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3DAYS             

「何だと?余がルスバンだと?」
人型に戻ったのに、再びルカの家に居着いている魔王―スタンは、
台所の椅子に座って遅い朝食を食べながら、すっとんきょうな声を上げてしまった。
その彼の前には、ルカとその家族、そしてマルレインが勢揃いしている。
「うん。父さん達が『ちょっとばかり家を空けて、新しい世界に遊びに行きたいね!』って
言い出しちゃって…。でもやっぱり家に誰も居ないのは不用心でしょう?」
「だからって何故余がルスバンをせねばならぬのだ!!」
「だってスタンが一番適任なんだもーん」
ルカの後ろからアニーが間髪入れずに言ってきた。尚も不服を言おうとするスタンだったが、
「あらあらあら、スタンちゃんやっぱり寂しいの?」
というルカの母の言葉にカチンときたらしく、椅子から立ち上がって
「馬鹿にするなよ!このスタンリーハイハットトリニダード14世様が一人でいるのが
寂しいだと!?ふん!ルスバンぐらいやってやるわ!感謝しろよ!」
と家中に響きそうなほどの大声で、引き受けてしまったのだった。
実に恐ろしきは『男の操縦法』というところか。



ルカ達は3日程で戻ってくると言って、ぞろぞろと家を後にした。
独り留守番役となったスタンは、暫く家の中をウロウロし、庭でぼんやりと
空を見上げ、ルカのベッドに横たわってゴロゴロしてみたりしていたが、
やがて退屈の限界が来たらしく、
「あーっもう!こんなに退屈なのかルスバンとはー!!!」
と、天に向かって叫んでしまっていた。
彼は今まで、数日に渡って一人でいるなどという状況に陥る事のない人生を
送ってきていたので、一人での時間の過ごし方など皆目見当がつかないのだった。
「…ジェームス!ジェームスはいるか!?」
いつものように(彼にとって)頼れる執事を呼んでみるが、一向に姿を現わさない。
「こらー!ジェームズ!!出てこぬか!」
苛立ちながら尚も呼び続けると、1羽の鳩が窓から飛び込んできた。
その足にはなにやら筒のような物が付いている。
「ん?これは手紙…?『親愛なる坊ちゃまへ。年次有給休暇が繰り越されないので
消化して参ります。1週間ほど戻りませんのでその間は子分どのの家でいつもどう
りに過ごして下さいませ』………あっ、あの馬鹿者〜!」
不運にもジェームスまでもがいない状況に、スタンはただボーゼンと、しかし
怒りは十二分に湧き上がらせてつつ立ちすくんでいたのだった。

「うーむ…。しかしこれは困った状況ではないか?子分の母親は食事は何も作って
行かなかったしな…。自慢じゃないが余は料理などした事もないし…」
このまま大人しく飢えて死ぬわけにはいかないので、取り敢えず自分の知っている
人間で料理が出来そうな奴を思い出す。交友関係の少ない彼には一人しか思い浮かば
なかったのは言うまでもない。
「ふむ。ならばひっ捕まえに行くか…。どうせあの二束三文勇者の事だ、
どこぞの魚でも物欲しそうに見てるに違いない」
少しばかり嬉しそうに独り言を口にしながら、スタンはスッと姿を消した。






「…美味しそう…。でも大きすぎるわね…やっぱり焼くのかしら…?」
スタンの予想通り、ロザリーはリシェロで吊るされている巨大魚を見つめて、
それが料理された様を思い浮かべたりなどしていた。
そんな彼女を遠くから見つけた者がいた。
「あーっ!お姉様ーっ!!」
聞き覚えのあるその声にロザリーが振り向くと、そこにはルカとその家族、
そして初めて会うはずなのに懐かしい、大好きだったあの娘に似た少女がいた。
声の主であるアニーがトテトテと走ってくる。
「やーんvお姉さま、偶然ですー!」
「うふふ、アニーちゃんってば相変わらず可愛いわね。…ルカ君、久しぶりね」
最後に会った時から少し背が伸びた印象を受ける。顔立ちはまだあの頃のまま
だけれども、少し大人になったような気がする。
「お久しぶりですロザリーさん。あ、彼女は…」
「久しいのう、ロザリー」
ルカに紹介される前に声をかけてきた少女は、やはり自分の思い違いではなく
あの娘だったのかと思い、あわててキリッとした態度を取る。
「じょ、女王様!お久しゅうございます!」
だが、次の瞬間には少女から尊大な態度は消え、にっこりと笑いながらロザリーを
抱きしめていた。
「あのね、私はマルレインだけど、王女のマルレインじゃないの。役を与えられた
私じゃなくて、トリステから出てきた本当の私なの。だから、マルレインって呼んで。ね?」
ああ、とロザリーは思い出した。あの時、トリステでルカが言っていた『ここの
何処かにいるのに会えない娘』、それはこの本物のマルレインだったのだ。
そして今ではルカの元にいるのだという事も理解した。
「良かった…。ちゃんと貴女に会えて良かった…」
少しばかり涙ぐんでしまう。
「あのー、ところでロザリーさんは何でここに?」
感動の再開を邪魔したようなので申し訳なさそうに、ルカが尋ねてきた。
「え?ええ。スタンの馬鹿を探してるんだけど、ちっとも見つからなくて…。
ちょっとお腹もすいたから、ここでお昼にしようと思ってたのよ」
ロザリーの台詞に、ルカが『あっ』という表情をしてみせた。そして次の瞬間
ルカの母が意外なようにルカに聞いた。
「あらあらあら、ロザリーさんに知らせてなかったの?だめじゃないのー。
あのね、ロザリーさん。スタンちゃんはいま家に居候しているのよ」
暫く沈黙が続き、ルカ達の目の前にはただボーゼンと立ち尽くすロザリーがいた。
「…ルカ君」
かなり怒気を含んだ口調にルカがビクリとする。
「…なんでそれを教えてくれなかったの?…この1年半、私がどれだけアイツを探して
…世界中を駆けずり回ったと思ってるの!?なんで君の家にアイツがのほほんと
居座ってるの!!?ちゃんと答えて頂戴!!!」
あまりの剣幕に思わずマルレインの後ろに隠れてしまうルカに、まだ詰め寄ろうとした
その時、不意にロザリーは背後から何者かに抱きかかえられてしまった。
「なっ…!?」
こんなところでマルレイン初描きか!
「やはりここにいたな。お約束勇者が。ちょっとばかり余に付き合ってもらうぞ」
地面に足が届かないようにロザリーを抱きかかえているのは、やはりスタンであった。
呆然とするルカを尻目に、スタンは「さっさと帰って来い、子分」と言い残して
空間を転移してしまった。
しばしの間の後、ルカの母は何をどう勘違いしたのか、
「あらあらあら!スタンちゃんってばすごいわ!家にロザリーさんを連れていって
ケダモノの様に襲うつもりね!」
と嬉々としてとんでない言葉を口にしている。
「そ、そんなぁ…。ど、どうしよう…」
おろおろするルカに、マルレインは落ち着いた態度で、
「大丈夫よ。なんだかんだ言ったって、スタンってば子供ですもの」
と、ルカをなだめていた。
「うんうん。スタンもロザリーさんもいい大人だし、放っておいても大丈夫さ! 
さあさあ、そろそろお昼を食べて船に乗ろうじゃないか!」
どこまでもマイペースな父であった。



「…という訳で余の為に食事を作れ」
ルカの家に移動したスタンがさも当然の様にロザリーに言ってみせる。が、そのロザリーはまだ
呆然としている。その態度に多少苛ついたのか、今度はロザリーの耳元で大声で「食事を
作れと言ってるのだ!」と叫んでみたりした。これにはさしものロザリーも驚いたらしく、
やっと正気に戻ったようだった。
「なんで私がアンタの食事なんか作んないといけないのよ!!!」
「他に作る奴がいないからに決まっとろーが!」
「アンタなんか飢え死にすればいいのよ!!このスカタン!」
「余の名に『カ』なんぞ付けるなー!!」
相も変わらずの口論がかれこれ3時間は続いた後、結局折れたのはロザリーだった。彼女自身、
食事を取りたいと思っていた為でもあるが。
「…魚料理にするからね」
「何を言う。肉料理に決まっとろうが」
「私は魚が食べたいのよ。作ってもらうだけの奴は大人しくリビングにでも居なさい」
作るのはロザリーなので、ここは大人しく従うしかなかった。
「ふん…。まあいい。3日間魚料理ばかりでは無いだろうし…」
スタンの『3日間』という言葉にロザリーは耳を疑った。まさか3日間自分を拘束する気では
ないのか、そう思いスタンに問いただしてみる。
「アンタ…、まさか3日間丸々私をここに置くつもりじゃあ…?」
「あん?当然であろう。子分達が帰ってくるのは3日後なんだからな」
最初からそのつもりで連れてきたらしい。
「そう…。でもこれはチャンスよね?アンタをぶちのめしてこの影を元に戻させるには」
「別に戦わずともよかろうが。そうだな…、では余に3日間献身的に尽くせば、影を元に戻してやろうか?」
「献身的ぃ!?」
「そうだ。子分のようにな。風呂ではちゃんと余の背中を流せよ」
「…………ふざけんじゃないわよ!こぉの変態魔王ーーー!!!」
さらりと言ってのけたスタンに、ロザリーの強烈な張り手が決まったのは言うまでもなかった。

〜管理人猛省中〜
あぅん。スタロザにも入れなかったYO!まぁ最初はこんな感じですか?
会社でコソコソ隙を見て打ってるので、誤字脱字はどうかご勘弁を(−−;

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