秋山郷ではもっとも開けた穏やかな顔をのぞかせる屋敷の地に、この温泉は湧く。
近くに秋山郷民俗資料館もあるので、立ち寄ってみるのもよいかも知れない。
秀清館で出迎えてくれたのは、なんと平家の落人ならぬツバメたち。玄関といわず館内を、自由に飛び回っている。まるで大きな鳥かごの中にでもいるかのようだ。
ガラス張りの浴室から中津川の川面が見渡せる。宿へと続く坂道を、3人の若者たちがこちらに向かってやってくる。あわてて、湯船に飛び込むが、何ともぬる〜い。
勝手知ったる他人のお風呂。水栓をギュギュッとしぼる。しかし、「クルマは急に止まれない」のと同様に、すぐに熱くなってはくれない。須川のように、ドドッとお湯が流れ込んでるわけではないんだからさ。
窓際に大人一人分の寝湯がある。これがまた、つま先しか入れられないほど熱いのだ。瞬時に名案ひらめくワタシ。さっそく、桶でもって、せっせとお湯を運び続け、二三十杯も流し込む。にも関わらず、「大海の一滴」とまでは言わないが、徒労に終わる・・・。どこが名案? おバカさん・・・。
万座と同じ硫化水素泉だけに、浴室内には腐卵臭が漂い、何ともうれしい。飲めるお湯なら飲むに限る。お味の方は、玉子のカラの内側に、かる〜く塩をまぶしてなめた感。こちらもいける。
帰り際、宿から続く坂道わきに、大きな池が姿を見せる。鯉でも泳いでいるかと思いきや、それは、何とも開放感豊かな混浴露天であった。脱衣所があるところからすると、断じて温水プールではないようだ。真昼間、衆人環視のもと、浸かる人っているのかな〜?
ふと、ガラス張りの浴室を見上げると、中なんて見えやしない。とんだ取り越し苦労をしたもんだ。
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