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だが勝手気儘に連れ回された城内外の絢爛豪華さは、確かに入鹿の目を見開かせたばかりか度肝を抜くも
のだった。五層六階、最上層には回縁高欄の望楼を戴いた天守は文字通り大天守閣の名に相応しく、葺か
れた瓦も尋常な瓦ではない、金箔瓦であった。またその巨大な天守曲輪の傍には幾つもの大小天守が並び
立ち、高欄の擬宝珠はすべて純金、宝珠親柱も架木も平桁も地覆も原色の漆で塗り固められている。侘び寂
びに富んだ、有り体に言えば煤けた不知火の城内しか知らぬ入鹿にとって、これは眼も眩むばかりの色合い
だった。大天守の三層階には多面体の能舞台が張り出し、シテもワキも囃子方も見えぬ閑散とした舞台を昼
日中から焚かれた篝火が煌々と照らしている。それが能好きの国主が何時でも舞える為の腐心と聞き、無駄
と言う名の贅沢に入鹿は眩暈を覚えた。
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