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少年は柔らかいクリーム色に塗られれた鉄製のドアをちらりと見上げた。この部屋の主が在宅していれば、今
頃自分はこの中で暖かいコーヒーでも手にしながら、彼女と向かい合っている筈だった。しかしこればかりは
しょうがない。不意を付いて訪ねてきたのは自分の方だ。彼女は何も知らない。すれ違ってしまったのは残念
だったが明日になればまた学校で会える。それにこうしてここで待っていた事実だけでも、彼女に話しかける
格好の糸口になる。このへんで退散しようと尻の下に敷いたカバンに手を伸ばしたとき、コンクリの廊下に響く
足音が近づいてきた。だが期待の眼差しで目を向けた少年は落胆で肩を落とした。やってきたのは細身で長
身の男だった。
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