【第17回・学科一般 問2】

 大気の熱力学について述べた次の文章の下線部(a)〜(c)の正誤の組み合わせについて、下記の(1)〜(5)の中から正しいものを一つ選べ。

単位質量の空気について、加えられる熱エネルギーΔq と温度変化ΔT、圧力変化Δp とのあいだには

 Δq = CpΔT - αΔp

が成り立っている。ここで、Cp は空気の定圧比熱、αは比容である。断熱変化する場合は (a)Δq=0 であり、空気密度ρと定圧比熱 Cp の積 ρCp は (b)ΔT/Δq となる。ρCp の単位は国際単位系(SI)で (c) PaK-1 と表すことができる。

   (a)  (b)  (c)
(1)  誤   正   正
(2)  正   誤   正
(3)  正   誤   誤
(4)  正   正   誤
(5)  誤   正   誤

  

 

解説:

 初歩的な熱力学の公式についての問題ですが、おそらく物理を学んでこなかった人にとっては、問題集の解説をいくら読んでも、知らない外国語の本のように何が書いているのかさっぱりわからなかったことと思います。
 これまで単位や気体定数の次元など、物理量に関する問題は出ていましたが、今回の問題はそれらよりもっと難しいものです。第17回試験から難しくなったなあと感じた人がいたとすれば、初っぱなからこんな問題が出たことが理由かもしれません。

 

熱力学方程式

 気体が外部から熱(ΔQ)をもらったとき、その熱は次の2つのことに使われます。

  1) 気体を暖めるのに使われる (内部エネルギーの増加、ΔU
  2) 気体が膨張して体積を増加させるのに使われる (
外部への仕事、W

このことを式で表すと、

ΔU = ΔQ + W

のようになります。どの項も単位は [J] = [m2kgs-2] です。
外部への仕事 W は、圧力 P と体積変化 ΔV とを用いて次のように表せます。

ΔU = ΔQ + PΔV  ← w = PΔV

 

この式のそれぞれの項を移行して位置を変え、

ΔQ = ΔU - PΔV

問題で使われている文字を使って式を書き改めれば次のようになり、

Δq = CvΔT - pΔα   ・・・ (A)   ← ΔU = CvΔT、 PΔV = pΔα

この式を変形すると、問題文中で示されている式になります。

Δq = CpΔT - αΔp  ・・・ (B)

 

※ この(B)式がどうやって導かれたかは下の「(A)式から(B)式への導き方」を参照してください。
「一般気象学(小倉義光 著)」に書いてある式変形のやり方のほうがよいという人は
こちらを見てください。

 ただし、問題文中では(B)式は与えられていますので読み飛ばしてもかまいません。

 

 

(A)式から(B)式への導き方

 

気体の状態方程式

pα = RT

において、圧力p、比容α、温度T がそれぞれ、+Δp、+Δα、+ΔT だけ増加して
p +Δp、α +Δα、T+ΔT になったとすると次のようになります。

(p +Δp)(α +Δα) = R(T+ΔT)

この式を展開すると、

+αΔp + pΔα +ΔpΔα  =  RT + RΔT
          
極めて小さいので無視できる

pα = RT であるので両辺打ち消しあえます。それ以外の部分だけを抜き出して、

αΔp + pΔα = RΔT   ・・・ (1)

 

定圧比熱 Cp と定積比熱 Cv とのあいだには次の関係があります。

Cp - Cv = R   R:気体定数

両辺にΔT をかけて、

CpΔT - CvΔT = RΔT   ・・・ (2)

 

(1)式と(2)式から

CpΔT - αΔp = CvΔT - pΔα

よって、

∴ Δq = CpΔT - αΔp   ← (A)式 Δq = CvΔT - pΔα より

 

                   以上

 

 

断熱変化

 断熱変化とは気体(気塊)とまわり(外部)とのあいだで熱のやりとりがないということを意味します。つまり、気体に熱が入ってくることもないし、気体から熱が逃げていくこともないということです。
 ですから当然、問題文の式において外部との熱のやりとりを示している Δq は、
Δq = 0 ということになります。

∴ (a) は正

 

ρCp

Δq = 0 ならば、

0 = CpΔT - αΔp

となり、- αΔp を左辺に移項すると、

αΔp = CpΔT

となります。この式の中の比容α は密度ρ と α = 1/ρ という関係がありますから、この式は

Δp/ρ = CpΔT

となります。

 

 問題文中で、「空気密度ρと定圧比熱 Cp の積 ρCp は ・・・ 」とあるので、このρCp をつくるために、
上の式の両辺に ρ/ΔT をかけてやると、

(Δp/ρ)×ρ/ΔT = (CpΔT)×ρ/ΔT

Δp/ΔT = ρCp

となります。

ところが問題文中では 「(b)ΔT/Δq となる」と記述されています(分母・分子が逆)ので、
これは間違いということになります。

∴ (b) は誤

 

ρCp の単位

上で求めた (b) の正しい答をもとに ρCp の国際単位(SI単位)を求めると、

ρCp = Δp/ΔT

   = [Pa] / [K]  ← 圧力 p の単位は[Pa]、絶対温度 T の単位は[K]

よって、[Pa K-1]

∴ (c) は正

 

【別解】

 もし、密度ρ、定圧比熱 Cp の単位を知っていればダイレクトに国際単位(SI単位)を求めることもできます。ただし、多少勘が必要です。

ρCp = [kg m-3]×[Jk-1kg-1]

   = [m-3]×[m2 kg s-2 ] [k-1]   ← [J] = [m2 kg s-2]

   = [m kg s-2] [m-2] [k-1]

   = [Pa k-1]   ← [m kg s-2] = [N]、
             [m
kg s-2] [m-2] = [m-1 kg s-2]= [Pa]

 

 

 答:(2)   

 

  


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