【第13回・学科一般 問10】

 温室効果について述べた次の文章の空欄(a)〜(c)に入れる語句の組み合わせ(1)〜(5)のうち、正しいものを一つ選べ。

 太陽からの放射は、(a) に対して透明な大気を透過して、地球の表面を加熱する。一方、地表面からの放射は、(b) に対して不透明な大気を加熱する。
 大気からは上向きに、太陽からの放射とつり合った放射が宇宙空間に放出され、地球−大気システムの放射平衡が保たれている。
 大気からの下向きの放射は、地表面に達する。地表面には大気からの放射と太陽からの放射の両方が到達する。この両者の放射の和は、太陽からの放射の(c) 倍となり、大気がない場合と比べて地表面温度が上昇する。これを温室効果という。
 温室効果をもたらす大気中の主な気体は、(d) と二酸化炭素である。
 なお、ここでは簡単のため「透明」は全く吸収しないことを、「不透明」とは全て吸収することを意味するものとする。

(a)

(b)

(c)

(d)

(1)

短波放射

長波放射

1.5

水蒸気

(2)

短波放射

長波放射

2

オゾン

(3)

短波放射

長波放射

2

水蒸気

(4)

長波放射

短波放射

1.5

オゾン

(5)

長波放射

短波放射

2

オゾン

  

 

 

解説:

 穴埋め問題であり、一見すると簡単なようにも思えますが、(c) のエネルギー収支についてはきちんと放射平衡を理解していないと解けません。エネルギー収支については「第6回・学科一般 問5 太陽エネルギーの吸収とアルベド (2002.11.24 up)」で触れていますので、こちらのほうを参照してください。

 

電磁波

 下図に示すように、電磁波はその波長によっていくつかの種類に分けられています。その中で私たち人間が目で見ることのできる400〜800nm(ナノメートル)の波長のものを“可視光”と呼んでいます。可視光の波長の外側にも連続して電磁波が存在しているのですが、私たちの目はそれらを直接認識することはできません。赤色光のすぐ外側の波長の電磁波を赤外線、紫色光のすぐ外側の波長の電磁波を紫外線とよんでいます。

 

 

短波放射・長波放射

 太陽が放射する電磁波(太陽放射)には可視光だけでなくさまざまな波長の電磁波が含まれていますが、もっとも多いのは0.475μm (475nm) を中心とした電磁波です。地球自身も電磁波を放出(地球放射)しますが、この波長は11μm を中心としたものです。そのため太陽放射と地球放射の波長の大きさを比べて、前者は短波放射、後者は長波放射とよばれています。

 地球大気はいろいろな気体成分から成り立っていますが、気体の種類によってそれぞれが吸収する光の波長は決まっています。太陽からの短波放射を吸収する気体は大気中に多くないために、短波放射は地球大気をほとんど素通りします。これを「地球大気は短波放射に対して透明である」といいます。
 一方、地球が放射する長波放射は大気中のいくつもの気体が吸収してしまうために、長波放射は地球大気を通り抜けることができません。これを「
地球大気は長波放射に対して不透明である」といいます。地球が放射した電磁波(長波放射)のほとんどは大気や雲に吸収されます。そしてそれらを吸収した大気や雲は再びそのエネルギーを地表に向けて放射します。

 

 地域や季節によって違いや変化はありますが、全体的に見れば地球は一年を通じて一定の気温を保っています。これは宇宙空間から地球へ入ってくる太陽放射のエネルギーと、地球から宇宙空間に逃げていく地球放射のエネルギーの大きさとがつりあっているからです。これを放射平衡といいます。

 

∴ よって、(a)の答は 短波放射、(b)の答は 長波放射 となります

 

 

エネルギー収支

 では、宇宙空間(=大気上端)、大気、地表面それぞれについて放射エネルギーがどれくらい入ってきて、どれくらい出ていくのかということについてもう少し詳しく調べてみます。そのためには下の図にもとづいてエネルギー収支の関係式を立てます。
 図や式に使われている文字式は、 I
E は太陽からの短波放射、 IG は地表面からの長波放射、 IA は大気からの長波放射を表しています。

 

宇宙空間については、太陽からの短波放射 IE が出ていき、大気からの長波放射 IA が入ってくるので、

IE = IA   ・・・ (1)

大気については、地表面からの長波放射 IG が入ってきて、宇宙空間および地表面への二方向に長波放射 IA が出ていくので、

IG = 2IA   ・・・ (2)

地表面については、太陽からの短波放射 IE と大気からの長波放射 IA が入ってきて、地表面からの長波放射 IG が出ていくので、

IE +IA = IG   ・・・ (3)

 

これら (1)、(2)、(3)式を連立して IA を消去すると

∴ IG = 2IE

 となります。 もし、式がよくわからないというならば、上の図で「地表面にどれだけ放射が届き、どれだけ地表面から放射がされているか」を見てみてください。地表面には上方向から2つの矢印 IE と IA が入ってきています。逆に地表面からは1つの矢印 IG が出ていっています。

 この結果は、地球が放射しているエネルギー IG (すなわち地球が吸収しているエネルギー)は、太陽からやってくるエネルギー IE よりも2倍も大きいということを示しています。つまり地表面は、「太陽からの短波放射」と「地表面からの長波放射を吸収した大気からの長波放射」の2種類の放射(その大きさは太陽放射 IE の2倍)を同時に受け、暖められているのです。

 

∴ よって、(c)の答は 2倍 となります

 

 

温室効果気体

 温室効果とは、地球放射を吸収した大気が再び地表面に向けて長波放射をすることで地球を暖める効果であり、農作物の栽培に使われる温室のように、太陽からの光線は取り入れ、温室の中から熱を外に逃がさないようにするのと同じということでこのように呼ばれています(※ 厳密に言えば温室効果と実際の温室とではそのしくみにはちがいはありますが、ふつうはそこまで考えず単に温室効果とよんでいます)。

 すべての気体が温室効果をもつわけではありません。すでに上で述べた熱収支のしくみから考えると、長波領域に吸収帯をもたない気体には温室効果はありあません。二酸化炭素は、その大気中における濃度増加が結果的に地球の温暖化もたらすために世界各国が石油・石炭などのいわゆる化石燃料の使用を抑え、その排出量の削減に努めてるので温室効果気体であることは知っていると思いますが、温室効果をもたらす気体は他にも、フロン、水蒸気、メタン、一酸化二窒素などいくつかあります。実は、この中で最も温室効果の高い気体は水蒸気です。

大気の成分気体

存在率(%)


窒素
酸素
アルゴン
二酸化炭素

78.8 %
20.9 %
0.93 %
0.03 %

 

一酸化炭素
ネオン
ヘリウム
メタン
クリプトン
一酸化二窒素
水素

オゾン

 

 

それぞれ 0.00001 % 以下
(表の順に少なくなる)

※ 赤字は温室効果気体

 

 温暖化防止のために水蒸気を削減せよとは言いませんが、これは水蒸気(=水)は地球に大量に存在し、なおかつ生命にとって基本となる物質だからです。

 選択肢にあるオゾンは、その吸収する波長が紫外線の領域(短波波長領域)にあり、長波長の地球放射に対しては透明(=吸収できない)ので温室効果気体ではありません。 

 

∴ よって、(d)の答は 水蒸気 となります

 

 

以上から、

 

 答:(3)   

 

  


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