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カカシは退路を断つようにイルカと昇降口の間に立った。イルカは内心の動揺を押し隠しながらきわめて平静
を装って、二本目の煙草に火を着けた。愛、愛ね。普遍的で通俗的で、手垢にまみれているようで、それでい
て一口に表現するのは難しい言葉。当たり前だ、100人の人間がいれば100通りの愛がある。その人間が
生きてきた時間、経験、嗜好、価値観、その他諸々の要因によって、それは様々に色や形を変える。辞書に
はなんて載っているんだろうか?慈しむこころ、とか。いたわり、とか。大事に思うこと、とか。じゃあ自分にとっ
ては?イルカは鉄柵にもたれ掛かると校庭の先に続く街並みと青い空に目を向けた。そこに片時も忘れなか
ったようでいて、久しく思い描くことの無かった面影が過ぎった気がした。
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