[現代・政治]-----その底流を探り、常識を整理する-----
地方自治を担う人民と地方政府(7)
地方分権一括法案、成立する
国と地方自治体の関係を上下・主従の関係から、対等・協力の関係に変えようという「地方分権一括法案」が、1999年6月11日、衆議院本会議で自民、民主、公明、自由、社民などの賛成で、可決された。一括して採決した関連法案は、24省475本に及び、その厚さは広辞苑2冊分になるという。この制度改革は、明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革といわれる。住民の要望に沿った条例も制定できるようになり、使い方次第で住民自治が拡大するが、一方で各自治体間の行政サービスが比較され、格差が現れてくることにもなる。2000年4月に施行される。
地方分権一括法案の骨子
- 「機関委任事務」を廃止し、本来は国の役割である事務を法令によって自治体が引き受ける「法定受託事務」と自治体の自主的な裁量でできる「自治事務」に分ける。
- 国の地方への関与は、法律や政令などでルール化する。
- 国の関与に不満のある自治体が審査を申し出る「国地方係争処理委員会」を新設する。
- 国から自治体への権限委譲を進める。
- 資格のある職員を置くことなどを義務づけてきた自治体への「必置規制」を緩和する。
- 都道府県庁の「地方事務官」を廃止する。
- 自治体が独自に税を課す「課税自主権」を拡大する。
主な変更点
- 「機関委任事務」から「法定受託事務」「自治事務」へ
自治体が国の委任を受けて処理している事務である「機関委任事務」は、地方自治法だけで561項目あり、都道府県のこなしている仕事の8割、市町村の仕事の4割を占めていた。地方分権推進委員会(95年7月発足)の勧告では、機関委任事務の8割が自治事務になるはずだったが、55%が自治事務に移り、自治事務と法定受託事務の割合は55対45になる。
- 国の自治体への「通達」の廃止
省庁側から自治体への助言、勧告、是正の要求などの多くは、「通達」という形で行われ、不透明であったことから、通達をなくし、法律、政令などで明示することになった。
- 「国地方係争処理委員会」
自治事務について、国の是正要求があれば、自治体に改善措置をとる義務が生じることになった。
こうした国の関与に不服がある場合、新設された「国地方係争処理委員会」に審査を申し出ることができる。市町村に対する都道府県の関与にも同じような仕組みが新設される。5人の有識者で構成される委員会が、勧告または調停する。自治体は、委員会の審査結果や勧告などに不服がある場合、高裁に訴えることができる。
◇主な権限委譲の項目◇
- 国から都道府県へ
- 都道府県教育長の任命
- 市町村が作る下水道事業計画の認可権限
- 二つ以上の都道府県の区域内にかかわる採石業者と砂利採取業者の登録と拒否
- 都道府県から政令指定都市(12市)へ
- 都道府県から中核市(人口50万以上)へ
- 都道府県から特例市(人口20万以上。新設)へ
- 宅地造成工事区域の指定
- 騒音、悪臭など局地的公害の地域と基準の決定
- 都道府県から市へ
- 児童扶養手当の受給資格の認定
- 商店街振興組合などの設立許可
- 都道府県から市町村へ
- 市町村立学校の学級編成と始業日、就業日など学期の決定
- 市町村立高校の通学路の指定
- 犬の登録、鑑札の交付、注射済み票の交付
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「地方事務官」の廃止
地方事務官は、国家公務員なのに知事の監督を受けて都道府県庁で社会保険(約1万6500人)と職業安定(約2200人)の仕事をしていたが、これを名実共に国家公務員にすることにした。地方事務官は自治労の有力部隊であり、組織防衛の必要から自治労は廃止を反対していたが、衆議院行革特別委員会で付則を修正し、社会保健関係の職員は、7年間(組合の専従が認められている最長期間)は自治労加入を可能とした。
課税自主権の拡大
自治体が地方税法にない新しい税(法定外普通税)を作る場合、自治省の許可が必要だが、事前協議制に変わる。自治省の同意は必要だが、、作りやすくなる。
問題点---カネで縛られる仕組みはほとんど変わらず
- 日本の仕組みを中央集権型から分権型へ転換しようという大法案だが、国会審議では中身にほとんど触れることがなかった。
- 「法律の施行が地域で異なるようになってはいけない」と、自治体に対する国の是正要求が認められた。内容については、自治体に任せられたが、自治体は改善義務を負った。
- これまでの「通達」を「政令・省令」に書き換えるだけではないか、「法定受託事務」に関する処理基準も、従来の通達と同様に自治体へのしばりがきつい内容になるのではないか、との心配がある。
- 小さな自治体は、人的に分権に対応できないところが出てくる可能性がある。
- 税財源については、地方分権推進計画で「地方の歳出規模と地方税収とのかい離をできるだけ縮小する視点に立って、地方税の充実確保を図る」とされたが、法律に税財源の地方への移譲は含まれなかった。
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