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「へき地」の壁を越えて

 離島に暮らす者にとって、「へき地」という言葉は一種の差別用語のように聞こえます。ですから、われわれはできるだけ「へきち医療」とは言わず、「地域医療」という言葉で代用していますが、そのこと自体がコンプレックスの表れなのかもしれません。
 医療の現場でもコンプレックスを感じることがあります。「どうせ田舎なんだし」「都会の病院へ行けばもう少しは・・・」患者さん、もしくはその家族の言葉です。
 医者はセカンド・オピニオンを求めるまでもなく、自分たちの力量をある程度はわきまえています。われわれが診断し治療できない場合は、患者さんが希望しなくても、しかるべき病院へ受診するようお願いします。それが患者さんのためになるからです。
 離島の病院では医療設備も限られるし、能力にも限界があります。ですから、普通は患者さんの経緯を記した紹介状を持参し、しかるべき病院を受診してもらいます。このような病院同士の連携があって初めて離島の医療の質を向上させることができるのです。
 しかし、中にはこころない患者さんが紹介状も持たずに、黙って別の病院へ行ってしまうことがあります。あとで聞いてみると多くの場合が「親類が紹介してくれたので」「知り合いの人が通院していて、いい病院だと聞いたので」と言うのです。
 本来なら消化器科の病院へ行くべきなのに、親類の紹介先は循環器科だったという笑うに笑えぬ話しもありました。
 これでは患者さんのためにもなりません。このような無責任な悲劇はどうして起きるのでしょうか?もとを正せば、最初に患者さんが「転院の希望」をかかりつけ医に相談しなかったことにあると思うのですが、これもコンプレックスの表れなのでしょうか?
 では「へき地」に対するコンプレックスは誰が一番感じているのでしょうか?医師?患者さん?
 それはへき地に住むものではなく、「へき地」を理解しようとせず、「田舎で何もできない」と決めつけてしまっている周りの人たちのような気がしてなりません。
 医療は医師と患者さんの信頼関係の上に初めて成り立つものです。われわれの力不足もあるのでしょうが、残念ながら利尻では患者さんの医師への信頼は、まだ十分とは言えません。
 しかし、それを「へき地」の壁とあきらめてしまえば、いつまでたっても「へき地」のままでしかありません。信頼関係を充実させることなしには地域医療の進歩はありえないのです。
 
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