利尻の土に還る
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「先生帰ってきましたよ」
私がびっくりして声を出せずに顔を見つめると、おばあちゃんは「おばけじゃないですよ」。

「先生、私は一度死んだんです。三途の川を見てきたんです。だからこの体はもうけもの。あとは好きなようにさせてもらいます」
おばあちゃんは本当に生死の境をさまよったようです。ある日低血糖発作をおこし、意識を失い半日も昏睡状態が続いてから、助けられたようなのです。透析開始時期の検討をしていたのですが、そのような事件があってから、おばあちゃんは透析を望まなくなり、望郷の念が募って島へ帰ってきたのでした。
「先生、こちらでまたやっかいになりますよ」
「透析をせずにどこまでお力になれるかわからないけれど、がんばりましょう」
病院の外来で元気なお顔を拝見したその晩、おばあちゃんは救急車で病院へ運ばれてきました。「胸が苦しい」急性心筋梗塞でした。糖尿病の他に腎不全、心不全を合併しており、体力は衰えております。それに加えて心筋梗塞の追い打ち。精一杯の治療でもおばあちゃんを助けることはできませんでした。利尻島へ帰ってきてから二週間後のことでした。
「利尻で生まれて、この年まで生活してきたんだ。できることなら利尻の土になりたい」
こう語っていたおばあちゃん。利尻島で暮らしたかったのです。利尻の風に吹かれて浜を歩きたかったのです。あまりにも早く、そしてあっけなく逝ってしまいました。一緒に病気とお付き合いしようと約束したばかりだったのに・・・。無念だったでしょう。それでも利尻の土に還れたことは喜んでいるでしょうか?
おばあちゃん、これからは大好きな利尻のこと、ご家族のことー天国からあたたかく見守って下さい。