新野地から鷲倉に向かう途中、谷へと下る急勾配の砂利道がある。看板だけはしっかり出ているのだが、何とも不安。果てにひっそりたたずむ湯治場といえば、ジジババがつきもの。それに加えて、もう一つ、犬も仲間に入れた方がよさそうである。
ここの老犬、駐車場といわず、玄関といわず、自炊部の廊下もかまわず、我がもの顔でゆっくりお散歩。気が向けばそこでお昼寝、言うまでもない。おとなしいのだけれど、愛想がないのが玉にキズ。まっ、仕方ないか。ワタシは通りすがりの新参者なんだからね。
内湯の入口には「単純泉」との表示。そんなに広くない浴室に一歩足を踏み込むと、一目瞭然、これが「赤湯」、すなわち、鉄泉であることが分かる。
湯口では無色透明。口に含んでみたところ、伊香保で感じた強烈な血の味はしない。ここのは炭酸鉄泉だそうで、乳頭温泉郷の大釜温泉に近い気がするのだけれど、鉄泉もいろいろ奥が深いようである。
けっこう熱くて温まる。しかし、正直いって、ワタシはこの手のお湯が大の苦手。まず第一に、鉄分特有の臭いがなかなか抜けないこと。第二に、バスタオルやら下着やらが褐色に染まることなどによるのだけどね。
さっそく、宿の前の駐車場を横切り、野天風呂に向かう。こちらは粉状の湯の花が舞う硫黄泉。ただ、新野地温泉のような真っ白いお湯というわけにはいかず、灰白色といったところ。硫黄臭もそれほどしない。
ほんと、目と鼻の先の近さなのに、源泉1本ごとに泉質がみごとにちがうもの。このあたり一帯(一応ワタシは吾妻エリアと名づけている)は「秘湯の宝庫」、あるいは「秘湯の標本室」と呼んでも差し支えないような気がしてきた。いずれも熱くて、湯量も豊富。裏切られたためしが一度としてない。
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