[医療の基礎知識-1]
西洋薬でははっきりした効果が得られない病気が、 漢方薬により改善されるケースが少なくない。慢性疾患が 相対的に増えていることもあって、今、漢方医学 が注目されている。漢方についての誤解をただす。
われわれは、漢方医学というと、中国古来の医学のように考えがちだが、
中国では、自分たちの医学を漢方とはいわない。中国では、中国において
発達した医学を「中医学」と呼んでいる。「漢方医学」とは、オランダ、すな
わち西洋の医学が日本に入ったときに「蘭方」と呼んだことに対して
区別する意味で、日本人が従来行っていた医療・医学を、古い中国か
ら伝わったものであることにちなんで命名されたもので、それは江戸時代中期
以降に発達している。つまり、日本流に発達したのが漢方医学で、
そこで用いる薬を漢方薬である。
現在、漢方に取り組んでいる医師(=西洋医学の国家試験を経た医師)
には、大きく二つの流れがあって、日本で発達した漢方医学に詳しい医師たちと、
中国で行われている中医学を積極的に取り入れようとしている医師たちがいる。
漢方を少しだけかじっている医師はとても多い。我々には中国医学の古典とは無関係の
民間療法の知識も混じっており、漢方についての知識は混乱を極めている。
最近では、西洋医学に対して中国や日本の伝統的な医学を「東洋医学」
とまとめることもある。
漢方医学では、病気を治療する前に、養生(体の調子を整えること)を大切
にする。治療にあたっては、体質の弱点をただすことを主眼とし、次に症候
(症状)を除くことを考える。
例えば、皮膚がかゆくて眠れないというアトピーの症状があれば、「四診」
といって、医師は五感を駆使し、患者の訴えを聞いて、顔や舌、皮膚、腹、
全身の状態、脈などから患者の日常生活上の問題点や体質の弱点を診断する。
胃腸に弱点をみつけたとすれば、それに応じて養生させ、漢方薬を処方する。
体質治療の成果が上がれば、それがきっかけとなって、皮膚のかゆみが自然
治癒するはず、という考え方だ。漢方医学の考え方は、一つの症状に対する効果を狙う
西洋医学とはかなり異なっている。体質治療がうまくいった場合「“証”が合っ
た」という。
いくつかの生薬(自然の草木岩石など、例えば柴胡(さいこ)、麻黄(まおう)、
甘草(かんぞう)など)を処方したものを漢方薬(小柴胡湯、葛根湯など)といい、
本来はそれを煎じて飲むのだが、臨床現場では保険点数が低い生薬よりも、
薬品メーカーが製造したエキス製剤が使用されることが多い。
漢方薬は、慢性の病気によく用いられ、慢性の病気に効くという印象があるが、
急性の病気にもよく使われる。漢方薬を使っている医師は、効果が上がら
ない漢方薬を1週間以上も飲み続けさせることはない。
西洋医学の発展に伴い、細菌やウイルスによる感染症などの急性病の多
くは、西洋薬で治せるようになったため、現代医療の対象は慢性病中心に移っ
てきた。慢性病に対しては、西洋医学の治療法が確立していないため、漢方の
出番が多くなってきたのだが、現在では、漢方薬は先端医療の中で、
新たな役割が期待されているという。
西洋薬は、普通、副作用が起こることが予期されているが、抗がん薬の副作
用防止のため、漢方薬が併用されるという使い方がなされている。
東大医学部生体防御機能学のT氏は、
「漢方薬エキス製剤の90%は、医療の質を高める名脇役として登場している」と言う。