[[[ ホノルル 2011遠征記 ]]]
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3日目


夜中に何度か目が覚めました。高層階なので、路面から伝わる雨音は聞こえませんでしたが、吹き込んでくる雨が、窓に当たる音が聞こえていました。かなり強く降っているようでした。ホノルルに到着してから、天気はおおむね良好でしたが、朝から夜までずっと晴れと言う事はなく、1日のうちに何度か通り雨がやってきていました。そのため、幾度となく空には虹が掛かり、その都度、喜んでいましたが、夜間の雨は、ただならぬ雰囲気でした。レース中の雨は良いが、スタートする前は勘弁してほしい。。。心の中で何度となく呟いては、浅い眠りに引きこまれていきました。

AM2時。部屋に備えつけてあった目覚まし時計のけたたましい音で目が覚めました。窓の外は相変わらず雨。いつものように御握りと、バナナと、味噌汁を飲み、レース支度を整えて、ロビーへと降りて行きました。雨の中のスタートを覚悟して、レインコートも着込んでいました。今回はペースランナーをするとともにサポートも考えていたので、応急処置グッズや、塩などを詰めたトレイルバックを背負って走る事にしました。

 

同じところに宿泊している10数名の仲間と3時にロビーで合流し、大会送迎バスの集合場所であるカピオラニ公園へ歩いて向かいました。幸い雨は上がっており、ところどころ星も見えていました。このままスタートまで降らないでいて欲しい・・・ 皆の切なる願いです。



アラモアナ公園ではチームぴあのスタート前イベントが行われました。Qちゃんの進行でストレッチを行い、参加者全員で掛け声を掛け、ハイタッチをして盛り上がりました。その後トイレを済ませて、スタート地点へと移動します。スタート地点では、ホノルルったーの方々と合流する事になっていたので、足早に移動しました。まず、先頭へ出て、そこから後方へと移動すると、想像以上に早い時点で、ホノルルった―の面々を発見!みなさん、気合いが入ってます(笑)

 

 

 

ホノルルった―とチームぴあが合流し、円陣を組んで『覚悟を決めて行くぞー!シャー!!』、気合いが入りました。そうこうしている間にスタートまで数分。その時が近づいていました。

 




【カピオラニ公園、ゴールまで残り600m】
 

それは突然の出来事でした・・・
トレランリュックから取り出した『頑張ろう日本』と書かれた日の丸を広げようとした時、チーム345の中心メンバーであるペーニョさんが突然、視界から消えたのです。チーム345とはその名の通り、3時間45分を目指そうという仲間の集まりでした。3時間45分を切る!これがプランAです。3時間45分を切れなくても3時間50分を切れれば!これがペーニョさんから伝えられていたプランB。最悪でもサブ4&PB・・・!これがプランC この時点でプランAは絶望的でしたが、プランBは達成間近でした・・・



AM5時。花火の爆音を頭上に聞きながら、レースはスタートしていきました。今年は長いなぁ?そんな印象を受けながら、リラックスした感じでのスタートでした。3時間45分でフルマラソンを走るには、1km5分20秒のイーブンペースが必要になってきます。しかしながら、ホノルルマラソンのコース、気象条件を考えると、前半のオーバーペースは、後半の大失速を招く危険性があります。そこで序盤は5分20秒~30秒のペースでレースを進めて、後半余裕があれば、じりじりと上げていくという大崩れの少ない手堅い作戦を考えていました。

 

前半は力を貯めて、30km~35kmでベストラップを出す!このイメージを持ってレースを進めていました。10kmの通過は54分45秒(1km5分28秒5)でした。ほぼ1km5分30ペースでした。出来ればあと1分くらい早く通過したい気持ちはありましたが、まずは想定の範囲内でした。

 
次の10kmでペースメーカーをしている私にぴったりと付いてきたり、横に並ぶような状態になってきたらば、ジワジワとペースを上げるつもりでした。しかしこの時点で残っていたチーム345のメンバー二人と私の間には微妙な距離が開き、手ごたえにちょっと不安を抱えるような展開となっていました。そこで二人に調子を尋ねるとペーニョさんは『思ったほど余裕がない』、もう1人のYukaさんは『結構一杯一杯』との返答。二人の反応をみて、ここでペースを上げるのは得策ではないと考え、ペースを守る事にしました。

 

ダイヤモンドヘッドの坂を超え、カハラの住宅を抜けて、ハイウェイにあがる頃には、足元が少し見えるようになってきました。チーム345のメンバーはこの時点で私を含め3名。小さく固まってというよりは適度に距離を保って走る形になっていました。ハーフ地点の通過は、1時間55分3秒(10km~ハーフ地点の平均ペースは5分26秒)でした。このまま行けば3時間50分。プランBのボーダーラインです。

 

ハーフ地点を少し過ぎたあたりでQちゃんの手厚いハイタッチで元気を入れて貰い、ハワイカイへと突入していきました。ハワイカイでYukaさんが少し遅れ気味になりましたが、ハッキリと視界に捉えられる範囲で我慢していました。ペーニョさんは、まだ元気だったように思います。ハワイカイを1周すると30km地点があります。タイムは2時間42分30秒(ハーフ~30km地点の平均ペースは5分20秒)でした。スタートからの平均ペースがこの時点で、5分25秒/kmに上がっていたので、このペースをキープできれば3時間48分を切る事も可能になってきました。

 

ハイウェイの後半はチームぴあの仲間や、ホノルルったーのメンバーと多数すれ違い、単調なハイウェイが楽しいコースへと変わってきました。しかしながら、30kmを過ぎると、二人の疲労の度合いが濃くなってきたせいか、給水所で遅れるようになり始めました。余裕がある時は、素早い動きで給水所の混雑を切り抜けられるのですが、疲れてくると、どうしてもスピードが緩んでしまいます。そして緩んだペースを元に戻すのには、強い気持と、エネルギーを要するようになってくるのです。遅れてくる二人に視線を投げかけ、ついてきてくれー!と念じました。この祈りが通じたのかどうかは分かりませんが、数100m進む間に何とか追いついてきてくれました。これを何度か繰り返しているとハイウェイの出口が見通せるようになってきました。

 

この地点で、私はペーニョさんに合わせて、ペースメイクしていましたが、Yukaさんの姿が徐々に遠ざかっているのを感じたので、ペーニョさんにそのままのペースで走って貰い、私は一度Yukaさんのところまで下がりました。『何とか見える範囲で粘ってくださいネ』とYukaさんに伝え、ペースを上げてペーニョさんを追走すると、Yukaさんは私についてきて、ハイウェイ出口の下り坂付近で、再び3人が揃いました。ギリギリに近い状態なのにここで粘れると言う、気持ちの強さに感動しました。と同時にここまで来たら何としてでも最後まで・・・という思いがこみ上げてきました。ここから先は、Yukaさんとペーニョさんがお互いを激励しあうかのような激走を繰り広げ、上り坂ではペーニョさんが、下り坂ではYukaさんが引っ張ると言う状態で進んでいきました。私は二人にかける言葉も思い浮かばず、ただその熱い走りを見守る事しかできませんでした。

 

ダイヤモンドヘッドの坂を下りきったあたりで、Yukaさんとペーニョさんの差が広がったので、Yukaさんに先行して貰い、私はペーニョさんと並走する形でゴールを目指しました。カピオラニ公園に進入し、残り1kmとなった付近で、このまま行けばプランBは達成できる。そう確信して、最後のひと絞りを期待し、ペーニョさんに熱い視線を投げかけていました。普段は笑顔の絶えないペーニョさんの辛そうな表情を間近で見て、あと少し、あと少しと心の中で呟きました。

ゴールゲートがはっきりと見え、もう大丈夫だと思った時に、ペーニョさんの姿が消えたのです。振り返ると膝に手を当て、屈みこんでいる姿がありました。コースを逆走し、傍へ行くと脚が攣ってしまった・・・との事。僅かでも動かそうとすると苦痛から顔が歪んでいました。傍に居て何もできない自分が歯がゆくて仕方ありませんでした・・・

 

止まっていた時間は3分くらいだと思われますが、とても長く感じました。

ペーニョさんが脚を引きずるようにして動き出しました。沿道からは大きな声援が飛んでいました。ゆっくりと歩き出し、それがランニングに変わり、時折苦痛に顔を歪めながらも前へ進むペーニョさんの姿が、そこにはありました。快走するほどの力は残されていませんでしたが、1歩1歩確実にゴールは迫っていました。残り100m付近で一度閉じかけた国旗を広げ、二人で両隅を持ってゴールへと進みました。僅か1秒も無駄にせず、力を出し切った3時間53分11秒の旅がこの瞬間に終わりました。

ある有名なトレイルランナーは、あなたにとってベストの走りとは?という質問を受けた時にこう答えたそうです。『ゴールした瞬間に全てを出し切ったと思える走りを出来た時だ』と。今年のホノルルマラソンは、個人の目標こそありませんでしたが、全てを出し切ったランナーを間近で見られて、熱い思いを共有する事ができました。

 

ゴールラインを超え、1歩踏み出すのもしんどいほど疲れていた仲間とゴールエリア付近で暫く佇み、後続ランナーの到着を待ちました。ひと段落してから、Tさん一家が待っている合流地点に行き、T奥様が用意してくださったスパムむすび等を食べ、応援する事にしました。幸いにもこの日は気温がそれほど上がらず、熱中症は少なかったようです。

そう言えば、Tさん一家の長女が、今年のホノルルマラソンに初出場していました。お父さんは毎年出場している上級者なのですが、今年は娘さんに付き添って、一緒に走られていました。応援隊のもっぱらの関心事は、無事に親子そろってゴールできるか!に集中していました。7時間30分を少し過ぎた時に二人は戻ってきました。みんな、大きな声で声援を贈り、完走を祝福しました。小さい頃から、ずっとホノルルマラソンへ来て、お父さんを応援していた娘さんが、ゴールしていく姿を見ていると、仲間たちと参加し続けてきたホノルルマラソンに1つの歴史を感じた気がします。

 

チームぴあの最終ランナーが8時間くらいで戻ったので、ゴールエリアを撤収し、完走パーティーに備える事にしました。コンドミニアムに戻り、シャワーを浴びて、Oさん、Kさんの部屋へ行き、ABCストアで買った瓶のコナビールを次々に空けていきます。乾いた身体に沁み渡るようでした。気がつけば、鮮やかなラベルのコナビールがボーリングのピンのように立ち並び、ほろ酔いを通り過ぎ、泥酔に近づいていました。。。

 

チームぴあ完走パーティーは、19時からだったので、一度部屋に戻り体制を整えて会場へ!っとその前にホノルルった―の完走パーティー集合場所へ行ってご挨拶をしてきました。出来ればこちらの完走パーティーにも加わりたいのですが、時間が被っているので、どちらかは諦めなければならず、ツアーに含まれているQちゃんと一緒のチームぴあ完走パーティーへ参加する事にしました。ぴあ完走パーティーはいつもの通り!Qちゃんや西谷綾子さんらとふれあい、また参加者同士で交流し、いつものように楽しいひとときを過ごしました。

 

完走パーティーが終わると、チームぴあスタッフの方々と来年の再会を誓い合い、宿へ戻って2次会です。早起きしたので、みな睡魔に襲われていましたが、眠い目を擦りながら、限られた時間を楽しみました。

 

※レース中の写真はfukuさんにご協力頂いています

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