情報センター通信No.10
2000.9.15発行


環境基本条例を考える
「情報センター通信」編集部

町田市には環境政策のマスタープランとしての「環境基本計画」がなく、その策定が急務となっていたことから、総合環境計画の策定に向けた取組みが始まりました。はじめに施策の基本理念や基本方針を定める環境基本条例づくりに向け、1999年7月に、堀部政男さん(中央大学教授)を委員長とした「町田市環境基本条例案検討委員会」が設置され、審議が進められてきました。そして、今年7月19日に、「町田市における環境基本条例のあり方について」を市長に答申しました。これまで計10回の委員会が開かれ、今年の5月には中間報告を一般公開し、意見の募集も行なわれました。しかし、その審議の進め方や、市民参加のあり方、配布資料等、いくつかの問題点が傍聴した市民から指摘されています。
今年12月議会にこの条例案はかけられる予定ですが、次のステップとしての具体的な行動指針となる環境基本計画(今年10月頃から取組み予定)の策定に向け、積極的に市民が参画していくための参考資料として、委員会の答申した条例案(町田市案)と、まちだ市民情報センターに寄せられた市民案の、骨格となる部分を比較掲載します。なお、市側案には、市民案の「施策の基本的方針」に対応する規定がないため空欄としました。この部分の市民案はフォントを変えて表示しています。


■市側案
(前文)

私たちの町田市は、多摩丘陵の北部に位置し、緑豊がな丘陵地と、境川や鶴見川などの源流を有しており、また数多くの縄文遺跡の発見にみられるように、生活の場としての永い歴史を有している。それは、先人たちが、太古からその豊かな自然の恩恵を享受しながら生活してきたことを物語っている。そのような永い時を経て、現在、首都圏で有数の商業都市、住宅都市として発展し続けている。
一方、現代社会での生活、あるいは経済活動は、資源を過剰に消費するとともに、膨大な廃棄物を生み出し、環境に対して多大なる負荷を与えてきた。その結果、私たちを取り巻くあらゆる環壊が悪化してきている。このことは、比較的多くの自然が残されている町田市でも例外ではなく、先人たちが思恵を受けてきた豊かな環境は、次の世代へ引き継ぐことはもちろん、維持することさえ困難な状況に立ち至っている。このような環境の悪化は、私たちのまわりだけではなく、地球全体に広がっている。
その意味で、地球規模での環境問題への早急な対応が迫られている現代社会においては、私たちは良好な環境を単に自然から与えられるものとしてではなく、すべての者による保全、回復、創造の努力によってはじめて享受できるものとして考えねばならなくなっている。
私たちは、健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要とする、良好な環境を享受する権利、すなわち環境権を有している。同時に、私たちには環境をより恵み豊かなものとして次の世代へと継承していく責任と義務がある。良好な環境の恩恵は、私たちの世代だけに与えられるものではない。将来の世代もその思恵を享受する権利を有しているのである。
私たちは、がけがえのない生命と自然を守るために、すべての者の総意として、良好な環境を保全、回復、創造するとともに、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な循環型社会の実現を目指して、ここに町田市環境基本条例を制定する。

(基本理念)

第3条 環境の保全等は、良好な環境及び環境権の確保を図るとともに、このことが将来にわたって継続されるよう適切に行われなければならない。
2 環境の保全等は、生物多様性(生物種、遺伝子及び生物生息環境の多様性を含む。
以下同じ。)を含めた自然環境及び歴史的文化的環境が保全及び回復されるよう適切に行れれなければならない。
3 環境の保全等は、市、事業者、市民、在勤在学者及びその他町田市に関わる者(以下「すべての者」という。)が公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に環境への負荷を低減するよう行動することにより、循環型社会を基調とした環境への負荷の少ない持続的発展が可能なまちを構築することを目的として推進されなければならない。
4 地球環境の保全は、地域の環境が地球全体の環境と密接に関わっていることから、すべての者がこれを自らの問題として認識し、そのすべての活動において国際的な認識及び協力の下に積極的に推進されなければならない。

(事業者の責務)

第5条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に伴う環境への負荷の低減、公害及び環境汚染を防止するために、必要な措置を講ずる責務を有する。
2 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に係る製品が販売、使用又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に寄与するため、必要な措置を講ずる責務を有する。
3 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に係る役務が提供及び利用されることによる環境への負荷の低減に寄与するため、必要な措置を講ずる責務を有する。
4 事業者は、基本理念にのっとり、市が推進する環壊施策に積極的に協力し、地域の環境の保全等に関する取組に積極的に参加又は協力する責務を有する。

(環境審議会)

第27条 環境の保全等に関する基本的事項を調査、審議する等のため、市長の付属機関として、町田市環境審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、市長の諮問に応じ、次に掲げる事項について調査、審議し、市長に答申する。
(1)環境基本計画及び環境行動指針の策定
及び変更に関すること。
(2)環境に関する主要な施策又は方針の立案に関すること。
(3)環境の保全等に関する施策の報告に関すること。
(4)前三号に掲げるもののほか、環境の保全等を推進するために必要な事項
3 審議会は、前項各号に規定する事項を調査し、審議する場合において、必要があると認めたときは、環境に関する情報その他必要な資料の提出を市長その他関係機関に求めることができる。
4 審講会は、環壊の保全等に関し、必要があると認めたときは、市長に意見を述べることができる。
5 審議会は、委員15名以内をもつて組識し、次に掲げる者のうちから、市長が委嘱する。
(1)学識経験者
(2)市民
(3)事業者
6 委員の任期は、2年とし、再任を妨げない。ただし、補欠委員の任期は、前任者の残任期間とする。
7 市長は、特別又は専門の事項を調査し、審議するために必要があると認めたときは、審議会に臨時委員を置くことができる。
8 委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また同様とする。
9 前各項に定めるもののほか、審議会の組識及び運営に関し必要な事項は、町田市規則で定める。

■市民案

(前文)

人類の歴史は自然との闘いの歴史でもある。いかに自然を征圧するかに叡智が傾けられて来た。それは我が国においても同様であったが、近代化指向に益々拍車がかかり、工業や経済が優先される高度成長時代に至って、それまでの自然環境との折り合いの範囲から大きく逸脱した、自然の征服とも言うべき大規模な環境破壊が繰り返されるようになった。町田市は多摩丘陵の北部に位置し、数多くの縄文遺跡の発見に見られるように古代からの歴史を刻む地域である。緑農かな丘陵地に鶴見川、境川の源流域を有し、里山を活かした農のある風景は町田市の特徴ある景観のひとつとなっている。一方、中心市街地には古くから商業が栄え、首都圏における有数の商業都市、住宅都市として発展してきた。
しかし、中心市街地の再開発によって古きよき「まちだ」の姿は変貌しつつあり、住宅建設等の大規模開発の波に、先人達の不断の努力と苦悩の下に維持されてきた緑豊かな里山の風景も今や存続の危機に立たされている。同時に私たちが追い求めてきた快適さや便利さを最優先する消費生活とそれを支える消費構造は、大量の廃棄物を生み出し、車社会による化学物質汚染と共に、取り返しのつかない環境破壊を招いたのである。
人間の社会活動を通して発生する環境負荷の影響については、街という一定空間の中にある緑地や河川等の自然形態が許容できる「環境容量」という考え方に立って考えていく必要がある。その容量にはおのずと限度があることを認識し、それに見合った人口政策・交通政策・廃棄物政策・環境政策などを考えていく必要がある。物質的発展もこの範囲内でのみ成立が可能であるといえる。
 言うまでもなく、私たちが健康で安心できる生活を営むためには、安全な水や空気を供給してくれる良好な自然環境が必要であり、自然の恵みを享受できる権利[環境権]は、基本的人権の一つとして世代を越えて守り継がれていかなければならない。かけがえのない[いのちと自然]を守り育てる地域社会を形作っていくためには、単にモラルだけに依存することなく、経済的誘導策を含めた総合的施策の展開が必要であり、ライフスタイルや生産構造の見直し等、市民・事業者・行政には、それぞれの役割と責任の分担の下に不断の努力を積み上げていくことが求められているのである。
 このように、全ての社会活動を「環境」の観点から捉えていくことが何より肝要であり、私たちは失われた自然環境の回復に努めるだけでなく、まちづくりのデザインにも景観や潤いに配慮した「街の品格」という視点を活かしていくことが必要である。
この街に住まい暮らす全ての者がほんとうの豊かさを誇れる街、「環境自治体」の実現を目指して、ここに町田市環境基本条例を制定する。

(基本理念)

第3条 環境の保全についての基本理念(以下「基本理念」という。)は、次に掲げるところによる。
(1)施策はすベて、人が健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要とする良好な環境(以下「良好な環境」という。)を実現しその恵沢を享受するとともに、将来にわたってこの環境を維持するものとして総合的かつ計画的に行われなければならない。
(2)資源、エネルギーの有効利用、廃棄物の減量及び再資源化についての施策は、環境への負荷の少ない持続可能な循環型社会の形成に寄与することを目的として行われなければならない。
(3)生態系及び生物の多様性の確保並びに歴史的文化的環境の保全についての施策は、人と自然が共生できる自然的文化的環境となるように行われなければならない。
2 施策は、基本理念にのっとり、情報公開を前提として、市が計画の段階から事業者及び市民等との協働的な取組みによって総合的かつ計画的に策定され、及び実施されなければならない。

(施策の基本的な方針)

第4条 環境の保全に関してとるべき国の施策に準じた施策及び地域の自然的社会的条件に応じた施策の基本的な方針は、次に掲げるところによる。
(1)資源及びエネルギーの有効利用並びに廃棄物の減量及び再資源化を促進するため、廃棄物その他の環境への負荷となる物の発生の抑制及び排出の抑制を旨とし、「燃やさない、埋め立てない」を原則とした、事業者及び市民等に経済的な誘因を与えるなどの必要な規制、誘導的措置又は経済的措置を含む循環型社会の形成に寄与する施策であること。
(2)大気、水、土壌その他の自然的構成要素及び土地の形状、緑地、景観その他の自然環境を良好な状態に保つとともに、人の健康並びに生態系及び生物の多様性を確保するための必要な規制又は誘導的な措置を含む施策であること。
(3)人と自然に潤いと安らぎをもたらす自然環境及び歴史的文化的環境を保全し、回復させ、人と自然が共生する環境文化を育む施策であること。
(4)その他環境への負荷を低減するために廃棄物の適正処理、安全性確保に十分配慮して減量化を促進するとともに、廃棄物処理施設の適正な配置を図るなど必要な施策であること。

(事業者の責務等)

第6条 事集者は、基本理念にのっとり、市及び市民等との協働により、又は自主的に環境汚染等の発生もしくは自然条件等の悪化を防止するなどにより、環境の保全に努めなければならない。
2 事業者は、基本理念にのっとり、物の製造、加工又は販売その他の事業活動に当り、公害を防止するための措置を講じ、及び事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷を低減するため、その物を再使用し、又は再使用できないときは資源として再利用になるようにし、もしくは再生資源その他の環境への負荷の低減に寄与する原材料を有効利用するなど環境への負荷の低減に積極的に取り組まなければならない。
3 事業者は、開発行為等環境に影響を及ぼすおそれのある事業については、自らその事業の実施に伴う環境への影響をあらかじめ調査、予測及び評価を行い、環境の保全上の見地から必要な措置を講ずるものとする。
4 事業者は、市が実施する施策に協力する責務を有する。
5 事業者は、環境に影響を及ぼすおそれのある活動その他環境への負荷及び保全等に関する情報を積極的に公開するものとする。

(環境審議会)

第9条 環境の保全に関する基本的事項を調査審議する等のため、市長の付属機関として、町田市環境審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、市長の諮問等に応じ、次に掲げる事項について調査、審議し、答申する。
(1)環境基本計画の策定及び変更に関すること。
(2)施策の推進に関すること。
(3)前2号に掲げるもののほか、施策の実施状況に関すること。
3 審議会は、市長に対し、前項に規定する事項に関し、必要な資料の提出を求め、又は必要があるときは市長に意見を述べることができる。
4 審議会は、委員15名以内をもって組織し、委員は次の者のうちから市長が委嘱する。この場合において、委員総数の三分の―は公募委員とする。
(1)市民で公募に応じた者
(2)環境の保全に関する学識経験を有する者
(3)事業者及びその団体の代表者
5 委員の任期は2年とし、補欠委員の任期は残任期間とする。
6 審議会に、専門の事項を調査するため必要があるときは、専門委員を置くことができる。
7 委員及び専門委員は、職務上知り得た秘密を洩らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
8 前項までのほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。

■なお、市民案では、環境基本条例に基づく『環境基本計画』の策定案についても言及していますので、以下にその項目を列記します。

1.環境の負荷の少ない「循環」を基調とした社会(循環型社会)を形成すること。
イ 廃棄物の発生抑制を推進すること。
ロ 使用済み製品を再使用すること。(これがための適正な回収措置をとること。以下の項目において同じ。)
ハ 再使用できないものは再利用(原材料としての利用を含む)すること。
ニ それが適切でない時はエネルギーとしての利用を推進すること。
ホ 最期に発生した廃棄物については適正な処理をすること。

2.健全な生態系を維持・回復しつつ、自然と人間との「共生」を確保すること。
イ すぐれた自然を保全すること。
ロ 森林、農地、水辺地等における自然環境を維持・回復・整備をすること。
ハ 生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性を確保すること。
ニ 緑地、景観及び歴史的文化的環境の維持回復、整備をすること。

3.施策の総合的かつ計画的な実施を確保すること。
イ 経済的負担を含む誘導的施策の効果を調査し、活用すること。
ロ 情報、教育、学習及び広報を利用しやすい形で適切に提供すること。
ハ 民間団体等の活動を促進すること。
ニ 予備調査等を実施すること。
ホ 施策の推進体制を整備すること。
ヘ 財政上の措置を講ずること。

トップページへ
情報センター通信へ
イベント情報へ