アイのプレゼント |
洗い終えた洗濯物を抱えて、サンジは船尾にやってきた。 ぽかぽかと陽気良いこんな日は、洗濯物を干すのも気持ちが良い。 鼻歌交じりでシーツを引っ掛けたとき、ゴツイ靴がシーツの裾から見えた。 ふと覗くと、剣士が大の字になって気持ちよさそうにご就寝中だった。 「人が働いてるときに、コイツは…」 むっとして間抜け面を見てやろうと近づいたとき、腹巻が目に入った。 十代とは思えない親父臭さを、醸し出すそれをしゃがみこんでまじまじとみる。 「結構汚れてんなぁ…」 洗ってはあるが、染み込んだ血はそう落ちるものではない。 薄黒いシミが、所々緑の腹巻に点在している。 以前替えはないのかと聞いたとき「普通のじゃねぇからな」と 言っていたのを思い出した。 (まぁ、剣帯も兼ねる腹巻なんて見たことねぇし) 腹巻自体見たのは、ゾロのが初めてだった。 どの腹巻もこうなんだと、思っていたが、衣料品店で売っているのを 見たときは驚いたものだった。 (そういや、もう時期コイツの誕生日だっけ) 次の島に着いたらさがしてみるかと思いつく。 さっきナミが気候が安定してきたから、島はすぐだと言っていた。 プレゼントが腹巻、というのも変だが、本人が使えるものが良いだろう。 そう決めるとサンジは立ち上がり、洗濯干しの続きに取り掛かった。 立ったついでに剣士を踏みつけるのも忘れずに。 「いやぁ、無いねぇ。」 武器屋の主人は少し困った顔で言った。 剣帯ならいくらでもあるが、腹巻付のは主人も聞いたことが無い。 「やっぱ、そうだよなー。いや、悪かった。」 サンジは片手を挙げ、店を出た。 あれからすぐに島に着き、サンジは町へと繰り出していた。 最初は衣料品を置いてある店を覗いたが当然無い。 今まで入ったことも無い、親父臭い店も覗いたが剣帯付なんてどこにもなく。 剣帯なら武器屋かと思い直し、来てみたがやはりそこにも無かった。 「どうすっかなぁ…」 町をうろつきながら、サンジはため息をついた。 どうしてこんなに躍起になるのか。 無いのなら他のものにすれば良いものを。 答えは一つ。 ゾロのことが………好きだから。 女好きのサンジがまさかとは思うが、好きになってしまったのは同い年の男。 しかも同い年の癖に親父臭い、ロロノア・ゾロとは。 自覚したときは、本人も呆然としたものだ。 しかし、なってしまったものはどうしようもない。 最近になってそう割り切れるようになった。 例えこの想いが叶わなくても。 タバコを咥えたままぶらぶらしていると、とある店が目に止まった。 ショーウィンドウの中に手編みのセーターや、ワンピースなどが 飾られている手芸屋。 (あ、そうか。無きゃ、編めばいいんだ。) 短絡的だがサンジの頭には、腹巻以外のプレゼントは存在していない。 編物などやったことはないが、手先には自信がある。 そう思いつくと、手芸屋のドアを開けた。 「いらっしゃい。」 中に入ると年配の女性が一人。 サンジを見て少し目を丸くした。 「あー、何を入用で?」 「あぁ、腹巻を編みてぇんだが。」 「ハラマキ?」 老婆は益々目を見開く。 どうみても目の前の男は、腹巻なんぞしそうにもない。 老婆の表情にサンジは少し失敗したと思った。 「あ、オレがするんじゃねぇんだけど…」 「あ、そうかい。」 サンジの言葉に老婆はほっとしたらしい。 「編んだことないんだけど、毛糸ってどのくらいあるといいんだ?」 「誰のを編むんだい?」 そう聞かれサンジは言葉につまった。 まさか同い年の男に贈るとは、口が裂けても言えない。 「ウチの船にチビがいてさ…」 咄嗟に思いついた嘘を言う。 「子供ならそんなにいらないね。このくらいで大丈夫だよ。」 「あ…一人じゃないから…」 「何人だい?」 「えーっと…五…人。」 そう言いながらサンジの頭には、チビなゾロが五人思い浮かんだ。 「そんなにかい!大変だねぇ。」 「あぁ、寝相悪くてナー。」 つらつらと思いつくまま、サンジは嘘をならべる。 「なら、これぐらいはいるだろ。あと編み棒も。」 「悪いな。あと編み方の本でもあれば嬉しいんだが。」 「腹巻の編み方は載ってないけど、この編み方を参考にすればいい。」 老婆は色々用意をしてくれながら「若いのに大変だねぇ…」などと呟いている。 「緑色の毛糸だけだけど、いいのかい?チビちゃん達同じになっちゃうよ。」 「あ、あぁ、いいんだ。同じ色じゃねぇとだめなんだ。」 「そうかい。これでいいよ。」 サンジは代金を払うと、紙袋を受け取り店を出た。 「あんた、これチビちゃん達に持っていってあげな!」 追いかけてきた老婆がくれたのは、五つの小さいマスコット。 「若いのに五人も子供がいて大変だろうけど、がんばんなさい。」 どうやら老婆に、五人の子持ちの男やもめと思われたらしい。 バンバンと背中を叩かれ、サンジは「ははは…」と笑うしかなかった。 老婆に勘違いされながらも手に入れた毛糸を手に、サンジは船へと戻ってきた。 キッチンに入ると、取りあえずシンクの下に紙袋を隠す。 ふと船尾を見ると、ゾロが上半身裸で鍛錬をしている。 (チャ〜ンス!) 鍛錬の時、ゾロはシャツと腹巻を倉庫に置いてする。 サンジはこっそりと倉庫に忍び込むと、ゾロの腹巻を観察した。 (なるほど。剣帯は中でベルトになっているわけだ。そうだよなー。 じゃなきゃ脱ぎ着できねぇもんな。そんで、ここは…) ゾロが鍛錬を終えるまで、サンジはたっぷりと腹巻の観察をした。 深夜皆が寝静まった後、サンジは腹巻を編み始める。 最初は手間取ったが、慣れて来ると意外と楽しい。 楽しさ故につい寝るのが遅くなる。 気がつくと朝になっていたこともある。 しかしそんな努力の甲斐があってか、腹巻は完成に近づいていった。 ゾロの誕生日、サンジはひどく機嫌が良かった。 何度も解いては編み直しをしたが、昨夜やっと腹巻が完成したのだ。 今夜のパーティーの仕込みをしている後ろで、ナミとビビがお茶を飲んでいた。 この間の島で買ってきたらしい雑誌を見ながら、おしゃべりしている。 「ふ〜ん、手編み特集だって。」 「あ、このセーター可愛い!」 「あら、ほんと。ビビに似合いそうね…」 パラパラとめくっていくと、男性用のセーターの写真が出てきた。 見出しには『カレに手編みを!』の文字。 「ビビは手編みあげたことある?」 「子供の頃、父に小物を作ってあげたことがあるくらいよ。ナミさんは?」 「ないなぁ…。セーターとか必要無い所だったし。ねぇ、サンジ君は貰ったことある?」 「うーん、バラティエじゃ客からプレゼント貰うことはあったけど、手編みはないなぁ。」 「ルフィは…無さそうよね〜。ウソップもなさそう。」 「Mr.ブシドーは、有りそうですよね。」 ビビがそう言った時、噂をすればなんとやらでゾロが入ってきた。 「ねぇ、ゾロ。あんた手編みのもの貰ったことある?」 「は?なんだよ、いきなり。」 「いいから!貰ったことある?」 「…あるが…」 「えっ!?あるの!」 「だが、すぐ返した。」 「なんで?」 「そんなモン、好きでもねぇヤツから貰ったって、気味悪いだろうが。」 面倒くさそうに答えたゾロに背を向けていたサンジは、その言葉に固まってしまった。 そんなサンジに三人とも気がつかず、話しつづけた。 「気持ち悪いかしら?」 「なんか怨念でも篭ってそうじゃねぇか。」 「そういうものかしら。」 ナミとビビが首を傾げていると、外でルフィ達が呼ぶ声が聞こえた。 三人が出ていってしまった後、サンジは崩れるように椅子に座った。 何も考えていなかった。 ゾロに腹巻を編んでやるということに夢中になり、喜ぶかどうかなんて。 ゾロが喜ぶわけが無い。 喧嘩ばかりの自分が編んだものなんて。 男の手編みのものなんて。 放心したまま、グツグツと湯気を立てている鍋を、ただ見ていた。 大騒ぎのバースディパーティーが終わり、サンジは見張り台にいた。 今日はいくら飲んでも酔うことが出来ず、酔いつぶれたクルーの代わりに見張りに立った。 結局せっかく編んだ腹巻はあの後、ごみ箱に捨てた。 あんなことを聞いてしまった後で、渡せるわけが無い。 想いも一緒に捨てることが出来たら、どんなにいいか。 でも、捨ててしまうには大きくなりすぎていて。 どうにもならない気持ちを持て余したまま、綺麗に晴れた夜空を見上げた。 ゾロはこっそりキッチンに来ていた。 理由はヤケ酒のため。 今日は自分の誕生日で皆から沢山のプレゼントを貰った。 だけど、一番欲しかった人からは何も無くて。 それどころかヤツはちっともそばに来なく、おめでとうも無かった。 ほんとにほんとに、一番欲しかったのに。 ワイン棚から適当なのを一本抜いた。 栓抜きを出そうと食器棚の引出しを開けたとき、ふとごみ箱が目に入った。 蓋から何かはみ出している。 何気なくそれを取り出してみると、紙袋の中に緑の毛糸。 (毛糸・・・?) 紙袋からその緑を取り出してみると、緑色の腹巻だった。 ゾロは腹巻を手に首をひねった。 自分の腹巻は今、ちゃんと自分の腹にある。 この船の中で誰が腹巻を使っているのだろう。 良く見るとこの腹巻は新しい。 もっと良く見ると脇に穴が出来ていて、自分のものと良く似ている。 その時がたんとドアの開く音がして、振りかえると絶句して立ち尽くすサンジがいた。 見張り台にいたサンジはあまりの寒さに身震いした。 さっきまで酒のせいか然程感じていなかったが、それが醒めたせいかどうにも寒い。 くしゃみを一つしてから、もそもそと見張り台から降りる。 確かキッチンに予備の毛布があった筈。 ついでに熱いコーヒーでも持ってこよう。 そう思ってキッチンを見れば、消したはずの明かりが点いている。 誰かがキッチンに入った気配なんて感じなかったから、自分が消し忘れたのだろう。 溜息をついてから、キッチンのドアを開けるとごみ箱の前にゾロがいた。 振り返ったゾロの手には、サンジが捨てた腹巻が。 驚きのあまりに声も出ず、ただ立ち尽くす。 「おい、これ…」 ゾロの声に我に返ったサンジは慌ててドアを閉め、その場から逃げた。 「あっ、おいっ!」 腹巻を手に慌ててゾロも、キッチンを飛び出した。 どたどたと後ろから足音が聞こえ、 船尾の方へと回るとサンジがぎょっとした顔でゾロを見る。 「お前、これ…」 ゾロが言いかけると、サンジはみかん畑に飛び乗った。 舌打ちしながらゾロもみかん畑に、乗り込む。 そうするとサンジは飛び降りて、またゾロがそれを追う。 ゾロが追い詰めたと思ったら、サンジはその脇をすり抜ける。 身軽さで言えばサンジの方が少し上らしく、狭い船内を巧みに逃げ回った。 しかしゾロも諦めず、とうとう船首にサンジを追い詰めた。 「っく!」 サンジが脇を抜けようとした時、ゾロが雪走を鞘ごと抜き通せんぼしてしまった。 お互いはぁはぁと肩で息をしながら、にらみ合う。 さっきまであんなに寒かったのに、今は汗が流れるほど。 ゾロに至っては、体から湯気が立ち上っている。 「何で、逃げるんだ。」 「てめぇが、追っかけてくるからだろ!」 「お前が逃げるからだろうが!」 ゾロが怒鳴り返すと、サンジは顔を背けた。 「…これは、お前のか?」 「…オレんじゃねぇ…捨てたんだから。」 「じゃあ、元はお前のか?」 「…」 「そうか。」 横を向いたまま黙っていると、カチャカチャと音が聞こえた。 そちらを見ると、ゾロが剣帯を外し自分の腹巻を脱いでいた。 「?」 何をするのかと思って黙って見ていれば、 今度は真新しい腹巻を着け剣帯を着けてしまった。 「てめぇっ!何勝手に…」 「お前が捨てたんなら、別に俺が使ってもいいだろ。」 「捨ててあったモン、使うなよ!」 「俺の勝手だろうが。」 そう言うと、今まで使っていた腹巻をサンジへと放り投げて寄越した。 「そっち、捨てとけ。」 「てめぇ!好きでもねぇヤツの手編みは気持ち悪いんだろうが!」 「あぁ、そうだ。」 「だったら使うなよ!それ!」 「…気持ち悪くないから使うんだ。」 それだけ言うとゾロは背を向けて階段を下り始めた。 サンジは手の中にある、ゾロの腹巻を見る。 まだ少しだけゾロのぬくもりの残る腹巻。 『気持ち悪くないから使うんだ』 ゾロの言葉を思い出す。 (それって…まさか…) 「ゾロ!それってどう言う意味だよ!」 サンジが叫ぶと今度はゾロが逃げ出した。 「あっ、おい!」 サンジが追いかけるとゾロはダッシュで逃げ出す。 「何で逃げるんだよ!」 「お前が追いかけるからだろうがっ!」 「てめぇが逃げるから追いかけてんじゃねーか!」 そんな可笑しな追いかけっこは、朝まで続いた。 |
きゅー様から頂きました!
ゾロ誕SS第一弾!!
とっても爽やかで初々しい二人をありがとうございました〜vvv
編み物に挑戦するサンジ!萌えッ!私にも毛糸のぱんつ編んで〜vvv(バカ)
私も若気の至りで編み物にはまったコトもあるんですが、暇潰しにはもってこいだけど、完成に至ったモノは‥‥‥
チビ用に編んだマフラーくらいかなッ。
私ね、きゅーさんの描かれるサンジの台詞回しが好きなんですよ〜vv
最近乙女系サンジにげんなりし始めているので、きゅーさんの男らしい台詞を吐くサンジにホッとします。
‥‥っていうか、メロってます(笑)
ところで。
『第一弾』というからには当然『第二弾』へと続くわけで‥‥‥ふふふふふふふふふふ。
も一つ頂いちゃいました〜vvv♪