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「ひと夏の経験」

 夏がくると思い出すエピソードがあります。
医師1年目の夏に、同僚の医師と看護婦で海水浴に行きました。かなづちの私は日光浴をしていました。ふと気づくと波打ち際が騒がしくなっていました。「まさか溺れたんじゃないだろうね」皆で軽口をいっていました。しかし、事態は深刻でした。砂浜で「心肺蘇生」が始まったのです。間違いなく溺水でした。「どうしよう。手伝おうか。」「医師になりたて3ヶ月で何ができるかな」「でもこのまま見ているわけにはいかないよね」我々はそういいながら走り出していました。
 ようやく点滴ができるだけの駆け出しの医師に、当然救命の経験などありません。しかし、実際に目の前にいる「死にそうな人」に手をかけているのはまったくの「素人」なのです。「かっちゃん!」こたえはありません。息もしていません。「(どこまでできるかわからないけど・・・)僕たちが代わります」心臓マッサージの手が震えていました。肺の中はほとんど海水で詰まっていました。我々はかわるがわる黙々と蘇生を続けました。それから何分かして、「ふー」ため息がでました。「助かるかもしれない!」顔を上げると黒山の人だかりになっていました。「救急車を呼んで下さい!」
 4ヶ月ほどして大学病院に見知らぬ人が尋ねて来ました。元気になった「かっちゃん」でした。治療は大変だったようですが、後遺症もなく回復していました。
 医師を実感した最初の出来事でもありました。
 
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