[現代・政治]-----その底流を探り、常識を整理する-----

地方自治を担う人民と地方政府(5)

「機関委任事務」は、国がやるべき仕事

   私たちは市や県など地方自治体の職員がやっている仕事は、すべて市や県の仕事だろうと思ってしまうが、実はそうではなく、そのうちの多くが国の仕事である。
   地方自治体の仕事は、その性格によって大きく二つに分けられる。第一は地方自治体本来の仕事であり、第二は本来、国や他の地方自治体の仕事とされているものを、法令によって、自治体の首長や行政委員会に委任して行わせる仕事である。これを「機関委任事務」といった。自治体は国の下部機関として、この仕事をこなしているのである。

「機関委任事務」は561項目もあった

owl   「機関委任事務」は、都道府県では、都市計画、農地転用、旅券の交付、調理師の免許など、市町村では、戸籍、外国人登録、火葬の許可、保存樹林の指定など561項目に及んでおり、都道府県の仕事のうちの約8割、市町村の仕事の約4割が国の機関委任事務であるといわれていた。
◇ひとこま◇

矛盾をさらけ出した機関委任事務

  「機関委任事務」は、責任をあいまいにし、問題を複雑にしていた。
  • 経営破綻を起こした1993年の東京都のいわゆる2信組問題。信用組合は、地域の相互扶助を目的とする金融機関なので、営業地域が一都道府県内であれば、その事務は大蔵省から都道府県知事に機関委任される。経営破綻の監督責任がどちらに、どの程度あるのかが問題となった。
  • 95年の沖縄県知事の代理署名拒否。国が地主から借りて米軍に提供していた土地の使用期限が切れ、契約更新を拒否する地主が現れた。国は法律に基づき強制使用できるが、この手続きは、知事への機関委任事務とされている。地元の市村長および大田知事は、強制使用手続きに必要な土地調書への代理署名を拒否し、続いて国が職務執行を命じる訴訟を起こしたが、国の不法占拠状態になるというように、事態は進展していった。
  「機関委任事務」は、原則として知事は担当の大臣の、市町村長は知事および担当の大臣の監督を受けた。担当の大臣(および知事)は、法令違反や怠慢があると認めた場合は、訴訟手続きを通じて、その仕事を代行することができた。従来は、地方議会には調査権もないとされたが、91年からは一部の機関委任事務を除き、地方議会にも調査権が認められた。
    また、「機関委任事務」は、各省庁の縦割り行政の一因になっているとも指摘された。
    95年に制定された「地方分権推進法」の重要な課題は、機関委任事務の廃止であり、99年「地方分権一括法」が成立した。

地方分権推進委員会の構想

  地方分権推進委員会の構想では、自治体が担う事務は2つに整理される。機関委任事務は、原則として「自治事務」(自治体が法令の枠内で自主的に判断して執行する)とし、残りを「法定受託事務」(自治体が法令によって引き受ける。国の強い関与が認められる)とする。役割が終わった事務は廃止され、自治体が行うのが不適切なものは国に戻される。
cameleon

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