外務省官僚(国民からの行政の受任者)の犯罪備忘録

文中の茶色文字は筆者が書き加えた部分であることは前節の場合と同じであり、やはり原文と区別して読まれたい。


最近の外務省を巡る事件は3つに分類できる。第一は機密費詐取、第二は外務省の内部調査能力を疑わせ、また、長年にわたる外務省のDNAと化していた組織的裏金づくり(ホテル代などの水増しによる4億6000万円)、第三は鈴木宗男被告との共謀による国後島ディーゼル発電設備不正入札及び国際会議費不正支出事件である。ここでは第一と第三の事件についてみる。



「[支援委不正支出−外務省元課長補佐に有罪]
(出典:2003年3月6日日本経済新聞夕刊)

 衆院議員、鈴木宗男被告(55)=公判中=を巡る事件のうち、国後(くなしり)島ディーゼル発電設備不正入札と国際会議費不正支出の二事件で、背任と偽計業務妨害の罪に問われた元外務省課長補佐、前島陽被告(38)=懲戒免職=の判決で、東京地裁は6日、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。
 木口信之裁判長は「刑事責任は相当に重いが、主導的な立場ではなかった」と指摘した。
 また、「支援委員会の支出は会計検査院の検査などが及ばないことに乗じて不明朗な処理をし、一部は個人口座で管理し裏金としていた」と認定、被告が決裁書を自ら起案するなど重要な役割を果たしたと指摘した。
 さらに木口裁判長は、政府開発援助(ODA)の入札について、「かねて業者間で実質的な競争を排除して受注者を絞り込む工作が行われていた」と指摘した。
 判決によると、前島被告は三井物産元部長らに発電設備の入札予定価格の情報を漏えい、元部長らが2000年3月に談合するなどして入札を形がい化させ、発注元の国際機関「支援委員会」の業務を妨害。また、元外務省主任分析官、佐藤優被告(43)=分離公判中=と共謀、国際会議の参加費用などを支援委に払わせ、計33百万円の損害を与えた。
(この事件は鈴木被告との密接な関連で行われたことについてこちらをご覧下さい。)



(出典、2001年9月7日の日本経済新聞朝刊)
一連の外務省不祥事
(筆者注:2001年のみ)
1月25日 機密費約5400万円を着服した業務上横領容疑で、外務省が松井克俊・元要人外国訪問支援室長を告発・懲戒免職
3月10日 警視庁が元室長を機密費約4200万円の詐欺容疑で逮捕
7月16日 警視庁が九州・沖縄サミットに絡むハイヤー代金詐欺事件で、小林祐武・元経済局課長補佐ら4人を逮捕
7月26日 デンバー総領事の公金流用問題で、外務省が総領事を懲戒免職、当時の川島裕事務次官以下6人を処分
8月6日 同省がサミット詐欺事件で、小林元課長補佐を懲戒免職。川島次官ら計13人を処分
8月13日 外務省が公金を流用していた元パラオ大使館職員ら計3人を8月11日付で処分したことを発表
8月24日 前ケニア大使館公使ら4人を手当の不正受給で、ハイヤー代金詐欺事件の小林元課長補佐からタクシークーポンを券を受け取った職員計18人をそれぞれ処分
9月6日 警視庁が約4億円の公金詐取容疑で浅川昭男容疑者ら3人を逮捕
[汚れた機密費−外務省元室長逮捕 □]
(出典:2001年3月14日日本経済新聞朝刊)

 「官邸からです」。首相外遊時の宿泊手配などに携わる外務省のロジスティクス(後方支援)担当職員はこう言いながら、随行員一人一人に無地の封筒を配って回った。中には十万−十五万円の現金が入っていた。
 外務省のある職員は、十数年前のこの光景をはっきり覚えている。現金は、ホテル代が規定の宿泊手当を上回った際の差額補てん分。内閣官房機密費(報償費)から支出され、同省では「餞別(せんべつ)」と呼ばれていた。それは差額を上回ることが多く、ときには高級革製品などの土産に姿を変えた。
 詐欺容疑で警視庁に逮捕された松尾克俊容疑者(55)が要人外国訪問支援室長に就任する何年も前のことだ。当時既に、官邸から"水増し"されたカネが流れていたことになる。
在外公館には、大使館員同士の飲食などに使う資金をプールした「スペシャルファンド(SF)」という裏口座があるという。原資は各公館に支給された外交機密費の残金や、視察などで訪れた国会議員が置いていく「慰労金」など。この慰労金も餞別名義で支出される官房機密費の一部とされている。
 「首相の外遊なら5百万円、国会議員団が十人来れば一人20万−50万円置いていった。これが年に3、4回ありSFに充てた」。欧州の元大使館員はこう打ち明ける。
 「大使の息子夫婦の結婚披露宴の費用を賄った」「会議に出席する大使が、『女房も連れていきたい』と言えば夫人の宿泊費を捻出した」。SFの使途をめぐる内幕話は尽きない。
 「報償費は予算上、内閣官房と外務省に計上されており、外務省計上分を内閣官房に交付する形をとっている」。先月、共産党が国会で、年間50億円を超える外交機密費のうち、20億円程度が官房機密費へ「上納」されていることを裏付けるとする内部文書を提示した。
 事実なら、省庁間の予算転用を禁じた財政法違反に当たり、不正な操作で官邸に流れた予算の一部が外務省にキックバックされている構図になる。
  

◆   ◆

 しかし、政府は「上納」を全面否定。その上で官房機密費について、「国の事務を円滑に遂行するため、状況に応じて最も適当と考えられる方法で機動的に使用する経費」と説明してきた。これでも解釈次第で用途は無制限にもなり得る。しかも、領収書が不要で会計検査院の検査も及ばない。
 「蛇口をひねればいくらでも出てくる水のようなものだった」。松尾容疑者が、言い値で官邸から引き出せた機密費について、同容疑者を知る元外務省職員は語る。機密費をめぐる闇(やみ)は深い。
(雑務を進んでやる人間がいなければ、業務の一部をアウトソースすればよさそうなものであるが、その発想はないらしい。が、それ以前の根本的問題がある。一般企業において、適切な内部統制組織を整備することは経営者の責任とされており、その不備による不祥事の責任は経営者も重く負うのが常識である。上の機密費詐欺事件は内閣官房にも外務省にも、この内部統制組織が欠落しているために、起こるべくしておこった事件であり、この初歩的責任を果たしていなかった点において、内閣官房と外務省のトップの責任は重い。これは法律を作らなくとも当然に組織の長が負うべき責任であり、監督責任を全うするための責任である。ましてや、会計検査院の検査が及ばない聖域とするのならば、組織の長がこの責任を全面的に負うことはより明白である。「ひたすら信じて下さい」という場合には、「責任はすべて引き受けます」とセットでなければ帳尻があわない。にもかかわらず、官房長官と外務大臣が松尾被告が返せなかった金額を肩代わりし、その上で、内部統制組織を根本的に整備するという話を聞かない。以下に記す官僚の犯罪でも同種の責任を組織の長が問われるべき例が多いことが注目される。)



[汚れた機密費−外務省元室長逮捕 □]
(出典:2001年3月13日日本経済新聞朝刊)

◆  冒頭部省略  ◆

 「おれはこれまで人には恵まれてきた」。同容疑者の部下は、折に触れてこの言葉を聞かされてきたという。
 入省11年目には北米第二課の庶務係に配属された。当時の課長は後に事務次官となる斉藤邦彦・国際協力事業団総裁。主席事務官には川島裕・現事務次官がいた。「大物」と評判の二人の上司の知遇を得て次第に頭角を現し、82-89年には経済京に在籍しながら内閣と総理府の事務官を兼務。首相外遊時の宿泊手配などのロジスティクス(後方支援)業務の経験を積んだ。
 培った人脈を背景、松尾容疑者は「実力者」として発言力を強めていった。地域局に任されていたロジ業務について、「場当たり的な対応ではせっかくのノウハウが蓄積されない」と主張。この業務を一括管理する要人外国訪問支援室の創設を実現させた。93年には2代目室長に就任、名実ともに「ロジの第一人者」となる。
 「確かに頭が切れたし、よく気が利いた。だからこそ仕事も金も彼一人に任せてしまった・・・・・」。同容疑者が逮捕される直前、幹部の一人は唇をかんだ。ある同省OBは「外務省には大所高所から外交論を展開する職員や各国専門家は多いが、雑務を進んでやる人物はいなかった」ともいう。同省上層部にとって、松尾容疑者は「便利屋」として重宝な存在だった。

◆  以下省略  ◆



[汚れた機密費−外務省元室長逮捕 □]
(出典:2001年3月11日日本経済新聞朝刊)

 内閣官房機密費(報償費)を巡る疑惑で警視庁は十日、松尾克俊・元外務省要人外国訪問支援室長(55)の逮捕に踏み切った。在任中、46回に上る首相外遊の"裏方作業"を担当した松尾容疑者は、そのほとんどで宿泊費水増しなどの不正を行っていた疑いがあり、全容解明へ向けた捜査は緒に就いたばかりといえる。機密費の不透明性を逆手に取った同容疑者の犯罪とともに、巨額の経費の扱いを一人の手にゆだねていた外務省などのずさんな管理体制に対しても厳しい非難は免れない。

 1998年12月上旬のある日。東京・霞ヶ関の外務省8階の要人外国訪問支援室は、間近に迫ったベトナムでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席する首相随行団の旅費の見積もり作成に追われていた。
 「ホテルは一泊460ドルで入れておけよ」。隣室から出てきた室長の松尾克俊容疑者は、パソコンに向かう部下の後ろ姿に声をかけた。部下は、実際の宿泊費よりも大幅に水増しされた金額を指示通りパソコンの見積もり計算ソフトに入力した。
 見積書が完成すると、松尾容疑者は旅費法で定められた宿泊手当と見積額との差額補てん分を内閣官房機密費から受け取るため自らマイカーで首相官邸に向かった。元部下で現在はある大使館に勤務する職員は「(機密費は)不足しても追加請求できないからと、室長からはいつも多めに申請するよう言われていた」と打ち明ける。

◆    ◆

 松尾容疑者が93年から99年までの在任期間中に扱った首相外遊は計46回。この中で同容疑者が着服したのはホテル代が低額で、水増しが効果的な中東・アジア地域への外遊だった。
 98年12月にベトナムで開かれたASEAN首脳会議での水増しは正規の宿泊費の数倍−十倍。97年11月のサウジアラビア訪問時には実際には宿泊費が必要なかったにもかかわらず、架空請求していた。
 水増し行為の隠ぺいを可能にしたのは、領収書代わりに松尾容疑者自らが作成していた「支払証明書」だった。同容疑者はほとんどの外遊で、残金が数十万円だったように証明書を作成、水増し分のほとんどを自分名義の複数の銀行口座に入金していた。
 常態化していた水増し。これによって、同容疑者が不正に取得したとされる機密費は数億円に上る。巨額の機密費の一部は競走馬や高級マンションなどに消えた疑いが持たれている。
 「松尾さん、馬主欄に名前載ってますよ」。98年ごろ、省内で職員が競馬雑誌を指さし声をかけると、松尾容疑者は少し焦った表情を見せた。「知り合いと共同購入して名義を貸しているだけなのに」。気を取り直すように、こう答えたという。

◆    ◆

 外務省の内部調査によると、同容疑者は12頭の競走馬購入費などに約1億3千万円を費やし、知人女性と購入したマンション代として約8千万円を現金で払っていた。ほかにもゴルフ会員権の購入代金として約5千万円が支出されたほか、交際していた女性に約4千万円を渡したともいわれる。
 「官邸も顔パスで、政府専用機では局長クラスよりもいい席に座っていた」。外務省OBの一人は証言する。キャリア組が幅を利かす外務省で、ロジスティクス(後方支援)の第一人者として特別待遇を受けてきた松尾容疑者。このOBは言う。「自分もVIPになったと勘違いしたのがすべての始まりだった・・・・・」



Initially posted August 16, 2003.Updated October 20, 2004