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スキー事故

『死ぬかと思った』
小学校6年生だったと思う。スキー場で死ぬかと思った経験がある(ちょっと大げさですが、でもあやうく死ぬかもというsituationでした)。
先日、広島県でスキーをしていた女児が滑走者にぶつけられて亡くなるという痛ましい記事を見て思い出した。
北海道で暮らしていたので、冬はよく家族でスキーに行っていた。買ったばかりの新品のスキー板での初滑りを楽しみにしていた。決して高いスキー板ではなかったが、いつも兄からのお下がりばかりだったので、初めて‘高いもの’で自分専用のものを買ってもらったので、とてもうれしかった。
ニセコは当時の北海道でも人気のスキー場だった。積雪が道内一多いところで5-6mにはなる。加えて雪質もよかったからである。お客さんも多かったが、それでもリフトに並ぶのは本州とは違って五分もかからずに乗れたと思う。
僕は小学生であっても、それなりの斜面は滑れたので、そのときは一人で滑っていた。一気に上から滑り降りて、下で休んでいると、上から制動をかけずにまっすぐにこちらへ向かってくる人影が見えた。大人のようだから、下の平地へ来ると制動をかけてそろそろ止まるだろうと思っていた。しかし、'へたっぴ'なのか?速度を落とさずにまっすぐこちらへ向かってくる。まさか!そう思っている間もなく動けずにいると、ぶつかってきた。あっ!!
とっさに体をよけて直接の接触は避けられた。しかし、バランスを崩して倒れこんでしまった。起き上がってみるとその人はさらに下の方で倒れていた。しばらくすると、こちらに歩み寄ってきて、「すいませんでした」と詫びに来た。「大丈夫かい?」体にぶつからないようによけたので、転んだだけだったから、痛いところもなかった。「よかった。すいませんでした」そう言って、その人は立ち去った。大人に見えたが、高校生ぐらいだったのかもしれない。
それから、また滑りに行こうと思ったら・・・。新品のスキー板が折れている。僕の犠牲になって護ってくれたのだった。買ってもらったばかりのスキー板なのに、もう滑れない。泣きたいくらい悲しい思いだった。
しばらく呆然としていると父親がやってきた。「そうか、でもけががなくてよかった」「スキー板また買ってくれる?」「うーん、それはだめだな。またお兄ちゃんのおさがりで我慢しなさい」「えー、だめ?」「買ったばかりだからな、うちにはそんなに余裕はないよ」「我慢しなさい」「・・・」
せっかく買ってもらったスキー板が折れて悲しかった。そして買い替えをしてもらえないことにも打ちひしがれた。そう考えていると、ふと気が付いた。悪いのはあいつだ。あいつを探してやる!転んでもただでは起きない!絶対あいつを捕まえてやる!
折れたスキー板を脱いで、先ほどの'犯人'探しを始めた。彼はリフトに向かっていったので、こちらにまた降りてくるはず。顔は覚えていないが、スキーウエアの服装と色は覚えている。絶対に見つけてやる!ひたすら降りてくる人影を追った。30分?小一時間?時間は覚えていないが、ひたすら探した。そして待った。スキーをしているときは動いているので体が暖かいが、実は動いていないとスキー場は結構寒いものなのだ。スキー靴を履いていると、足の中も冷たくなる。それでも寒さに耐えて、探した。
いた!あいつだ!下に降りてきた人に「すいません。先ほどぶつかった方ですよね」「あ、はい。さっきはごめんね」「あ、はい。僕の体は大丈夫なんですが、スキー板が折れちゃったんです。弁償して下さい。」「え、そう言われても・・・」「買ったばかりのスキー板だったんです」「えー・・・」「お父さんを呼んできますから、ここで待っていて下さい」
父親は探しても見つからないので、諦めなさいと言っていたのだが、僕は諦めなかった。「よく探し当てたな」それは褒めたのかどうかどうかはわからないが、感心していた。「あとは父さんが話をするから任せなさい」
父は、その方と話をして自宅の住所や電話番号を聞いた。相手は高校生ぐらいで、あとで親と相談して弁償をしてもらうことになった。
当時は保険だとか、写真で状況を確認するというようなことはなかったのだが、当事者が確認して、未成年者だったので親同士が相談して弁償ということになった。その方の家業はスポーツ用品店だったようで、現物を弁償するということで話がまとまったようだ。
子供ごころにこちらに責任のない事故で、向こうが過失者なのだから、弁償は金の斧とまではいかなくても、銅の斧くらいのversion upを期待していたのだけれど、世の中そんなに甘くはなかった。まったくの現物ということになった。色も同じにと言ったが、残念ながらお気に入りの色はもう売り切れていて、後日さえない色のスキー板が届いた。ウキウキして心待ちにしていたが、それを見てがっかりした。あとで文句を言ったが、最終的には「滑れることにはかわりないだろう」と父親に言いくるめられてしまった。
でも、あとで考えると「あの事故」は一瞬ではあったがぶつかってくる人影が見えて、体をよけなければ体当たりされていたかもしれない。そうすると入院しなければならないほどのけがというか障害が残った可能性がある。下手をすると今回の事故のように死亡していた可能性もある。
事故というのはほんの一瞬のすれ違い、ほんのちょっとした距離でその結果を大きく変えてしまうことがあるものだ。
今回の女の子の事故は記事を読んでいて心を痛めた。ご家族にとってもいたたまれない事故で、お子さんの事故というのはとても残念だ。
今回は加害者も頸椎損傷になっているようだ。スキー場では楽しいことばかりではなく、けがや事故、死亡につながることもある。自分の力量を十分に理解しながら、責任を持って振る舞わなくてはならない。
このような事故は二度と起きてほしくない。

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