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利尻の春

 五月になり利尻富士も雪解けを迎え、ここ利尻島にもようやく遅い春がやって来ました。長く厳しい冬が去り、定期船の便数も増えました。
 時を同じくしてお年寄りたちも続々と島に帰ってきます。「冬の寒さはこたえる」「年のせいで雪かきができなくなった」と冬の間、島外の子どもの住む家に身を寄せていたお年寄りたちです。
 「先生、お久しぶり。半年ぶりで帰ってきました」
 「お変わりないですねえ、お元気そうでなによりです」
 外来診察では一日に何度もこのような会話が交わされます。そして多くの人が言います。「雪さえなければ、やっぱり島が一番住みやすい」と。
 また、この時期は冬の間、本州に単身で出稼ぎへ入っていた若い人たちも帰ってくる季節です。家族へ、そして子どもたちへのおみやげで両手は荷物でいっぱい。そして帰ってから息つく暇もなく、漁の準備です。そう、この時期は漁が始まる季節でもあるのです。
 若い者には負けられないと、七十代から八十代の現役の漁師さんたちも漁の準備に忙しく動き回っています。元気と言っても何らかの病気を持っているので、診察室で顔を合わせることができます。「とうさん(じいちゃんと言うと、怒られます)、もう今年は引退したらどうだい」「いやいや、まだ稼ぐじゃ。漁に出なくなったら何すればいいんじゃ」
 島の人たちは働き者です。かあさんたちも浜でお手伝いです。年に関係なく体が動くうちは浜で働く、これが利尻での常識であり、また生きがいににもなっているのです。
 利尻の春ー。雪が解け枯れ草の中からツクシ、フキノトウが芽を出すときのような島の人たちにそんな忍耐力と生命力を感じます。
 冬の厳しさを島に住む人たちが嘆くことはありません。離島の中で自然を受け入れ、自然とともに生きる。その厳しさを乗り越え、まちのあちこちで活気が満ちてくるのを感じるのは、言うに知れずうれしいものです。
 
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