情報センター通信第12号
2001年2月25日発行


21世紀の市民参加・市民自治のあり方を考える――多摩市の事例を参考にして
荻須 路真(中央大学文学部)

 ’99年7月に、「地方分権の推進を図るための関係法律」(通称「地方分権一括法」)が成立し、’00年4月から施行された。これに伴い、いくつかの国や都道府県の仕事が市町村の仕事となった。私は市民と行政とのパートナーシップを卒業論文のテーマとしようと考えており、以下で、今住んでいる多摩市の事例を紹介しながら、私案を述べたいと思う。

第3の分権
 これから推進していくべき分権改革は、国から都道府県への第1の分権、都道府県から市町村への第2の分権ではなく、市町村から市民への第3の分権と言われるものである。        
 多摩市では、この第3の分権を、「市民の自己責任と自己選択」に基づく「住民自治」の確立と捉え、市民と行政が地域社会の担い手として、協働してまちづくりをするという意味で、「分権型の市民協働社会の創出」と位置づけ、市民との様々な協働の形態を検討するという姿勢をとっている。
 今後は、市民の選択に基づく行政サービスの提供や、行政が独占してきた公共サービスの担い手が、個々の市民、任意の市民団体、NPOによって支えられる社会が創出されるように、そのための市民と行政の役割分担のあり方を考えていくという。

政策形成に市民が参加することのメリット
 市民自治基本条例が制定されれば、政策形成に市民が参加できるようになるが、それによってどんなメリットがあるか、ここで挙げてみよう。
 まず、第1に、市民がボランティアとして政策形成に参加する場合、外部コンサルタント会社への委託に比較して大幅な調査研究経費の削減が可能である。しかも、メリットは金銭面だけではない。
 地域の特性や変化に対する感受性の強い市民が参加することで、地域社会の実情を詳しくまた市民感情に即して把握することができる。地縁的ネットワークを生かして情報収集の量・質を拡大できるというメリットがあり、外注型の調査では容易にはなし得ない深みのある現状認識が可能である。
 そして、市民と行政職員が共同で作業を進めることで、情報の共有や対話の機会が増えるので、双方が抱えている要望や制約条件を理解し合うことができ、相互の間に信頼関係を形成することが可能となる。
 こうした共同作業によって出来た政策は、市民と行政職員との信頼関係の中から生まれてきているので、実行の可能性も高い。
 次のメリットは、行政の独走性や目標設定の自己目的化という弊害を防ぐことができる、ということである。
 行政は企業のように外部チェック機能を持ち合わせていない。そのため、費用対効果という考えが薄く、目標設定の際(特に予算案の策定時)に、その目標が市民の要求から離れて自己目的化し、行政が独走化することがある。市民の要望や優先課題を表明することで、行政の独走を防ぐことができる。利害関係者を政策形成過程のできるだけ早期の段階で参加させ、その意向を反映させることにより、既存の事後的な救済方法によっては救済されない権利・利益の早期の保護を図ることができる。
 以上のように、政策形成型市民参加は、自治体(特に市町村レベル)における公論形成のための具体的手法として、多くの利点があり、行政組織の権限拡大に伴う諸弊害を防ぐのに大きな意義を持つものである。残念ながら、現実には実施の直前の段階で、市民団体の参加を要請するような行政の姿勢がまだ根強いが、行政側は市民の持つアイディアやノウハウを活用することで、自治体の抱える課題を解決できるとの視点に立ち、行政と市民団体は地域づくりのパートナーである、という発想を育てていくべきである。社会の多元化が深まるにつれて、市民と行政のパートナーシップが社会の発展に大きな意味を持つ時代を迎えていると言って良いだろう。

多摩市の市民自治基本条例
 多摩市では、市制30周年を契機として、市民と共に市民自治基本条例(仮称)の策定を目指している(ただし、市長は議会の答弁の中で、期間にこだわらず、十分時間をかけて作りたいと表明)。この条例は、市の憲法ともいうべきもので、地方分権時代の市民自治の基本理念、あり方、市民協働、市民参画の仕組みのルールを内容とするもので、多摩市ではこれから市民ワークショップ等の手法を用いて作っていくことになっている。川崎市・逗子市などでも地方分権の流れの中で条例を作ろうという動きがあったが、いずれも条例制定には至らず、現在、北海道・高知県・札幌市などで現在検討段階に入っているが、長崎県小長井町では’00年3月13日に「まちづくり町民参加条例」が、去年12月22日にはニセコ町で「まちづくり基本条例」が、それぞれ可決成立している。
 多摩市のこうした動きは、そもそも鈴木市長が、’99年の市長選挙の際(当時は新人候補)、多摩・生活者ネットとの政策協定の中に市民参加条例の制定を掲げ、今年度の第一回定例議会の施政方針で「多摩市民自治基本条例」を打ち出したことに始まる。
 昨年の11月25日には市役所の会議室において、都立大学の人見 剛・法学部教授を招いて基調講演を行い、市民に市民基本条例の基本的な部分について知ってもらう機会を設けている。また、年が明けて1月13日には、第1回目の合同会議が行われ、これからおよそ2週間おきに市の施設に集まり、幹部の選出・運営のルール作りなどをした上で、学習会・討論という流れになっている。
 
多摩市のNPO(非営利団体)との協働の取り組み
 多摩市は、協働の一形態としてNPOへの支援も進めている。’99年2月に、具体的な支援方策、非営利団体の活動環境の整備、行政体制の整備を主な内容とする「多摩市非営利団体との協働に関する基本指針」を策定し、具体化に向けて検討作業を進め、その中で、市民の要望の多かった「活動の場の提供」の具体化として、中間支援組織であるNPO支援センターの立ち上げをするべく、市民で構成する「NPO支援センター運営検討委員会」を設置し、センターの機能や運営方法について検討を行ってきた。
 ’00年1月には、この検討委員会から「NPO支援センター運営検討委員会 FINAL REPORT」にまとめられた提言がなされた。この提言に基づいて、21の非営利活動団体から構成される「多摩市NPOセンター運営協議会」が、開設に向けて、規約の作成等の協議を行った。非営利市民活動団体の活動を促進するため、団体のノウハウを蓄積し、それを互いに共有することが設立の目的である。
 ’00年5月20日に西永山複合施設内に設立された、「多摩NPOセンター」の運営形態は、「公共設備・市民設立・市民運営」とし、設備は市から借りるという形を取っているが、設立・運営は市民が主体となって行われている。
 多摩NPOセンターの機能としては、@活動の場・設備の提供機能(会議室・研修室及び作業室の提供、共同で利用できる情報の場の提供、印刷機・コピー機の共同利用、団体メールボックスの設置)、A情報の収集・提供機能(NPO関係の情報誌の発行、NPO関係文献・図書の収集、パソコンによるインターネット検索)、B活動支援機能・相談機能(法人格取得相談、運営相談、資金調達相談、事業計画相談、総合的なコンサルティング)、Cネットワーク機能(ホームページ作成、各地のNPOセンターとの連携、行政・企業との連携)、D人材育成・研修機能(各分野の専門的な人材育成・研修、専門家データベースの作成、国・自治体への政策提案、フォーラム機能、NPO関連の調査等)が挙げられている。
 
 少子高齢社会を迎える中で、公共サービスの需要が高まり、住民のニーズが多元化していく傾向は、どこの自治体においても現れてくるであろう。町田市も、市民の参画を積極的に受け入れる体制づくりを整えておく必要があるのではないだろうか。


トップページへ
情報センター通信へ
掲示板へ