MU90とXG規格




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【はじめに】

MU90の発売時には、すでにMU100の発表がされていましたが、私はMU90を選びました。というのも、MU80でもかなり奥が深いと聞いていたので、MU90で十分だと思ったからです。

当時、CM-300しか持っていなかった私は、MU90のデモ曲を聴くまでは、まさかDTM音源で、あれだけ歪んだギターの再現が可能だとは思っていなくて、非常に驚きました。これは、初めてCM-300を触ったとき以来の感動でした。それはともかく、XG音源のことを多くの人に知ってもらおうと思って、さまざまな情報を載せてみました。

MU90の機能についての説明が主ですが、その他のXG音源(特にMU80とMU50)との違いについても、わかっている範囲で書きました。


【音色】

MU80の729音色に対し、MU90は779音色になりました。しかし、どれもパッとせず、音色を目当てにMU80から乗り換える価値はあまりないでしょう。ギターの音色をもっと増やしてほしかったと思いますが、エレクトリックギターの音色がまるで増えていないのは残念です。強いて挙げれば、オーケストラヒットの音でおもしろいものがいくつかあります。

逆に、MU80を触ったことがなければ、新鮮に感じるでしょう。私個人の意見としては、ローランドの音のほうが好きですが、その人の好みや使用目的によって、評価はさまざまだと思います。

液晶ディスプレイ上に、その音色を表すアイコンが表示されます。このアイコンを見れば、だいたいどんな楽器なのかがわかり、非常に直感的です。音色だけでなく、たとえば工場出荷時の状態に戻すときに工場の絵が出たり、ダンプアウトという機能でダンプカーが出たりと、とにかくわかりやすいインターフェイスになっています。

ドラムキットは、MU80から9種類増え、30種類になりました。ちなみに、ヤマハはドラムセットと言わず、ドラムキットと言うらしいです。Dance Kit、Hip Hop Kit、Jungle Kitなどの目新しいドラムキットがありますが、そういったジャンルに使うのでなければ、あまり関係ないでしょう。

一般的なものでは、Dry Kit、Bright Kit、Dark Room Kit、Rock Kit 2、Jazz Kit 2が増えました。スネアの音が一番気になるところですが、はっきり言って、スネアはどれも似たような音で魅力は感じません。というのも、XG音源はドラム音色のエディットが細かく行えるため、MU80でも使えるドラムキットを加工すれば、近い音にできてしまうからです。スネアの音に関しては、完全にSC-88系に負けている、というのが私の感想です。


【エフェクト】

MU90の強化された点として、エフェクトの充実が一番大きいでしょう。MU80では、44種類のバリエーションエフェクトと3種類のインサーションエフェクトが1系統でしたが、MU90では、インサーションエフェクトが2系統になりました。種類も増加し、バリエーションエフェクトが18増えて62種類、インサーションに至っては40も増えて43種類になりました。

バリエーションエフェクトは、インサーションエフェクトとして使うこともできるため、MU90では最大3系統のインサーションエフェクトを同時に使えるのです。これを個別に3つのパートに使ってもいいですし、1つのパートに3つ接続することも可能です。

ここで、XGのエフェクトについて、簡単に説明します。MU80には上記のとおりのエフェクトが使えて、MU50ではバリエーションエフェクトのみになっています(種類は微妙に異なります)。XGのスタンダードはMU50と考えられるので、XG音源なら最低でもバリエーションエフェクトが搭載されていることになります。では、バリエーションエフェクトやインサーションエフェクトとは何なのかを説明します。

・バリエーションエフェクト
バリエーションエフェクトには、ディレイ、ディストーション、フェイザーなど、さまざまなエフェクトがあります。システムエフェクトとして使うのと、インサーションエフェクトとして使う2通りの使用方法があります。

システムエフェクトは、リバーブやコーラスと同じようなしくみで、各パートに個別にセンドレベルを決められます。ミキサーからの一部の音声出力をエフェクト処理し、再び戻すという性質のため、完全なエフェクト音を得るには、インサーションエフェクトにする必要があります。ドライレベルの設定によっては、インサーションエフェクトに近い音を得られますが、音の定位感がなくなってくる問題があります。

インサーションエフェクトは、もとの音に直接エフェクトをかけるしくみのため、100%エフェクト処理を施した音を得られます。ただし、対象となるパートは1パートのみです。ギター用のエフェクトは、たいていこちらが用いられます。

・インサーションエフェクト(インサーション専用)
バリエーションエフェクトをインサーションエフェクトとして用いた場合と機能は全く同じです。ただ、MU80の場合は、DISTORTION、OVERDRIVE、3-BAND EQの3種類に限られ、MU90は43種類と、いずれもバリエーションエフェクトの種類よりは少なくなります。MU50にはインサーション専用エフェクトはありません。

以上のことから、XG汎用データを作りたい場合は、バリエーションエフェクトをいかにうまく使うかがカギとなります。また、MU90でMU80用データを作成する場合、バリエーションエフェクトはMU80にも存在するもののみ使えて、インサーションエフェクトは1系統だけ使えます。もちろん、インサーションエフェクトは3種類だけから選ぶことになります。

ところで、SC-88Proのインサーションエフェクトは、64種類が1系統ですが、XG音源とは少し考え方が異なるので、直接比較はできません。というのも、SC-88Proのインサーションエフェクトは、複数パートにかけることができ、また1系統でありながら、種類の異なるエフェクトを同時に扱える並列接続のエフェクトがあるからです。しかし、仕様としてはXGのほうがはるかに洗練されていて、今後の拡張性も十分に考慮されているように思います。このあたり、メーカーの性格というか、特色がよく出ています。


【EQ】

もともとMU80は、高機能な5バンドEQを装備していて、SC-88やSC-88Proの、周波数が2通りからしか選べない2バンドEQよりも自由度の高い設定が可能でした。この5バンドEQは、MU90にもそのまま受け継がれています。

MU90は、それ以外にも、パート別に設定できる2バンドEQがあります。ドラムパートでは、それぞれのドラム音色に個別の設定が行えます。周波数も可変で、これを全パート調整するには、かなりの根気を必要とします。

さらに、バリエーションエフェクトやインサーションエフェクトでも、2バンドEQや3バンドEQが選択できます。さらに、液晶パネルには出てきませんが、リバーブやコーラスを含めて、他のほとんどのエフェクトにもEQのパラメータが用意されています。


【ショーエクスクルーシブ】

XG音源の特長のひとつが、現在の設定をエクスクルーシブデータとして表示してくれるショーエクスクルーシブ機能です。ただし、MU90Bなどの液晶ディスプレイのない機種では、この機能が使えません。

たとえば、エフェクトのタイプをOVERDRIVEにするデータを入力するには、まず音源側でエフェクトのタイプをOVERDRIVEにして、ENTERボタンを2度押します。すると、エフェクトのタイプをOVERDRIVEにするエクスクルーシブが表示されます。このデータをシーケンスソフトで入力すれば、再生したときに自動でOVERDRIVEになるわけです。

たいていのパラメータはこうして設定できるわけですが、中にはディスプレイに表示されないパラメータも存在します。この場合は、マニュアルで調べなければなりません。せっかくの便利な機能なので、全部に対応させてほしかったです。

MU90では、エクスクルーシブデータの送信機能もあります。エクスクルーシブデータを表示させた状態からさらにENTERを押すと、アイコン表示のテレビのようなものの画面が波打ち、データが送信されたことを表します。これは、レコンポーザのMIDI IN EXCLUSIVE INPUTなどで取り込めます。これを使えば、ボタンを押すだけで入力できてしまいます。


【A/D INPUT】

A/D INPUT端子を使うと、外部からのアナログ信号をデジタル信号にして、内部でエフェクトをかけて出力することができます。これは、MU80にもついている機能です。MU50は、A/D INPUTではなく、ただのINPUTのようです。

外部からの入力は、CDの音、他の音源、ギター、自分の声など、何でもかまいません。これらに対して、リバーブやコーラス、そしてバリエーションエフェクトなどをかけられます。つまり、MU90がエフェクタになるのです。ギターのエフェクタとして使ったり、マイクを接続してカラオケをしたり、他の音源の音にエフェクトをかけるといった楽しみ方があります。MU90には、62種類ものバリエーションエフェクトがありますから、エフェクタを買うつもりで購入しても、決して損はしないでしょう。


【互換性】

「MU90は、MU80の機能をすべて持っているはずだから、完全上位互換だ」というのは誤りです。XG音源は「互換性」「適応性」「拡張性」をキーワードにしているので、完全な互換性を期待するのは無理かもしれませんが、中には首をかしげたくなるものもあります。

・エクスクルーシブ
MU80用データで、シビアなタイミングでエクスクルーシブデータを送信しているものは、受信できない可能性があります。

・エフェクト
一部のパラメータを極端な値にした場合、互換性がなくなることがあります。確認したのは、リバーブのEr/Rev BalanceとFeedback Levelです。ニュアンスが変わる程度ならともかく、耳がおかしくなったり、音響機器を破壊しかねない音になるので、注意してください。おそらくエフェクトの効きがよくなった副作用だと思います。

・TG300Bモード
MU80のTG300Bモードよりも、GSデータの再現性が高いようです。これはうれしい変更です。ただし、GSリセットを処理する時間が長くなっています。これにより、GSリセットにあまり時間を割いていないデータは、最初の音が正常に発音できないことがあります。

・パフォーマンスモード
これはMU80とは全く異なるので、このモードについては別の音源と思ってください。

・その他
私が直接聴き比べたわけではありませんが、MU80で作られたデータは、MU80とMU90で、微妙に違う演奏をすると聞きます。ですから、MU80用データをMU90で聴いた場合は、データを作った人の意図が必ずしも反映されていないという点を心に留めておいたほうがいいでしょう。

【TG300Bモード】

俗に「GS互換モード」と呼ばれているのが、TG300Bモードです。GSリセットやシステムモードセットを受信すると、自動的にTG300Bモードになり、音色配列などが変わります。なお、XG音源の機種によって多少の違いがあるようなので、ここではMU90を前提に読んでください。

・音色
ノーマル音色については、SC-88にある音色すべてに対応するように音色が割り当てられているようです。音が似ているかどうかについては、バンク0の音色のみですが、GM音色聴き比べで紹介していますので参考にしてください。全体的には、音が暗くこもった感じになりがちですので、EQのタイプをPopsにして少し調整するとよいでしょう。

配列のみでなく、たとえばギターハーモニクスの音の高さや、リバースシンバルの音の長さなど、音に対しての操作も若干行っています。

ドラムはSC-55レベルのものしか対応していません。KICK & SNAREなどを使っているSC-88用データは、全く別の音が鳴ります。通常のドラムセットを使ったSC-88用データでも、TG300BモードとSC-88との音の違いが相当なものなので、曲の雰囲気が変わってしまいます。また、SC-55の音とも似ていないので、ドラムについての再現性はかなり低いという印象を受けます。

・エフェクト
リバーブは、GSで設定するリバーブレベルがリバーブリターンの値として使われます。その他はよくわからないのですが、リバーブがきつくなるデータが多いです。コーラスのほうは、これまたよくわかりませんが、あまり気にする必要はないでしょう。

SC-88用データでディレイを使ったものがありますが、TG300Bモードでも反応します。これがなかなか興味深く、本体のボタンでTG300Bモードにしたときは、バリエーションエフェクトがINSになったままなのに、GSリセットを受信すると、こっそりSYSになるのです。で、バリエーションエフェクトの初期タイプが何かというと、DELAY LCRというディレイのエフェクトなのです。これで、CC#94でセンドレベルを決めるわけですから、当然、ディレイがパート別にかかります。なかなかよく考えられていると思いました。

・その他のエクスクルーシブ
どこまで解釈しているのか、面倒なので調べていませんが、液晶パネルを使った文字やドット絵の表示はします。ドット絵は、表示領域が非常に狭いために小さいですが、まさかこれまで再現するとは驚きでした。

【謎】

・謎の生物
液晶パネルをボーっと見ていると、たまに猫のようなキャラが出てきます。確かヤマハが名前を募集していたと思うのですが、こいつはいったい何なんでしょう。アニメーションパターンは何種類あるのかも気になります。なぜサングラスをしているのかも謎。

・エラーお知らせ係
エラーが出たとき、救急車か謎のキャラのどちらかが表示されるのですが、どんなときにどちらが出るのか、法則があるんでしょうか。

・マニュアル
内容はわかりやすいと思うのですが、間違いが多いのが困ります。発売時期によって間違いの箇所が違うのもやっかいです。それも、古いほうが正しく、新しいほうが間違っていることもありました。校正はしっかりやっていただきたいと思います。

・XG規格
機能の強化は自然の流れです。XG音源もMU80、MU90、MU100と進化しています。それに伴い、XGは規格自体も進化しています。それは結構ですが、純粋にXG用データを作成する場合、何が使えて、何が使えないのでしょうか?

つまり言いたいことは、たとえばMU90でXG汎用データを作りたい場合、どこまでの機能を使っていいのかがマニュアルに書いていないということです。ヤマハのサイトにXG仕様書というものがあるにはあるのですが、最初からXGの製品に同梱するべきだと思います。それとも、MU90よりあとに出た製品には、もう添付されているのでしょうか?

以前、MU50とMU80の違いについて徹底的に調べた時期があったのですが、情報の食い違いに大いに悩まされました。MU50のバリエーションエフェクト数が、44だの42だの43だの、ヤマハ公式の情報でさえ統一されていませんでした。NO EFFECTやTHRUを数えるか数えないかの差だと思うのですが、まぎらわしい書き方はやめていただきたいと思います。

結局、MU50のバリエーションエフェクトの数は、製品自体に書いてある42という数に落ち着きましたが、MU80の44と比較すると、これまたやっかいな事実が判明しました。数が少ないなら、MU50にあるエフェクトはすべてMU80にあるだろうと思ったら、そうでもないようなのです。また、MU50のリバーブはMU80より1つ少ないのに対して、コーラスは1つ多いのです。またこのコーラスも単に1つ多いのではなく、あったりなかったりするのが入り乱れて、結果1つ多いのです。もはやここまで複雑に入れ替えが行われていると、本当に何を使っていいのかわからなくなります。原因は、MU80よりMU50があとに発売され、その際に、機能の削除と追加の両方を行ったせいでしょう。

XGのエフェクトの仕様は洗練されていると書きましたが、この点は大きなマイナスポイントであると言わざるを得ません。


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