最近の外務省を巡る事件は3つに分類できる。第一は機密費詐取、第二は外務省の内部調査能力を疑わせ、また、長年にわたる外務省のDNAと化していた組織的裏金づくり(ホテル代などの水増しによる4億6000万円)、第三は鈴木宗男被告との共謀による国後島ディーゼル発電設備不正入札及び国際会議費不正支出事件である。ここでは第一と第三の事件についてみる。
衆院議員、鈴木宗男被告(55)=公判中=を巡る事件のうち、国後(くなしり)島ディーゼル発電設備不正入札と国際会議費不正支出の二事件で、背任と偽計業務妨害の罪に問われた元外務省課長補佐、前島陽被告(38)=懲戒免職=の判決で、東京地裁は6日、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。
木口信之裁判長は「刑事責任は相当に重いが、主導的な立場ではなかった」と指摘した。
また、「支援委員会の支出は会計検査院の検査などが及ばないことに乗じて不明朗な処理をし、一部は個人口座で管理し裏金としていた」と認定、被告が決裁書を自ら起案するなど重要な役割を果たしたと指摘した。
さらに木口裁判長は、政府開発援助(ODA)の入札について、「かねて業者間で実質的な競争を排除して受注者を絞り込む工作が行われていた」と指摘した。
判決によると、前島被告は三井物産元部長らに発電設備の入札予定価格の情報を漏えい、元部長らが2000年3月に談合するなどして入札を形がい化させ、発注元の国際機関「支援委員会」の業務を妨害。また、元外務省主任分析官、佐藤優被告(43)=分離公判中=と共謀、国際会議の参加費用などを支援委に払わせ、計33百万円の損害を与えた。
(この事件は鈴木被告との密接な関連で行われたことについてこちらをご覧下さい。)
一連の外務省不祥事 (筆者注:2001年のみ) | |
1月25日 | 機密費約5400万円を着服した業務上横領容疑で、外務省が松井克俊・元要人外国訪問支援室長を告発・懲戒免職 |
3月10日 | 警視庁が元室長を機密費約4200万円の詐欺容疑で逮捕 |
7月16日 | 警視庁が九州・沖縄サミットに絡むハイヤー代金詐欺事件で、小林祐武・元経済局課長補佐ら4人を逮捕 |
7月26日 | デンバー総領事の公金流用問題で、外務省が総領事を懲戒免職、当時の川島裕事務次官以下6人を処分 |
8月6日 | 同省がサミット詐欺事件で、小林元課長補佐を懲戒免職。川島次官ら計13人を処分 |
8月13日 | 外務省が公金を流用していた元パラオ大使館職員ら計3人を8月11日付で処分したことを発表 |
8月24日 | 前ケニア大使館公使ら4人を手当の不正受給で、ハイヤー代金詐欺事件の小林元課長補佐からタクシークーポンを券を受け取った職員計18人をそれぞれ処分 |
9月6日 | 警視庁が約4億円の公金詐取容疑で浅川昭男容疑者ら3人を逮捕 |
「官邸からです」。首相外遊時の宿泊手配などに携わる外務省のロジスティクス(後方支援)担当職員はこう言いながら、随行員一人一人に無地の封筒を配って回った。中には十万−十五万円の現金が入っていた。
外務省のある職員は、十数年前のこの光景をはっきり覚えている。現金は、ホテル代が規定の宿泊手当を上回った際の差額補てん分。内閣官房機密費(報償費)から支出され、同省では「餞別(せんべつ)」と呼ばれていた。それは差額を上回ることが多く、ときには高級革製品などの土産に姿を変えた。
詐欺容疑で警視庁に逮捕された松尾克俊容疑者(55)が要人外国訪問支援室長に就任する何年も前のことだ。当時既に、官邸から"水増し"されたカネが流れていたことになる。
在外公館には、大使館員同士の飲食などに使う資金をプールした「スペシャルファンド(SF)」という裏口座があるという。原資は各公館に支給された外交機密費の残金や、視察などで訪れた国会議員が置いていく「慰労金」など。この慰労金も餞別名義で支出される官房機密費の一部とされている。
「首相の外遊なら5百万円、国会議員団が十人来れば一人20万−50万円置いていった。これが年に3、4回ありSFに充てた」。欧州の元大使館員はこう打ち明ける。
「大使の息子夫婦の結婚披露宴の費用を賄った」「会議に出席する大使が、『女房も連れていきたい』と言えば夫人の宿泊費を捻出した」。SFの使途をめぐる内幕話は尽きない。
「報償費は予算上、内閣官房と外務省に計上されており、外務省計上分を内閣官房に交付する形をとっている」。先月、共産党が国会で、年間50億円を超える外交機密費のうち、20億円程度が官房機密費へ「上納」されていることを裏付けるとする内部文書を提示した。
事実なら、省庁間の予算転用を禁じた財政法違反に当たり、不正な操作で官邸に流れた予算の一部が外務省にキックバックされている構図になる。
内閣官房機密費(報償費)を巡る疑惑で警視庁は十日、松尾克俊・元外務省要人外国訪問支援室長(55)の逮捕に踏み切った。在任中、46回に上る首相外遊の"裏方作業"を担当した松尾容疑者は、そのほとんどで宿泊費水増しなどの不正を行っていた疑いがあり、全容解明へ向けた捜査は緒に就いたばかりといえる。機密費の不透明性を逆手に取った同容疑者の犯罪とともに、巨額の経費の扱いを一人の手にゆだねていた外務省などのずさんな管理体制に対しても厳しい非難は免れない。
1998年12月上旬のある日。東京・霞ヶ関の外務省8階の要人外国訪問支援室は、間近に迫ったベトナムでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席する首相随行団の旅費の見積もり作成に追われていた。
「ホテルは一泊460ドルで入れておけよ」。隣室から出てきた室長の松尾克俊容疑者は、パソコンに向かう部下の後ろ姿に声をかけた。部下は、実際の宿泊費よりも大幅に水増しされた金額を指示通りパソコンの見積もり計算ソフトに入力した。
見積書が完成すると、松尾容疑者は旅費法で定められた宿泊手当と見積額との差額補てん分を内閣官房機密費から受け取るため自らマイカーで首相官邸に向かった。元部下で現在はある大使館に勤務する職員は「(機密費は)不足しても追加請求できないからと、室長からはいつも多めに申請するよう言われていた」と打ち明ける。