、両親のいずれかが(1)日本での実務経験が十年以上の高度技術者(2)日本の大学を卒業(3)日本語検定試験の有資格者--の場合。日本で安定的に生活していて、ある程度の日本語能力がある保護者ならば、学校の受け入れ態勢を大きく変えなくても対応可能と判断した。その後は教育現場での実施状況を見つつ、対象を広げる方向だ。日本は1979年に批准した「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」に基づき、外国人の子供にも日本人と同じ教育を受ける機会を保障している。ただし憲法は「すべての国民は、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う」と規定。義務教育は日本国籍保有者だけを対象としてきた。学校教育法は就学義務を怠った保護者に最大十万円の罰則を科すと定めている。

 → 法務省の「基本的な考え方」に則り、義務化対象を限定


分析および今後の展望

政府は今や、外国人管理策としてが主、国際条約を意識した人権救済策としてが従の理由で、外国人義務教育化を推進すべきものと見なしている。 この動きは、直接外国人と接し財政負担する地方行政や、外国人管理の主体たる法務省を中心に展開されており、教育行政を主管するはずの文部科学省の頭越しに議論が進んでいる。文科省は依然として、65年体制(外国人への教育はあくまでも恩恵としてのみ与えられる)に拘泥し続け、時代の変化に対応できない。こうした事実は、他省庁や地方行政から嘲笑を以て迎えられている。
 いずれにせよ、外国人義務教育化は既定の路線であり、変更はない。義務教育化自体は無論、外国人の子どもの学習権担保にとって歓迎すべき施策である。今後私たちは、外国人学校の存在意義など様々な事象に目を向けつつ、大局的に判断し行動することを求められることになる。

もくじ

関連リンク

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