自分に解決できないような大きな問題が生じたとしよう。

そのとき君はどうする？
「そりゃ降参です」
諦めたら・・・、そこでおしまいだよな。
Difficulties only come to those who can overcome them.
約してごらん。
「困難はそれを乗り越えられる人にしかこない」
正解！困難な問題を諦める人は、それを困難とは認識できないのさ。
だから、君に困難はこない。よかったな。
でも、なぜか僕は困難をいっぱい抱えている。
僕は諦めたり、逃げたりするのが大っ嫌いだから。

先の困難な問題に遭遇したときの僕の答えはsimpleさ。
「大切なことはどうすればできるかを考えることで、出来るか出来ないかを悩むことではない」

僕が利尻島国保中央病院の院長をしていた頃、31歳の頃だけど。
離島医療の大きな問題のひとつに救急搬送にヘリコプターをうまく運用できないことがあった。搬送要請をしても4-6時間たっても到着しないというか飛べないこともあったんだ。どうしてなんだろうって思った。
離島住民の救急搬送は生命に直結する。地続きならば救急車で搬送できるけど、離島では我々の力の及ばない救急疾患患者は島から搬送しなければならない。でもすべての症例をヘリコプタ-で搬送するわけではない。時間に猶予があれば確実な船の定期便で搬送する。しかし、緊急時と三次救急や専門医への搬送をしなければならないときにはヘリコプターを要請しなければならなかった。


日本国憲法では、個人の価値の平等・個人尊重（尊厳）の原則（第１３・２４条）で「すべて国民は，個人として尊重される。生命，自由及び幸福追求に対する国民の権利については，公共の福祉に反しない限り，立法その他の国政の上で，最大の尊重を必要とする。」とある。
前任者も含め10年以上かけて救急搬送体制改善を要求し続けてきたけど何も変わらなかった。
ならば、それを改善してほしいというのは憲法に定められている権利だと僕は思っていた。だから、僕は「ヘリコプターの運用を変えてほしい」と考えたのではなく、「どうやれば改善できるのか」を考えたのさ。

過去の搬送実績の内容を調べてみると、残されたでーたは時間だけで「依頼」、「札幌発」、「利尻着」、「利尻発」、「札幌着」しかわからず、天候や時間がかかった理由はなど他のデータがほとんどなかった。そこで、僕が院長として赴任してからは搬送時に事務職員を一人貼り付けて、一分刻みでtime scheduleを記録させた。そして20人ぐらいの患者搬送の実績を分析して、その問題点や課題を学会に出したり、新聞の記事にしてもらった。
夜間運行、悪天候での搬送、搬送担当の変更理由（北海道は自前でヘリコプターを所有せず、運航を委託していた。北海道警察⇒陸上自衛隊⇒海上保安庁⇒航空自衛隊の順序で依頼を変更してゆく）や所要時間を分析して僕は訴えたよ。

ちょうど阪神大震災の頃だった。その災害の甚大さそのものにも驚いたが、朝7時のニュースを見て空を覆い尽くすような何十機というヘリコプターが飛んでいたのにも驚いた。さらに、あとでそのヘリコプターが患者搬送ができなかったことを聞きさらに驚いた。
そして思ったよ。救急搬送で何時間たっても飛べないのに、事件の時はどうしてすぐに飛べるのかってね。
我々が知らないような問題もあるのだろうから、これから救急搬送を改善してほしいというような運動を始めて、10年も続ければ、救急搬送体制は変わってくれるのではないかと期待していたんだ。それまでは感情論で改善を要求していた。でも僕はデータを出して、理詰めで行政に働きかけた。それをマスコミが後押ししてくれた。変わったよ。「一念岩をも通す」と言ったところかな。

結局、北海道は担当の防災航空室を空港内に出向させ、Hot lineを作った。さらに自前でヘリコプターを購入し、運用するようになった。すなわち電話一本で搬送依頼ができるようになったのさ。それは当時としては画期的なことだったんだ。それまでは4時間―6時間待っても飛べないことがあったけど、新体制になってからは依頼から2時間で確実に利尻島へ到着するようになった。今では北海道全体でヘリコプターの救急搬送が活用されるようになってきているし、広い北海道では救急用のヘリコプターは一機では足りないので3機体制にすることも検討されている。

僕の名前が残っているわけではないけれど、救急体制の変更に先鞭をつけたのは紛れもなく僕の仕事さ。
でも、それは僕が得をするわけでも、目立ちたかったわけでもない。離島の住民のために必要なことだったんだ。誰かがしなければならなかった。もしヘリコプターの搬送体制の運用がうまくいけば、北海道民のためにもなる。ひいては日本のためにもなるかもしれないんだ。だからこそ、行政に改善要求をしてきたのさ。

やればできるのさ。いままではやろうとしなかっただけなのさ。僕はそう思っていた。だからどうやれば出来るかを考えて、行政が判断できる資料を揃え、学会で発表したり、それをマスコミに後押ししてもらったのさ。
新聞社は言ってくれたよ。それはマスコミの使命だから、書きたいことがあったら、いつでも言ってくれ。紙面を割くからってね。

難しいことはあると思う。出来るかどうかを考えてたら、たぶんそれはできないんだよ。
どうやったら出来るかを考えること。それを実践することが大切なのさ。
見る前に跳べ。跳べなかったときは、その時に考えりゃいいさ。