伊香保の温泉街は、温泉神社へと昇る石段をもって龍骨となす。竜をイメージさせる温泉街である。中を源泉が途中、各宿へお湯を振り分けながら流れ下る。
　神社わきの湯壷からは源泉が沸々と湧き出しており、なめると強烈な血の味がする。湧いたばかりの源泉だけに、鉄分がよけいに濃いのかも知れない。

　石段街の上方右手に位置する岸権旅館、玄関には、かがり火が灯され、ワタシたちを迎えてくれる。が、クルマで玄関まで乗りつけるにはコツがいる。歩いていったほうが無難であろう。
　当日、飛び込みの宿泊だったので、部屋は裏手のツインとなった。仲居さんがしきりと気の毒がってくれるのだが、道をはさんで向かい側、谷を見下ろす露天風呂がすっかり気に入ってしまった。何より目新しかったのが、湯上りに一服つける東屋である。ちょっとしたカウンターなどあり、生ビールのおいしかったこと、おいしかったこと。

　宿に入るにはまだ日が高かった。伊香保からさらに先までクルマを走らせて、榛名山に登った。もちろん、ロープウェイでね。見下ろす榛名湖は真ん丸で、田沢湖同様、これがカルデラ湖であることを教えてくれる。いい温泉が湧くはずだ。

　この宿は石段街の下のほう、少し奥まったところにある。青畳が敷きつめられた廊下は、足裏に心地よい感触をもたらしてくれる。途中、野の花などがあちらこちらに生けられて、芳しい香りを漂わせている。トイレにも匂い袋に千羽鶴と、女性客を喜ばせる仕掛けがあちらこちらに設けてある。
　男女入れ替わりの女性用浴室は、窓のない息のつまりそうなお風呂。岩をつたうお湯は鉄分が多いせいもあり、さながら赤い洞窟の様相。たっぷり汗をかいた。浴室横の休憩所には囲炉裏がきってあり、コブ茶が用意されているのだが、やはりビールといきたいところ。

　翌朝の帰りがてら、有名な水沢うどんを食した。なるほど、こしの強い冷やしうどんであったのだが、関西出身のダンナにとって、関東内陸部にうどん文化圏があることは、かなりのカルチャーショックだったようである。