今日は何の日? |
ゾロには、半年程前から恋人がいる。 いや、恋人と言えば語弊がある。 正確には『想いを伝え合った』者がいる。 深夜というにはまだ早い時間だったが、ゾロは日課の鍛錬を終えると ざっとシャワーを浴び、キッチンへと向かった。 扉を開けると、この船のコックが顔を上げた。 そしてゾロを見ると、ふわりと笑った。 「よぉ、終わったか。」 「あぁ。」 ゾロの短い答えに軽く頷きながら、ワインラックへと移動した。 「あ、今日はいい。」 「へ?」 「今日は忙しかっただろ?早く寝ようぜ。」 「あ・・・わかった。」 ゾロの断りに少し残念そうに笑ったが、今度は冷蔵庫からピッチャーを取り出した。 「じゃ、これで水分補給しろ。」 「さんきゅ。」 ゾロ専用のスペシャルドリンクを飲み干し、ゾロはキッチンを出ながら振り返った。 「じゃ、お休み。お前も早く寝ろよ。」 「あぁ、お前こそ明日早く起きろよ。」 サンジの悪態にも、笑みを浮かべつつ扉を静かに閉めた。 ゾロが『想いを伝え合った者』とは、信じられないことだがコックのサンジだった。 いつの間にやらサンジの事が好きになっていた。 伝えられることの無い想いだろうと半ば諦めていたのだが、 ひょんなことからサンジの想いを知る事が出来た。 自分の想いもサンジに伝え、今に至っている。 お互い照れからか昼間は以前のように喧嘩三昧だが、 夜皆が寝た後サンジの手料理をつまみに酒を酌み交わす。 そんな毎日だった。 男部屋へ降りると、寝たと思っていたルフィ達が額を寄せ合いこそこそと話をしていた。 「お前たち、まだ起きてたのか。」 「あ!ゾロ!」 「さっさと寝ろよ。」 そう告げ自分のハンモックへ乗りこもうとしたゾロの足を、何かが掴んだ。 足元を見ると、ルフィの手がしっかりと伸びている。 「何やってんだ。」 「なぁ、ゾロってセックスしたことあるか?」 「はぁ!?」 いきなりの質問に振り返ると、三人の目がキラキラとゾロを見上げている。 その傍らには、ワインの空瓶が二本転がっていた。 「酔っ払ってんのか・・・」 「なぁー、したことあるかー?」 「あのなぁ・・・」 普段子供じみたことで喜んではいるが、ルフィ達だってそれなりのお年頃だ。 最近こそこそと話していたと思ったら、そんな事だったらしい。 「なぁーってばー。」 「うるせぇな。どうだって・・・」 「いーじゃねーかー。ちっとくらい教えてくれよー。」 そうこうしているうちに、ルフィの腕が、どんどんゾロの足に巻きついてしまっていた。 これは話すまで開放されないだろうと、ゾロはため息をついた。 「・・・あぁ、ある。」 「お!あるのか!?」 「いつ頃だ?」 「お前たちに会う前だよ。」 ゾロが海賊狩りと呼ばれていた頃、助けた娼婦や女たちとした事がある。 当人はそのつもりで助けたわけではなく、ただ相手が賞金首だったり食事中に うるさかったので退かしただけであったのだが。 こぞってお礼と称してはベッドへと誘われた。 お年頃だった(今もだが)こともあり、別に断る理由もないことからよく一夜を共にした。 あれはいつだったか。 助けたのは男だったが、お礼にと一晩泊めてもらったことがある。 深夜、男の妻がベッドに入ってきたときは驚いた。 もちろんその男はぐっすり夢の中にいた。 そんなことを掻い摘んで話してやると、お子様三人はそろって感心のため息をついた。 「ゾロってすごいんだなー。」 「ブイブイいわしてたんだなー。」 「なんだよ、それ。もういいだろ。俺は寝るぞ。」 「えーもっと聞かしてくれよー。」 「うるせぇな!離せ!」 「何やってんだ、お前ら。」 上から降ってきた声にゾロはぎょっとした。 見上げるとサンジが呆れたように、梯子を降りてきた。 「別になん・・・」 「おーサンジ!今、ゾロの昔話聞いてたんだ!」 「凄いんだぞ!ゾロってば!」 「オンナをブイブイいわしてたんだ!」 「なっ!てめぇら、勝手なことを・・」 慌ててゾロが言いかけると、サンジはひらひらと手を振りながら自分のハンモックへと 乗り込んだ。 「マリモの下半身自慢なんて、聞きたかねぇよ。お前らも早く寝ろよ。」 「ちぇー、つまんねーなぁ。」 「いいから寝ろ、お前ら!」 ぶーぶー口を尖らすルフィ達を蹴飛ばし、ゾロも自分の寝床へと潜り込んだ。 三人もぶちぶち言いながらハンモックへと乗り込み、暫くすると鼾が聞こえてきた。 ゾロはそっとサンジの方を伺うと、こちらに背を向けて寝てしまっている。 (なんか・・・やばかったよな・・・) その夜、ゾロは中々寝付く事ができなかった。 ある夜、ゾロは鍛錬の手を休めて、船尾に腰を下ろした。 最近サンジの様子がおかしい。 ゾロと会話を交わさなくなった。 元々昼間は用事か喧嘩くらいしか言葉を交わすことは無かったのだが。 夜もゾロより早く寝てしまうようになり、ここ二〜三日の会話は皆無だった。 多分あの夜の事が原因ではあると思うのだが。 別にセックスの経験を仲間に知られるのなんて、どうということはない。 皆それなりの年だし、経験があったっておかしくはない。 しかし、恋人に知られるのは嫌なものだ。 いや、これが女だったらゾロも気にしなかったに違いない。 相手がサンジだから、嫌なのだ。 想いが通じてから一ヶ月経った頃だろうか。 サンジを抱きたいと思っている。 恋人なら誰だって抱きたいと思うだろう。 相手が女ならとっくに抱いているのだが、サンジは男だ。 男が男に抱かれたいとは、そういう趣味が無い限り思わないだろう。 ゾロだって抱かれたいとは、思わない。 サンジが自分を抱きたいと思っているかは判らないが、 抱かれたいとは思っていないはず。 そんな事を言い出して、折角の関係を壊したくはなかった。 そんな事を思いながらふと目を上げると、キッチンは珍しくまだ明かりが点いていた。 久しぶりの光景にゾロは腰を上げ、キッチンへと向かおうとしたとき。 窓の中に見えたのは、サンジとナミ。 キッチンで書き物をしていたナミの為に残っていたのだろう。 ナミがサンジに何か言ったらしく、サンジは振り返り笑顔になった。 少しむっとする。 自分とは目も合わせないくせに。 またナミが何か言うと、今度は俯いた。 ナミが怪訝そうな顔をしたとき、サンジはとても真剣な面持ちで顔を上げ何か言った。 それにナミの顔が赤くなり、暫くするととても嬉しそうな笑顔になった。 サンジも赤くなりながら、少しほっとしたように笑顔になる。 ゾロの心の中で、何かが壊れたような感じになった。 ぎゅっと唇を噛み締めると、ドカドカとキッチンを通り過ぎ男部屋へと入っていった。 その夜、サンジが男部屋に来る事は無かった。 一ヶ月程の海上生活を経て、やっと島影を発見した。 上陸準備を終え、ゾロは船尾で昼寝を決め込んでいた。 サンジはさっさと船を降りていた。 いつもなら掛かる荷物持ちのお誘いも今日は無かった。 あの晩、ナミとサンジのことはゾロの中で結論が出ていた。 たぶんあれはサンジがナミに告白したのだろう。 そしてナミもそれを受け入れたのだ。 だってそうだろう。 ナミを特別扱いしているのは、誰の目にも明らかで。 ナミもそれを当たり前のように受けている。 時々二人で何か話しては、サンジが赤くなっている。 あの想いが通じたと思ったのは、幻だったのだろうか。 ゾロの腹にどっかりと衝撃が来た。 ヒールの痛みを感じた事で、それがナミだと判った。 「いてぇな、ナミ。」 「あら、起きてたの?」 上を見るとナミが、腰に手を当てて見下ろしていた。 「ちょっと付き合ってよ、ゾロ。」 「・・・何の為に・・・」 「買い物したいのよねー。このままのログで行くと次は秋島みたいだから秋物が欲しいの。」 「・・・だったら、アイツと行けばよかっただろう。」 「アイツ?」 「てめぇの・・・・・・コック」 恋人、と言いそうになってゾロは眉をしかめた。 そんなゾロを見てナミは一瞬驚いたようだったが、すぐにニヤリと笑った。 「サンジ君なら用事があるとかでとっくに降りたわ。それに沢山あるから アンタが一番いいのよ。」 「何の義理で・・・」 「借金が倍になってもいいなら、断ってもいいわよ。」 「・・・っち!」 舌打ちをしながらゾロは、やっと重い腰を上げた。 「あら、この服可愛い!ゾロっ、次はここよ!」 返事も待たずにずんずんと店に入っていくナミの後姿に、ゾロはため息をついた。 ゾロの両腕には何十という紙袋がぶら下がり、手のひらの上には三つ箱が重なっている。 食材に比べれば軽いのだが、いつもの買出しより何十倍もゾロは疲労していた。 「やあねぇ、そんな顔しなくてもいいでしょう。」 「うるせぇ。」 買い物を終え、やっとカフェで腰を下ろすことができた。 しかし、ゾロにしてみれば何が嬉しくて恋敵とお茶をしなければならないのか。 余程、船で昼寝をしていた方がいいことか。 しかしナミは仏頂面のゾロを気にすることなく、外を眺めていた。 「こんなとこで、油売ってるよりさっさと船に戻らないか。」 「あ、ちょっと待ってて。」 イライラしたゾロに気にすることなく、ナミが席を立った。 それを何気に目で追っていると、表にサンジの姿があった。 外に出たナミがサンジに声をかけた。 途端に笑顔になるサンジに、ゾロの眉間にしわが寄る。 一言二言、サンジと言葉を交わしたナミが店に戻ってきた。 「じゃあ、私は帰るわ。ゾロ、ありがとね。」 「・・・あぁ。」 荷物を手にしたナミを見ようともせず、返事をしたゾロの目の前にナミは 小さな紙袋を置いた。 「これ、付き合ってくれたお礼よ。」 それだけ言うと、ナミは店を出て行った。 ゾロには立つ気力も、外見る気力も無かった。 無言で店の壁を睨んでいた。 「おい、無闇に睨んでんじゃねぇ。クソ剣士。」 掛けられた声に振り返ると、ナミと行ってしまったと思ったサンジが呆れたように 見下ろしていた。 「お、まえ・・・」 「来いよ。」 外の方を顎でしゃくると、サンジはそのまま外へ出て行った。 ゾロは訳も判らず、サンジの後を追った。 言葉も交わさず、ゾロはサンジの後ろを歩いていた。 (なんなんだよ、いったい・・・) イライラと?マークいっぱいのゾロを気にせず、サンジは町の外れまで歩いた。 「・・・おい・・・」 「ここだ。」 サンジがやっと止まった処は、一軒の小さなホテル。 またサンジは、ゾロを気にすることなくホテルの中に入っていった。 慌ててゾロもサンジの後を追うと、サンジはカウンターで鍵を受け取ってずんずんと 中へ入っていく。 「待てよ、おいっ!」 ゾロを無視したサンジは一つのドアを開け、ゾロに入るよう無言で促した。 一歩中に入ると小奇麗な部屋。 「っな・・・」 入り口でゾロが戸惑っていると、思い切り蹴られた。 無防備なゾロは目の前のベッドへと転がった。 「っ!てめっ、なにす・・・」 文句を言おうと振り返ったゾロに、サンジが覆いかぶさってきた。 「!」 「・・・今日、何の日か知ってっか?」 「は?なんの・・・!」 疑問を口にし様とした時、ゾロの唇はサンジのそれで覆われてしまった。 目を見張ったゾロを、睨むようにサンジは覗き込んでいる。 「今日はな・・・、未来の大剣豪が生まれちまった日だ。」 「・・・」 「だから、オレが・・・全身全霊で・・・祝ってやる。・・・てめぇの好きにしな。」 そう言ったサンジがうっすらと朱に染まった。 「それって・・・」 「ごちゃごちゃ言うな!」 さらに紅くなったサンジに、今度はゾロから唇を重ねた。 深い長いキスと解くと、ゾロはサンジを覗き込んだ。 「いいのか?」 「言っとくけどな、てめぇだからだ。てめぇだから腹ぁ括ったんだ。」 紅い顔で怒鳴るようなサンジに、ゾロは泣きそうになった。 「・・・ありがとな。」 「・・・ゾロが今まで抱いたレディに負けねぇよ・・・?」 急に震えるような声のサンジに、あの夜の事で不安になっていたのは自分だけではないと ゾロは気がついた。 サンジもまた、苦悩していたのだ。 ゾロはそっとサンジの頬を、両手で包んだ。 「てめぇからのプレゼント、俺も全身全霊で受け取る。」 『今日は何の日?』 『今までで、一番嬉しい日』 |
というワケで、きゅー様からのゾロ誕頂き物第二弾〜☆
すンばらしいじゃありませんかッvvv
第一弾から一歩どころではなく進展した彼等!!純潔(は?)を捧げるサンジに、泣きそうになるゾロ!!
経験豊富なゾロも、またステキだァ〜vvv
それにしても、酔っ払った勢いで単刀直入な質問を投げてきたお子ちゃまズがカワイイっ!!
おねイさんが何でも教えてあげるわよ〜vvv(オバサンの間違いダロ)若かりし頃は『下ネタクイーン』との呼び声も高く‥‥‥(自爆)
こんなステキな作品を二つも頂いてしまって、きらは幸せモノですッ!!
実は最初、「どっちがいいですか?」ときゅーさんから尋ねられたのを、「両方!!」と図々しく答えたのでした☆
でも、恥を捨ててお願いした甲斐、大アリ!!
きゅーさん、本当にありがとうございましたvvv