155に搭載されたエンジン(5)
(5)はフィアットのスーパーファイア系エンジンです。

そもそもスーパーファイアエンジンとは共通のボアピッチ(90mm)をもった4気筒・5気筒エンジンブロックに、これまた共通で使用できるヘッドや過給機を組み合わせ各種エンジンを同じ生産設備で任意につくれるようにしたフィアット・モジュラーエンジンです。
生産は南イタリアのプラト・セラ工場で行われフィアット・ランチア・アルファの各車種用のエンジンが生産されます。

モジュールの簡単な(簡単過ぎる…)内容は…(因みに以下は初期からのもので現在はもう少しバリエーションが増えています。多分…)

●ブロック
ガソリン用4気筒1.4L(1372cc)82.0mm×64.87mm
ガソリン用4気筒1.6L(1580cc)82.0mm×75.65mm
ガソリン用4気筒1.8L(1747cc)82.0mm×82.7mm
ガソリン用4気筒2.0L(1970cc)83.0mm×91.0mm
ガソリン用5気筒2.0L(1998cc)82.0mm×75.65mm
ガソリン用5気筒2.4L(2446cc)83.0mm×90.4mm
ディーゼル用4気筒1.9L(1910cc)82.0mm×90.4mm
ディーゼル用5気筒2.4L(2387cc)82.0mm×90.4mm

●ヘッド・過給機
3バルブ
4バルブ
4バルブ・ターボ
4バルブ・ツインスパーク
5バルブ
5バルブ・ターボ
2バルブディーゼル・ターボ
2バルブ直噴ディーゼル・ターボ

と、なり、これらを組み合わせて膨大な種類のエンジンを一つの生産設備でつくることができるというものです。アルファに関して言えば、4バルブ・ツインスパークヘッドはアルファが開発したものとされアルファブランドのクルマ専用となっています。逆に、アルファのガソリンエンジンは4気筒のブロックとツインスパークヘッドの組み合わせのみです。

155現役時、97年時点でアルファが採用していた組み合わせは次の通りです。

ガソリン用4気筒1.4L+4バルブ・ツインスパーク
(145・146)

ガソリン用4気筒1.6L+4バルブ・ツインスパーク
(145・146・155)

ガソリン用4気筒1.8L+4バルブ・ツインスパーク
(145・146・155)

ガソリン用4気筒2.0L+4バルブ・ツインスパーク
(145・146・155・GTV・Spider)

その後、156からディーゼルにもスーパーファイア系が使用されていくことになります。

アルファが設計したとされるスーパーファイア用ツインスパーク用ヘッドですが、よく知られるように排ガス対策を狙ったもので燃焼速度を上げるためのものではありません。そもそも8バルブ時代のツインスパークも狭角バルブと2バルブ半球面燃焼室の両立のための苦肉の策という感がなきにしもあらずですが、ツインスパークという言葉の響きのよさ故と、オリジナルがコンペティション用であったためにどうしても「ツインスパーク」を残したかったのでしょうか?

排ガス用の2プラグならホンダのフィットぐらいのことをしなければ…(^^;)

アルファのもつスポーティーなイメージとは無縁ともいえる目的をもったこのツインスパークを専用にしてまでアルファの売りにする意図がいまいち掴めません。何故排気行程に点火するサブプラグをもったツインスパークが必要だとアルファは考えたのでしょう。

さて不思議なツインスパークのほかには、位相切替装置も備わります。新しいそれは2.0Lでは上死点前22度−下死点後26度と上死点後3度−下死点後51度に切りかえられます。(他排気量が同じか否かは不明)

では個々の排気量版が155に搭載されていた時期についてです。

●2.0L 16V TWIN SPARK (155搭載:1995-1997)
エンジン形式:-
排気量:1970cc(83.0mm×91.0mm)
最大出力:150HP(EEC)/6200rpm
最大トルク:19.0kgfm(EEC)/4000rpm
最高速度:208km/h

アルファに最初に搭載されたスーパーファイアエンジンです。1995年に155がマイナーチェンジした同タイミングでそれまでの8Vツインスパークに取って代りました。この後155搭載に搭載される1.8L、1.6Lと異なる点はバランサーシャフトを内蔵している点です。

このバランサーシャフト自体は、アルファにとっても、155にとっても、はじめてものではなく実はQ4用の2Lターボにも採用されています。それからもわかるようにランチアが好んで使っていたものです。またバランサーシャフトの技術自体は1900年代はじめにイギリス人が考案したものだそうですが、モーメントも打消す段違いのものは日本の三菱のもので特許も三菱がもっていました。

バランサーシャフトについての効能はこちらをご参照下さい。

さて、この16V2Lスーパーファイアツインスパークエンジンは、155現役時においては、145・146・GTV・Spiderに共通使用されました。

●1.8L 16V TWIN SPARK (155搭載:1996-1998)
エンジン形式:-
排気量:1747cc(82.0mm×82.7mm)
最大出力:140HP(EEC)/6300rpm
最大トルク:16.8kgfm(EEC)/4000rpm
最高速度:205km/h

前述2Lより遅れてマイナーチェンジの翌年から搭載されたスーパーファイア系の1.8Lエンジンです。バランサーシャフトがつかないこと以外は、2Lとほぼ同じ構成です。

このエンジンの155同時搭載車としては、145・146がありました。

●1.6L 16V TWIN SPARK (155搭載:1996-1998)
エンジン形式:-
排気量:1598cc(82.0mm×75.65mm)
最大出力:120HP(EEC)/6300rpm
最大トルク:14.7kgfm(EEC)/4500rpm
最高速度:195km/h

旧1.7Lの後継として1.8Lスーパーファイアと同時に1996年から155に搭載され、これをもって155から8Vツインスパークユニットは姿を消しました。
この1.6Lスーパーファイアツインスパークは1.8Lと同じ構成で位相切替装置も備えているようです。

このエンジンの155同時搭載車としては、1.8L同様145.146がありました。

イタリア語の145のカタログを読む(眺める)限りでは、スーパーファイア系のツインスパークにおいては最小排気量の1.4Lから2.0Lまで全てに位相切替装置が備えられているようで、別の言い方をすれば、ヘッドは4排気量エンジン全て共通とも言え、スーパーファイアらしい合理性とも言えるようです。
(147から1.6Lに位相切替装置無し廉価バージョンのツインスパークが登場したようです。147の1.6Lには位相切替有無双方のバージョンが搭載されているようです。)

なお、1.6L・1.8Lの小排気量4気筒搭載155は1997年の156登場後もしばらく生き残り欧州においても1998年までラインナップされていたようです。