久しぶりの青空に気分は上々。スイスイ、クルマを走らせていた。
李山(すももやま)の集落にある案内所あたりで、突然、稲妻が走る。風雲急を告げ、大粒の雨が洗車機よろしくクルマをたたく。何とも手荒い歓迎だ。
秘湯の旅で、多少険しい山道は、慣れているので前進あるのみ。
すれ違える場所の少ない急な坂道。しかも、ヘアピンカーブが次から次へと現れる。大雨が、滝のように路面上を向かいくる。砂利道では、泥の河を流れに逆らい、こぎ上る。路肩は崩れ、果たして宿まで行き着けるのやら、さすがに不安を覚えたものだ。
秘湯「姥湯」への道なんか、これと比べりゃ天国だわさ。ダンナによると、対向車とのすれ違いに気を遣わされ、このときばかりは、日帰り客を恨んだそうだ。
狭い急勾配の山道が、少し太くなったところに無事たどり着く。何でも、駐車場と呼ぶんだそうな。
一息ついたと思ったら、今度は奈落の底まで、荷物を持って歩くのだ。手早くボストンバッグからショルダーに、バスタオル・パジャマ・下着と移しかえ、でき得る限り荷物を軽く。あってもさほど役に立たない化粧道具は置いていく・・・。
雨が小降りになるのを待って、みな一斉に、まだ見えもせぬ谷底目指して出発だ。
下りは日頃使っていない筋肉を使うそうだから、きっと明日は痛くなるぞ〜。そして、痛い足を引きずりながら、この坂道をまた上るのか・・・。もう、家に帰りたくなってきた。
急な坂道を下ること20分。つり橋渡れば今夜のお宿、滝見屋。すでに、道路を流れ落ちる滝は見てきたんだけどね。
ヤッケに身を包み、不承不承やけになって、歩いてきたものだから、さすがに汗だく、もうたくさん。
部屋に通され、濃緑映し出す窓を、全面開放。涼風を身体いっぱいに浴び、冷たいビールをギューッといただく、最上の一瞬!
最上川源流の景色を愛でる余裕も出てきた。1間半×3間=9畳の、横長ながら、秘境の秘湯とは思えない、なかなか、いいお部屋じゃない。
尾根ひとつ隔てた、隣の沢筋に白布温泉や新高湯温泉があるのだが、その秘境度は天と地ほども異なっている。

露天は雨のせいもあってか、ずいぶんぬるい。たとえ、川沿い、眺めがよくとも、ワタシ的にはお断り。しかも、名勝「火焔の滝」は見えないよ。
米沢牛の陶板焼きまで振舞われる夕食どき、外からキャーキャー騒ぐ声。どうやら遅く着いたお客らしい。
水と戯れ、子供が二人。うん、本日の露天の用法としては、至極正しいのかも知れないね。
ところ変わって内風呂は、白い湯花の舞い散る湯船。5人ほどで一杯になるが、ひたひたとお湯が洗い場を潤してくれ、おまけに熱い。もちろん、熱めの湯の必須アイテム、水道ホースが投げ込まれている。
ところが、湯船が小さいために、水を止めるとまたすぐ熱くなってくれるのだ。いつもホースを見るたびに、隠してしまいたくなるのだが、ここでは目をつぶることにする。いや、大目に見なくちゃ、滝は見えない。

それはともかく、このお宿、「滝見屋」というからには、この絶景を味わいながら、お湯を楽しんでいただこうという趣向なんでしょ? ならば、窓の清掃にも精を出さなきゃ。
この白いのは、窓の外の汚れだよ。ここへの出口を見つけたワタシは、ボランティアで、窓の汚れを洗い流そうかと思ったくらいよ!
飲んでは胃腸に効くという。ご飯を炊くにも、味噌汁にも、水の代わりにすべて温泉を用いて調理しているんだとか。こんなところに豊富な湯量がうかがえる。
お湯がおいしかったせいなのか、朝のおひつのご飯を全部平らげ、恥ずかしや。七味・嶽に引き続き、またまた、やってしまった・・・。
帰りの上りは、さすがにリフト。荷物は揚げてくれるのだが、人間さまは歩いて登る。
息が上がる、意気が下がる。そんなワタシをヒザが笑う。ワタシは荷物に生まれたかった。
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