マイライフ・アズ・ア・ドッグ 3



○月×日


「んでね?オレも驚いちゃったんだけどその風花ドトウ配下の忍にナダレって男がいてさ。ま、実は10年前に
雪の国でチョイとやり合った相手なんだけど、コイツがまたチキンなヤツでさー!!オレは決着付けたかった
のよ?でもアイツの方がケツ捲ってスタコラ逃げ出すわオレはオレで小さな姫さん抱えてるわでしょーがない
その時はそのまんまお預けってことになっちゃったんだけどさそれがどーよ!?久しぶりに面あわせた途端一
角白鯨だの破龍猛虎だのって生意気にも氷遁系の術繰り出して来てさ!!さすがのオレも頭に来たもんで
速攻コピー返しの一角白鯨をお見舞いしたらヤツがさ・・・・ってせんせ・・・・?せ・ん・せーーッッ、ねぇ聞いて
るッッ!?」

・・・・あ、ああ・・・・すみません、カカシさん。何ですか?


覚醒して、慌てて姿勢を正す。色違いの双眸にちゃぶ台の向こうから睨め付けられ、その迫力に仰け反った。
__はたけカカシ率いる第七班は本日無事雪の国から帰還を果たし、任務の経過報告も滞り無く終了。昼過
ぎにその身を解放された上忍は、そまのまま我が家に向かい当然の顔で上がり込んでいた。


「せんせ、一体どうしちゃったのよさっきからボーッとして。まんま上の空じゃない」

・・・・あ、ごめんなさい・・・・ごはんお代わりですか?

「・・・・・・」


無言でずいと差し出された茶碗に、白飯をペタペタと盛りながら冷や汗を掻いた。思考に沈んでいたのは事実
だが隊長以下、七班全員が無事うち揃って帰って来たのは勿論嬉しい。しかし上忍本人を目の前にすればど
うしてもあの__あの夜耳にした『白い牙』の逸話が胸に沸き上がる。こうして勢い良く夕食を咀嚼する、上忍
が幼い頃その身に受けた苦衷、悲憤、そしてその父親である伝説的忍『はたけサクモ』の非業の死に様。そ
れらがいっしょくたにグルグルと脳内を駆け巡り、結果どうしても反応が鈍る。それをバカ正直に吐露する訳に
もいかずハイどうぞと出来るだけ笑顔で茶碗を渡したが、受け取る上忍にでもさ、長旅の後家に帰るとホッと
するよねと問われ思わずそうですねと返してしまった。

__しまった、と気付いた時には遅かった。バチンと机に箸を叩きつけた上忍が、こっちに回り込んで来る。


「ちょっと!!何アンタ!!」

えええええッッなななな何ですかッッ

「何ですかじゃないでしょうよッッ!!オレとアンタのボケツッコミが噛み合わないなんてどーゆーこと!?いつ
ものせんせならココは誰んちだとかなんとか返ってくるトコでしょ!?・・・・・やっぱり何かあったね」

あッ、えとえとそーいえば、なら最初から旅行に行くなって歌が

「んな取って付けたよーな突っ込みなんかに騙されると思ってんのッッ!?・・・・何・・・・?男?」

( ゚Д゚)ハァッッ!? カカシさん何言って

「あのツバキって男?もしかして。そう言えばせんせとアイツ、いっつもつるんでるもんねオレが知らないとでも
思ってた?・・・・フーン、人が任務で汗掻いてる時にさ、アンタは鬼の居ぬ間に早速浮気って訳」

何バカな事言ってるんです!?あのねぇ、つるむも何もツバキは同僚ですよアカデミーで一緒になるのは当た
り前じゃないですか!!大体アイツとなんか付き合い長すぎて、裸見せあったって何の気も起こりゃしません


「見せたんだ・・・・」

ああいやいやいや!!だからそれはホラッッ、言葉のアヤっていうか単なるモノの例えっていうか!!男とか
女とか浮気がどうとか、その辺全くもって何の関係も無いっていうね!?ちょ、聞いてますカカシさん?かーか
ーしーさーんッッ!?

「・・・・まぁいいよ・・・・その浮気相手に聞いてみればいいだけでしょ・・・・」

ちょっと!!何言ってんですバカな事は止めて下さいよッッ


ユラリ、と立ち上がり着の身着のまま上忍が玄関に向かう。__マズイ、目がイッてる。このまま行かせたら
ツバキの身に何が起こるかは余りにも明白だ。既成事実があるのならともかく、誤解のままボロ布の如くされ
るとあってはツバキがどうにも気の毒だ。慌てて後を追い、渾身の力で上忍の背にしがみついた。


バカッッ!!何勝手に誤解してるんです人の気も知らないで!!音信不通になるし帰還は遅れるし、一体ど
れだけ心配掛けたと思ってるんですッッ!!

「え?」


再びしまった、と思った時は遅かった。さっきまでの鬼気迫る表情は何処へやら、だらしなく相好を崩した上忍
に振り向きざまずいと迫られた。


「何?なになになに!?そんなにオレのこと心配してくれてたの!?それでさっきは気が抜けてボーっとして
たって訳?ホントにッッ!?」

え、ええーっと・・・・そ、それはその・・・・だってな、七班の子供達もいることだし・・・・

「アハハハハ!!もーせんせったら正直に言いなよ可愛くないんだから、いやソコが可愛いんだけどね!?」

いやあの・・・・だから・・・・

「何よそんなに真っ赤になっちゃってさッッ、帰ってきたらガックリ来ちゃうくらい気にしてくれてたんでしょ?そ
れっくらい会いたかったんでしょ!?オ・レ・にv」

んなッ、何勝手に

「んもーそーんなカーワイイ科白聞かされたら、オレだって黙っちゃいられないよー?」


よっしゃ、と聞こえた掛け声と共に、白煙が吹き上がる。変化の術が発動したのだと気付いた時には、霞む視
界の向こうに年若い姿の上忍が立っていた。


「十六歳のオレ、参上!!」

ひゃああああ!!な、何やってんですそんなカッコしてッッ!!

「何ってこれからナニするに決まってんじゃないよ。言っとくけど今夜のオレは止まんないよ?最初から最後ま
でクライマックスだから」

そのセリフアンタが言います!?っていうかナニって何ですかダメですよ唯でさえ任務の後は疲れてるの
に!!変化なんて余計チャクラ使っちゃうでしょ!?

「あー大丈夫ソレはソレ、コレはコレで食事の後のエッチは別腹だから」

甘いモン食べる女の子じゃないんですよ!!何バカな言い訳して

「あ、せんせ上手いコト言うね。オレにとって君は極上のスイーツだよハニー」

アメリカ人じゃないんだから!!大体なんで十六歳なんて半端な年になる必要があるんです!?さっさと変
化を解きなさいって!!

「あれ、せんせ『イチャイチャスウィート・レッスン』知らないの?参考にして貰おうと思ったのに」

知るかボケー!!

「シリーズ中唯一の教師×生徒モノなんだけどさ、生徒が十六歳高校生なんで出版当時は結構物議を醸し
たんだよねー。でもそれだけあってストーリーのイチャイチャ度はそりゃもうピカイチなんだけど?ま、詳しいこと
はこれからゆっくり教えたげるからさコッチに」

結構ですッッ!!ていうか何で教師が生徒に教えて貰うんです普通反対でしょ!?

「だからさ!!そこがイチャイチャシリーズの偉大なとこなんだよねー。妖艶な女教師×初生徒のセオリーをひ
っくり返した逆転の発想!!処女のお嬢様教師にヤり手男子生徒が鬼畜攻め&調教してさ、年下攻めに新
境地を開いたって大評判になったんだけどv」

・・・・ち、調教ッッ!?

「あ、うんまぁだからその辺は追々ね。だーい丈夫だって、そんなビビらなくったって絶対気持ちよくして上げる
からオレを信じて!!ね!?」

気持ち良いとか悪いとかそこが問題なんじゃなくって!!・・・・ちょっとッッ、人の話聞いてます!?イタタタタ
タッッ、そんな引っ張んないで下さいよッッ

「やだなーせんせ、もうプレイは始まってんだからそのつもりでいて貰わなきゃ。この強引さが若さの象徴って
モンでしょ?」


なら何だ、いつもはそんなにしおらしいのか強引じゃないっていうのか。しかしそう問い掛けたつもりの反論
は、素早く上忍の唇で塞がれ封じられた。見開く目の、視界一杯に広がる自称十六歳の男の顔。滑る様に輝
く白い肌、長く瞬く銀色の睫。過ぎる美麗さに肝を潰している隙を狙われ、あっという間に寝台に転がされる。


「ねぇ、オレに釣られてみる?」


幼さの残る顔で余裕たっぷりに笑う上忍に服を剥がれながら、つくづくと思い知った。__バカだった。つくづく
自分がバカだった。この男にとっておそらく同情などという生温い気遣いは、無用の長物なのだ。・・・・今まで
も、そしてこれからも。


せめてもの時間稼ぎで風呂を遣わせてくれと頼んだ。もちろん口から出任せで一緒に入ってもいいですよと誘
うと、実に嬉しそうな笑顔で『風俗プレイは後でね』と返された。軽々と俯せにされた頭上で、上忍の奏でる軽
快な鼻歌が流れている。ぐっすんと鼻を啜るとついでに零れた涙が、音もなく枕カバーに吸収されてゆくのが
見えた。


・・・・・・。


ドアホー!!!



〈 続 〉




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