情報センター通信第12号
2001年2月25日発行


  町田市公民館の市民講座
   「市民自治のシクミをどうつくるか」を終えて
                町田まちづくり市民会議副議長 渋谷謙三

■ 市民講座はどのように開かれたか
昨年の9月から隔週日全5回にわたって開かれた「町田市公民館の市民講座」は、参加した人たちから「まちづくりの新しい息吹と明るい展望を抱かせてくれる有意義な講座だった」という嬉しい評価を得た。
 "主催は市の公民館、企画と運営は市民の手で"とするいわば公設民営とも言うべきこの講座は、「町田まちづくり市民会議(議長・佐藤東洋士桜美林大学長)」と称する市民団体が企画・提案して実現したものだ。
 この市民会議のここ一年の主な活動は、市民に呼びかけて市内施設めぐりの機会をつくったり、「市環境基本条例案」の公表に際して,折角条例をつくるのなら、建て前でなく実質的に環境保全に役立つ内容に直したらどうかという意見書を出す一方で、市議会の各
会派を訪れて意見書の内容を説明し、条例案修正の働きかけも行ったりしてきた。残念ながらこの条例は市の原案どおり無修正で可決されたが、この条例に続く環境基本計画の原案づくりに、メンバーの8名が参加して各部会で頑張っているところだ。
こうしたわれわれの活動の目的は何かと聞かれれば、「まちは市民のものだから、役所が何もかもひとりで勝手に計画してやろうとするのは間違い。市民と相談しながら進めるのが当然で、それを実践しようとしているだけ」と答えるほかに他意はない。
 最近は「環境・福祉・教育などの分野で、厄介な出来事が続発し、役所だけではなかなか解決出来なくなったから、市民の力を借りることが大事だ」という議論が多いが、われわれはその理屈は本質を突いたものではないと思っている。
いついかなる場合でも、市民はそのまちの主人公であり、役所は本質的には市民の意向で働く公僕であるべきなのだ。
 さきに、この一年の活動を説明したが、実はそれ以前に、われわれは町田市都市計画マスタープランの市民版をつくる作業を「まちネット」という団体のもとでかかわった。
 そのときに役所と市民の共同作業とある種の緊張関係の重要性や必要性をつくづくと味って、引き続きわれわれが手がけたのプランの検証や実現を図りたいと考えて発足させたのが、この「まちづくり市民会議」だった。
そして、われわれの今後の活動の参考となるまちづくりの手本というか、先進的な参加型都市経営の事例を勉強する機会と議論の場を、市民の間でつくりたいと考えたのが「市民自治のシクミをどうつくるか」という少々理屈っぽい、しかし非常に重要なテーマの今回の市民講座となったのである。

■ 講座のプログラム編成とねらい
 5回にわたる講座の内容は別表のとおりで、この一見難しそうな講座に参加してくれた市民は、毎回30名前後の決して多いとは言えない数だったが、それだけに毎回まじめな勉強会らしい雰囲気は保つことができた。
 企画に際していろいろな自治体の名や事例が挙げられたが、この講座は一回だけで終わらせないという前提で、まずは先進自治体の代表として、三鷹市と世田谷区の二つを選び出した。また、国内各地の市民に開かれた自治体行政のいろいろな事例も学びたいと考え、専門家として森戸 哲さんを現状総括の意味合いも含めてお願いした。更に「市民が自ら治める」成熟した先進国の自治の実像も垣間見たいと考え、英国の市民活動に造詣の深い「NPO・東京ランポ」代表の新井美沙子さんに教えを乞うことにした。また、最終回は主催者の公民館の方針どおりに全員参加の総括討論会とし、市民のゲストスピーカーとして卯月慎一さんを招いた。

(別表)「町田市の市民自治のシクミをどうつくるか」

日   程 講演のテーマと講師 (敬称略)
@ 9月23日(土) pm 1 : 30 みたか市民プラン21会議
  市民代表     宮川  斎
A10月7日(土) pm 1 : 30 イギリスのNPO活動に学ぶ
 東京ランポ理事長  新井美沙子
B10月28日(土) pm 1 : 30 世田谷区のまちづくり20年
まちづくりセンター所長 折戸雄司
C11月 4日 (土) pm 1 : 30 市民自治のまちづくり
 地域総合研究所長  森戸 哲
D11月18日(土) pm 1: 30 参加者による総括討論 「市民自治のまちづくりは、どうすれば可能か」
佐藤 勲・卯月慎一ほか

■ 学んで再確認した先進都市との落差  
 さて、このような4回の連続講座と最後の参加者討論を通して、われわれは結果として何を得たのだろうか。
私見を交えることを恐れずにひと言で表わせば、「町田市の現状は、役所と市民の間の距離がますます大きく離れつつあり、これから余程頑張らないと他の先進的な市町村から取り残されてしまうのではないかと心配だ」ということになろうか。
町田市がかっては市民参加の先駆的なモデル都市と呼ばれたことを思い起こすと、これはいかにもショッキングな言いまわしだとお怒りになる向きもあろうが、怒る前に「そんな状況に誰がしたのか」の責任の所在を明らかにして対策を講ずることのほうが重要だ。
 いずれにせよ、今後の町田市の方向を考えるためにも、他市の先進事例を含めて今回の講座内容を整理しておくことが大切だろう。                     
「三鷹市は、会議や委員会などに形だけ参加してもらって、"ハイ、市民参加はおわり"というようなガス抜き的な参加などやらない」これは、昨年400人にも達する公募市民を組織化してパートナーシップ協定を結び、三鷹市の21世紀市民プランづくりを委ねて成案を受け取った安田市長の言葉だ。
 三鷹市はまた、1998年度の日本経済新聞社の「効率的で開かれた都市・全国第一位」に選ばれた。「三鷹には市民に隠すべき情報は何もない」というのも市長の持論だという。
市が出資する第三セクターの情報開示、会計分野の公開に企業会計方式の導入を検討するとか、オンブズマン条例制定など「市民に開かれた市政」への行政側の意欲はすさまじい。
 一方の世田谷区は、78万の区民を有する大都会で、従っていかにして区民の意見を区政に反映させるのか、いかにたて割り行政の壁を打ち破るかを20年も闘い続けてきた。
 全域を8区域に分け、それぞれに「総合支所」を配置して機能分散させ、区民に対応する努力を続けてきたことがそれを物語る。
 また、分散した機能を「まちづくり」という分野で括って、区民の窓口となっているのがご存知の「まちづくり区民センター」だ。
折戸所長は、そうした区政を「たらい回し行政」と表現する。区民はある窓口で断わられても次に別の受け入れ窓口を探す余地があるのだと言う。区民センターはその中心的な機能を担っているのかも知れない。
もうひとつ注目すべき施策は「まちづくりフアンド」という公益信託の資金に裏付けられた、NPO活動への資金支援システムだ。
これはわが国が、先進諸外国に最も遅れをとっている分野と思われるが、世田谷区が早くから手がけてきた特筆すべき政策なのだろう。
 さて、森戸さんはこうした国内の地方自治体の市民自治の現状を、どのように考えているのだろうか。
 彼は北海道ニセコ町の情報公開条例をとりあげて、公開というより「情報共有」という町長の理念を紹介した。町長は「情報はそもそもは市民のもの」という理念を「今存在しない情報でも請求があれば作る」という規定で見事に具体化したことで有名だ。
 これは、新井さんが紹介したイギリスにおける地域開発に絡む税制度、つまり「あなたは市税として納入しますか、それともこちらのNPO団体の活動資金として納めますか」という考え方と同根と言ってよいだろう。
 この情報と資金の二つの考え方は、いずれも「市民自治の基盤」を市民が確立する上で本質的な基礎的条件であることを、今回の講座は明確に教えてくれたようである。 
 役所が市民の参画を促して、一律的に全市の計画をいかに見事につくろうが、パートナーシップの名のもとに市民と役所の「協働」を仕掛けようが、森戸さん流に言えば、それは所詮「少々のうさんくささ」が残り、市民自治の本命といえるのか疑わしい。要は、情報とか資金とかが、役所から与えられる状況にある間は「市民自治」とはならないということであろうか。
 ともあれ、今回の市民講座を終えて感じることは、先進的と呼ばれる諸都市のそれなりのがんばりと、すでに情報公開条例は制定済みとはいえ、様々な審議会や委員会での傍聴者への討議資料の配布如何で右往左往する町田市政の現状の、市民自治の本質論議とは程遠い、なんとも救い難い状況の二点であった。
 市民講座の更なる継続を期したい。


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