互換性の考慮



【GS音源で代理発音させる】

SC-88用のデータをSC-55mkIIなどで聴くと、あるパートの音がピアノ(リセット直後の音色)になってしまったり、前に使われていた音がそのまま発音されたりすることがあります。これは、SC-55mkIIには存在しない音色を指定しているからです。SC-55では、近い音が自動で選ばれるようなしくみになっていたのですが、いわゆる新GS音源では、代理発音機能がなくなってしまったのです。同様に、SC-88Pro用のデータも、SC-88では全く異なる音が出たりするわけです。

この問題を、データを作る側で何とか回避できないものかと思って考えたのが、以下の方法です。これは、SC-88には存在して、SC-55mkIIには存在しない音色を選択する場合の例です。

NOTE K#  ST  GT VEL
* for SC-55mkII
PG.BANK   4   0   0 ← バンク0
PG.BANK   4  32   0 ← マップは触らない
PROGRAM   4  81     ← Saw Waveになる(SC-55mkII、SC-88ともに)
* for SC-88
PG.BANK   4   0   6 ← バンク6
PG.BANK   4  32   2 ← SC-88MAP
PROGRAM   4  81     ← GR-300になる(SC-88のみ)

このように、続けて音色の設定を行います。SC-88では設定が2回行われ、2つ目の設定が有効になります。SC-55mkIIでは、2つ目が無視されるため、1つ目の設定が有効になります。

1つ目の設定は、SC-55mkIIに存在するバンクであれば0にする必要はなく、プログラムチェンジは2つ目と違うものでもかまいません。似ている音を指定すればOKです。

これで、少なくとも変な音で鳴ることはなくなります。ただ、データ量が少し増えてしまい、しかも妙なデータに思われそうなのが難点です。SC-55mkIIで少しでもマシな演奏になるメリットのほうが大きいと思えば、使ってみてはいかがでしょうか。その際は、システムモードセットの後ろにGSリセットも入れておきましょう。

ただし、ドラムセットの音は、SC-55系とSC-88系で大きく異なるため、雰囲気が変わってしまうことが多いです。それに、バスドラムやクラッシュシンバルの音量差が激しいドラムセットもあります。たとえば、SC-88Proの55MAPでは、どのセットでもクラッシュシンバルの音量が大きく感じられ、ROOM Setのバスドラムは、88MAPや88ProMAPより目立たなくなります。また、KICK & SNARE Setは55MAPにはないので、全く再現できません。

少し余談になりますが、マップとバンクの指定の話をします。機種によって音が変わるのを避けるために、使用する音を確定するには、マップとバンクの両方を指定する必要があります。ただ、そうすると下位音源で問題が発生することがあります。これをSC-88Proで確認するには、オール88MAPにしたり、オール55MAPにして演奏させます。それぞれどうなるかを、マップごとにまとめておきます。

・オール88ProMAP
88ProMAPに存在する音色さえ選べば、何の問題もなく音色が切り替わります。88ProMAP、88MAP、55MAPのどれでも使えます。ただ、88ProMAPを使用した音色があれば、それはSC-88Pro用データということになります。

・オール88MAP
88ProMAPが指定してある音色の場合、音色は切り替わりません。88MAPか55MAPが選ばれていなければならないのです。SC-88用としてデータを作る際には注意が必要です。

・オール55MAP
55MAPに存在するバンクの音色であれば、88MAPや88ProMAPが指定されていても、音色は切り替わります。この場合、55MAPの音色になります。ここがオール88MAPと違う点です。これはきっと、SC-55系音源がマップを無視する仕様になっているからでしょう。

どのマップにしろ、そのマップにないバンクを指定すると、新GS音源では音色は切り替わりません。これは仕様です。音色が設定できなかった場合、リセット直後であればピアノになり、それまでに音色が設定されていれば、その音色のままになります。マップ、バンク、プログラムチェンジは慎重に入力しましょう。


【GS汎用データを作る】

GS規格に沿ったデータを作るには、いくつか注意する点があります。SC-88Proで、多くのGS音源で聴けるデータを作るポイントを挙げてみたいと思います。ローランドのサイトの「GS資料室」というページに、GS規格の資料がPDFファイルで置いてありますので、そちらもご覧ください。

・リセット
データの先頭にはGSリセットを入れましょう。システムモードセットは、SC-88やSC-88Pro用のデータで使うものですので、GS汎用データには必要ありません。

・音色
55MAPに存在する音色のみを使います。55MAPにすれば自動的に音色が制限されるので、選ぶのは楽だと思います。旧GS音源には入っていない音もわずかにありますが、その代わり旧GS音源には代理発音機能があるので、大きな問題にはならないでしょう。無難な選択は、バンク0の音色を使うことです。

CM-64互換音色の使用は極力避けましょう。この音色配列は、昔の音源用のデータのために用意されたものです。さほど55MAPの音と変わらない上に、何かとトラブルのもとになるだけです。

マップの指定は特にせず、0にしておくのが一般的ですが、マップによる差が激しい演奏をするのなら、強制的に55MAPにするのを考えたほうがいいかもしれません。SC-55/55mkIIでは、マップの指定は無視しますので、0以外の値になっていて誤動作することはないはずです。

・音色のエディット
旧GS音源では、NRPNの値を65以上にしてもカットオフ周波数が変化しません。カットオフ周波数を変化させるのなら、63以下のマイナス方向のみで控えめに使い、レゾナンスも極端な値にするのは避けたほうが無難です。

・ドラムセット
やはり55MAPに存在するドラムセットから選択します。ドラムセットは、あえてマップの指定をしないほうが楽しくなることが多いので、55MAPの音しか使いたくない場合以外は、強制的に55MAPに指定しないほうがいいかもしれません。

・EQ
EQはSC-88からの機能です。使用してもSC-55系の音源では効果がありません。

・リバーブ、コーラス
SC-55から変わっていないので、どれでも使えます。ただし、リバーブでは、REVERB PREDELAY TIME、コーラスでは、CHORUS SEND LEVEL TO DELAYのパラメータが使用できません。また、CM-300にあったREVERB SEND LEVEL TO CHORUSというパラメータは、SC-88Proのマニュアルには書いてありませんでした。そこだけアドレス(40 01 36)が抜けています。

・ディレイ
CC#94でセンドレベルを決めるディレイは、SC-88から加わった機能なので、GS汎用データでは使用できません。GS用データでディレイを使いたい場合は、複数のパートをずらして演奏させるか、リバーブやコーラスの種類の中で用意されているディレイを使うかのどちらかになります。

・インサーションエフェクト
EFXはSC-88Proから付いた機能ですので、使った場合はSC-88Pro用データになります。

・発音数
初期のGS音源の最大同時発音数は24でした。これを超えないように発音数を抑える必要があります。24音より多く発音できる音源では、24を超えたかどうか確認できないので、なかなか難しい問題です。とりあえず、あまり同時に発音させないよう気をつけて、なるべく使用ボイスが1の音色を使えば、24以内に収まりやすくなります。

時には、ボイスリザーブの設定が必要となることもあります。ボイスリザーブは、各パートで確実に発音できる数を指定するものです。それぞれ、「そのパートの最大和音数×ボイス数」を割り当てるようにするのが普通です。しかし、それだけでは足りないこともありますし、24を超えてしまったときに、どのパートの数値を削っていくか考える必要もあります。

SC-88やSC-88Proでは、最大同時発音数が64であるため、発音数が24を超えたためにボイスが足りなくなるという状況が再現できません。しかも、これらの音源には、もともとボイスリザーブの機能がないので、下位音源のために適切な設定をしようと思っても、確認することができません。

GS音源は、使える音色や機能がはっきりしているので、比較的楽にGS汎用データが作成できます。マップの問題が気になるようなら、マップの指定はせず、55MAPで聴くのを前提にするのが一番です。

残念ながら、SC-88ProやSC-88の55MAPは、完全にSC-55と同じ音が出るわけではありません。中には少し異なる音があります。しかも、極端に音色のパラメータを設定すると、下位音源とは違う演奏になることもあります。とはいえ、特殊なことをしなければ、ほぼ同じ演奏になりますので、それほど神経質になる必要はありません。それよりも、発音数を多くしすぎないように気をつけることが重要です。


【SC-88用データを作る】

SC-88Proの88MAPは、SC-88と非常に互換性が高いと思われます。そこで、SC-88でも聴けるデータをSC-88Proで作ってみましょう。以下の点に気をつければ、SC-88でも正常な演奏をさせることができます。

・音色
88MAPから選びます。どうしても気に入らなければ、55MAPでもかまいません。88MAPと88ProMAPが同じ音になっている音色でも、88MAPを指定してください。88ProMAPの音色を選ぶと、SC-88やオール88MAPで音色が切り替わりません。SC-88Proで演奏させる際に、必ず発音中のパートが、88MAPか55MAPのランプが点灯している状態であることを確認してください。

あえてマップを指定しないというやり方もありますが、そうすると、SC-88とSC-88Proで音が異なることがあります。それで普通に聴ければ問題ないのですが、たいていの音色はマップによって音が異なるので、調整が難しくなることが多いでしょう。

・音色のエディット
音色のエディットに制限はありません。SC-88とSC-88Proでは、指定できる範囲に違いはありません。また、かかり具合も同じはずです。

・ドラムセット
ノーマル音色と同様に、88MAPと55MAPにあるセットのみ使用できます。

・システムエフェクト
リバーブ、コーラス、ディレイ、EQは、問題なく使えます。何を使っても、どのように設定してもかまいません。

・インサーションエフェクト
インサーションエフェクトは、SC-88にはありません。ですが、まずEFXなしで調整して、そこからEFXを追加するかたちでデータを作成するという方法があります。演奏は違ってきますが、SC-88でも聴けて、SC-88ProであればEFX付きで聴けるというデータになります。ただ、これがSC-88用と言えるのかどうかは微妙なところです。対象音源を何にするかは、作り手が決めることですので、EFXがかかっていない演奏は認めないというのであれば、SC-88Pro用データとするしかないでしょうし、だいたい聴けるからOKだと思えば、SC-88用としてもいいのではないかと私は思います。

この方法を使う上で注意する点があります。「EFX PARAMETER 1を使用すると、SC-88VLでは、EQ High Gainが設定されてしまう」ということが、コンピュータミュージックマガジン1997年9月号のP.57に書いてありました。SC-88も意識したデータにするのなら、このパラメータはデフォルトの状態で使うのが無難でしょう。あるいは、EFXの設定をしたあとにEQの設定をしてしまえば大丈夫かもしれません。

【XG汎用データを作る】

たとえば、MU90の機能をフルに使ったデータを作ると、MU80やMU50では正常に聴けなくなることがあります。上位機種でしか表現できないデータを作るのならともかく、ある程度の妥協と考慮をすれば、たいていは下位音源でも聴けるデータにできます。ここでは、XGの最低限の仕様と、多くのXG音源で聴けるデータを作成する方法を述べます。詳しく知りたい方は、「XG仕様書」や「XGデータ制作ガイドライン」を、ヤマハのサイトから入手してください。

・音色
XG音源で共通して使える音色は、多すぎて書けないので省略します。MU50は737音色、MU80は729音色なので、MU90との差は50音色程度ですが、XGという枠だと、結構制限があるようです。MU50のほうが、MU80よりも音色数が多いのが気になりますが、きっとDOCモードがあるからでしょう。XG音源は、その機種に入っていない音を指定しても、それなりの音で演奏しますが、最も無難な選択は、バンク0の音色を使うことです。

・ドラムキット
Standard、Standard 2、Room、Electro、Analog、Jazz、Brush、Symphony、SFX1、SFX2から選びます。ただし、SFX1、SFX2の中には拡張音色があるので要注意です。なお、同時に使えるのは2種類までです。

2つ目のドラムキットを使うには、CC#0に127をセットし、CC#32に0をセットします。そして、プログラムチェンジでドラムキットを選べば、パートモードがdrumS2になるはずです。ちなみに、もともとパート10がdrumS1で、パート26がdrumS3になっています。このあたりは、よく考えてある仕様だと思います。

・5バンドマルチEQ
MU50相当の音源には5バンドのEQがありません。これはMU80以上に備わっている機能です。しかし、ガイドラインによると、5バンドEQを使用してもかまわないようです。もし使用するのであれば、EQなしの状態でもバランスが崩れないデータにするべきでしょう。

・パート別の2バンドEQ
これはMU90から備わった機能です。EDITにあるEQという項目がそれです。ドラムパートでは、DRUMにあるLow Freq、Low Gain、High Freq、High Gainを触ると、MU90以上のデータになります。

・ハイパスフィルタ
MU90からの機能です。EDITのFILTERの項目にある「HPF〜」がそれです。ドラムパートのDRUMにある、HPF Cutoffなども同様です。

・その他のドラムのパラメータ
VelPchSens、VelLPFSensは、MU90で追加されたパラメータです。なかなかおもしろい機能なのですが、XG汎用データにするのなら、使用は控えましょう。

・リバーブ
使えるのは、HALL 1と2、ROOM 1と2と3、STAGE 1と2、PLATEの8種類です。

・コーラス
CHORUS 1と2と3、CELESTE 1と2と3、FLANGER 1と2の、8種類が使えます。

・バリエーションエフェクト
35種類が規定されています。数が多いので、ここには書きませんが、OVERDRIVE、DISTORTION、AMP SIMULATORはこの中に入っているため、使用できます。

・インサーションエフェクト
インサーション専用エフェクトを持っているのは、MU80以上の音源です。MU90は、このインサーションエフェクトを2系統持っていて、それぞれ43種類ありますが、MU80は1系統で3種類(DISTORTION、OVERDRIVE、3-BAND EQ)だけです。MU50にはありません。XG仕様書 V1.31には、インサーションエフェクトも定義されていて、MU80が持っている3種類がXG必須となっていますが、MU50にはありませんので注意してください。

・その他
ディスプレイデータ、ベロシティリミットなどは、拡張パラメータです。ただ、ディスプレイデータは、演奏に影響するものではないので、使用してもかまわないようです。

このように、考慮すべき点はたくさんありますが、XGの仕様にバリエーションエフェクトが入っているというのは大きな魅力です。GS規格ではリバーブとコーラスしかなく、さまざまなエフェクトが使えるようになったのはSC-88Proからです。そういうわけで、規格に沿ったデータの場合、XGはGSより表現力の点で有利であると言えるでしょう。歪み系ギターが1本使えるか使えないかで、音楽のクオリティが大きく変わることもあるのです。


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