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死ぬかと思った2

Heimlich
(2000.12.16大学の同期会のMLに掲載した文章を改変)

みなさん救急でHeimlich methodをしたことがありますか?

昨日、銀行に行っているときに、はじめて経験しました。

患者はうちの娘です。
アメをなめていて、誤嚥してしまったのです。
かぜをひいていて鼻がつまっていて、口呼吸をしていたために吸い込みやすかったようです。

息を吸い込んで呼吸が止まり、一瞬しゃっくりかなと思ったら、次の呼吸が出ませんでした。
みるみる顔が赤くなり、苦悶表情となり気道に詰まったことがわかりました。Cyanosisがあるかどうかとか病態を考える猶予のある状態ではなく、覚知の段階でgolden timeのcount downがすでに始まっている切羽詰まった状態でした。

最初は喉に詰まらせただけかと思い、のどに指を入れて咽頭反射をさせましたが、反射は出ても、まったく呼気が出ないのであせったわけです。12-13mm*7-8mm大のアメです。2歳になったばかりの体重が10Kgの女児ですから、喉頭を指で探るとかえって押し込んで嵌頓してしまうと思い、これはもうHeimlichしかないと思いました。

僕もHeimlichの実践経験がありませんでしたし、ましてや幼児にどの程度の力でしていいのかは皆目見当がつきません。どうすべきか迷いましたが、躊躇していてはhypoxiaになってしまうだけに、やるしかない状況でした。

でも一瞬ですが、愚かなことに救急車を呼ぶことも考えてしまいました。救急病院は直線距離で500M程の距離。救急車を呼んで、到着、それから搬送すると、最低でも20分はかかる。家内に運転させて、自分で病院へ搬入しても10分はかかるだろう。その間処置をしなければhypoxiaでbrain damageは残る。今すぐにこの場で処置をしなければならないことは焦る気持の中で論理的に理解しました。
わが子が手を差しのべて助けを乞う瞳を見つめて、助けられるだろうかという不安がよぎりながらも、すぐに日和ってはだめだと自分を奮い立せ覚悟を決めました。これは一発で決めなければ、もしかしたら娘を失うことになりかねないと「一世一代」の覚悟でした。

助けを乞う娘を抱きしめたいと思いながらも後ろ向きにさせ、肋骨を折らない程度に一瞬で押さなければと考えました。なるべく横隔膜の近くで圧迫した方が陽圧が大きいかなと考え、神様に祈りながら一瞬だけ力を込めました。Overshoot!それと同時に小さなアメが娘の小さな口から飛び出し、テーブルの灰皿の中にカランコロン音を立て出てきました。

娘は僕ではなく、家内に大きな声で「ママ」と抱きつき、しばらくの間泣きじゃくりました。たまに僕の方を恨めしそうにちらっと見ていました。がママの胸に顔を押し当てました。その表情はHeimlichで一瞬苦しくさせられたことを恨んでいるようでした。
僕はその非難するような表情を見ながら、おまえを助けるためにはそうせざるを得なかったんだよ。心の中でそう語りかけました。

僕もしばしの間放心状態でした。
ほんの一瞬のことでしたが、たぶん1-2分下手すると一分もかかっていなかったかもしれません。でも、とてつもなく長く感じました。
スローモーションで時が経過しているようにも感じました。

家内はこのようなことがないように、おやつには棒付きのペコちゃんキャンディーしかあげていませんでした。たまたま銀行の待合いにおいてあった、アメをあげてしまった僕が悪いのです。かけがいのない娘の命を危うく失うところでした。

家内も一部始終を見ていたので、娘の苦悶表情と僕の逼迫した表情を見て、
あの表情は脳裏にこびりついて離れないと言っていました。

そういえば学生の時の小児科の講義で、幼児にはピーナッツ摂取は禁忌と習い
ましたよね。(あれは柳沢教授でしたか?)
出てきたアメはまさしく形も大きさもピーナッツ大になっていました。

事なきを得てよかったとは思いますが、みなさんも小さなお子さん、特に冬の間はアメやピーナッツを与えないように注意して下さい。

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