155に搭載されたエンジン(付録) |
155に搭載されたエンジンそのものについてではありませんが、何故か雑誌等で巷のチューニングショップに(不当に評価され?)揶揄されることもあるバランサーシャフトについて少し考えてみたいと思います。ここでは、直列4気筒エンジンのバランサーシャフトについてとします。(フィアット5気筒スーパーファイアにも用意されているようですが…) まず直4エンジンのバランスについてです。 4気筒で等間隔爆発を起こさせるには、一サイクル=吸気・圧縮・膨張・排気=ピストン2往復=クランク軸2回転=720度を4で割で割った720÷4=180度毎に爆発を起こさせればいいことになります。6気筒のときと同様に時計を使って考えると、まず一番手前のシリンダーのクランクが真上12時の位置にあるとき爆発を起こさせます。次にどこかのシリンダーで爆発が起きるまでに180度回転させるので、最初のクランクは6時の位置にきます。この状態で12時の位置にクランクが伸びていればよいわけです。これをあと二回繰り返すと、12時・6時・12時・6時の方向にクランクが伸びます。実際には#1→#3→#4→#2の順に点火するので、クランクは12時・6時・6時・12時の方向に伸びています。 つまり、あるシリンダーのピストンが上死点から下死点に向かう間、どこかもう一つのシリンダーのピストンも同じく上死点から下死点に向かい、残りの2シリンダーのピストンは逆に下死点から上死点に向かいます。これによって一見、上下の振動は完全に相殺されたかのように感じます。実際、直4エンジンではこの直感的にすぐわかるクランクシャフト1回転について一往復の振動=1次の振動は相殺されています。 ところが、2次の振動=クランクシャフト1回転について2往復の振動は相殺するどころか、4気筒全てが重なりあって増幅してしまいます。 では、この2次の振動について直感的な(だけの^^;)説明を。 6気筒のところで少し触れていますが、ピストンは一見コネクティングロッドの付け根、クランクピンの運動を真横から見た上下運動と同じ動きをしているように錯覚しますが、実はコンロッドの長さが有限なためそうではないんですね。 エンジンを正面からみたとき、コネクティングロッドの付け根が12時から3時にかけて回るときコンロッドはだんだん寝ていきます。寝ていくということは、コネクティングロッドの付け根が上下方向に降りていくより、コネクティングロッドの先端即ちピストンが降りてくる速さの方が速くなっています。つまりこの12時から3時のあいだは、コネクティングロッドが有限な長さをもつことによりピストンは下向きの力を受けていることになります。 次にコネクティングロッドの付け根が3時から6時にかけて回るときコンロッドはだんだん立っていきます。角度が立つということは、ピストンは、コネクティングロッドの付け根が上下方向に降りるスピードより遅いスピードで降りていくことになります。下に行こうとしているもののスピードを鈍らせる…このときコネクティングロッドの存在はピストンに対し上向きの作用をしていることになります さて下死点を通過し、6時から9時に向かうとき。今度はコネクティングロッドは寝ていきます。上に上がろうとするピストンは、コネクティングロッドの上昇スピードより遅いスピードで上がります。下向きの力ですね。 9時から12時。コンロッドの角度は立っていく=上へ向かうピストンはコンロッドの付け根より速いスピードを得る・・・上向きの力です。 つまり、コネクティングロッドが有限の長さをもっているという事実が… 12時〜3時…下向きの力 3時〜6時…上向きの力 6時〜9時…下向きの力 9時〜12時…上向きの力 を、ピストンに作用させます。12時から12時、つまり1回転のあいだに下上下上と2往復する力…2次の振動です。 ここで、各シリンダーに加わる二次の振動の向きを考えてみます。#1のシリンダーでピストンが12時にある位置からスタートします。 #1…12時→下→03時→上→06時→下→09時→上→12時 #2…06時→下→09時→上→12時→下→03時→上→06時 #3…06時→下→09時→上→12時→下→03時→上→06時 #4…12時→下→03時→上→06時→下→09時→上→12時 何を「上」とするかは別として直4エンジンでは、クランク軸一回転について2回上下する力:二次の振動が、4気筒全てで重なり増幅するということになりそうですね。 これを打消そうというのが、バランサーシャフトです。 クランク軸一回転について2回上下する力を打消すのですから、2次の振動が下上下上となっているのならば上下上下に振動する力を加えればいいわけです。何かを上下に揺すってもいいのですが、クランク軸の出力から簡単に得られる方法を考えると、回転によって上下振動を起こさせるのがよさそうです。そこで、アンバランスな軸−半円柱状の軸を回転させます。クランク軸1回転で、2回振動させるためこのアンバランス軸をエンジンの回転数の倍の回転数で回転させます。これで、上下にエンジンの回転数の2倍の振動を起こさせることができ、その方向をエンジン自体による起振力から180度ずらし打消してやればいいわけです。 …が、このままでは問題があります。半円柱状のアンバランス軸は起振力を打消す上下の振動を発生させますが、当然左右にも振動してしまいます。これではまずいですね。これを解消するため、アンバランス軸を2本に分け、上下の振動は同位相になるように、そして左右の振動は互いの2本のアンバランス軸で打消すように、それぞれシリンダー列両脇の同じ高さの位置に置いて逆回転させます。これによってアンバランス軸自体が発生する左右の起振力はキャンセルされ、上下の起振力のみが残り、これがエンジンの発生するそれと相殺します。 あまりにも簡単過ぎる稚拙な説明ですが、これが直列4気筒用のバランサーの原理の説明だということにしておいてください。この同高さに位置するバランサーシャフトは1900年代のはじめにイギリスのフレデリック・ランチェスターという人が考案したといわれ、”ランチェスター・バランサー”と呼ばれることもあるようです。(ホンダF18A・20A・22Bが採用していたようです) さて、アルファがというかフィアットが採用したバランサーシャフトは上記の”ランチェスター・バランサー”ではなくこれを日本の三菱自動車が更に発展させた形式のものです。 何が優れているかの前に、直列4気筒エンジンのバランスについてまた少し。直4にはバランサーシャフトで打消した2次の上下方向の起振力以外にもまだ問題となるアンバランスが残ります。これは、2次のローリングモーメント…つまりエンジンを前からみたときの面で回転させる力です。何でこんなもんが発生するのというと、これもまたコネクティングロッドのせいで、シリンダに対して斜めの角度がついたコンロッドに押されたピストンがシリンダーの一方の壁を押すために、エンジンを回転させる力が発生するというわけです。直4の場合この力も打消し合うことなく残ってしまうようです(←直感的な説明ができてません。許してください。^^;)。 エンジンを正面から見た面で回転させる力を打消すために、”ランチェスター・バランサー”を応用しています。”ランチェスター・バランサー”では完全に打消していたバランサーが発生する左右の起振力を利用してエンジンを回転させる力を発生させてしまおうというものです。ものを左右同じ高さの位置から逆方向(向き合う向き)に同じ大きさの力で押してもそれらが釣り合い動きませんが、高さを変えたとことから逆方向き(向き合う向き)に押すと、くるっと回転しますよね。これを発生させたのが三菱式です。 三菱式は、”ランチェスター・バランサー”ではシリンダー列の両脇に同じ高さに置かれていた2本のバランサーシャフトを置く高さに段差を設け、左右の起振力をエンジン(ブロック)を回転させる力に使ってしまおうというものです。 これは、画期的な発想だったようで、三菱は特許を取りましたが、その期限が切れる前からランチア・ボルボ・サーブそしてポルシェまでが(おそらく特許料を払ってまで)採用しています。 ランチアがこのバランサーに積極的っだったことに起因していると思われますが、フィアットのスーパーファイアにも採用されそして、155の2.0L16VTSにも採用されました。 因みに、このバランサーは155にとってスーパーファイアがはじめてではなく、デルタのインテグラーレ16Vから移植されてきたエンジンに採用されていたため、155デビューの92年から既にQ4で存在しています。 ところでバランサーシャフトは、エンジンの出力を使って出力アップとは関係のないものを駆動するため、ただのフリクションだと書かれていることがありますが、そうでしょうか? 大排気量4気筒ポルシェにも採用されていますし、前述の通りデルタ・インテグラーレ(16V・8Vともに採用されているようです。基本的にテーマ以降のランチア4気筒には”全て”かも…)も使っています(コンペティションユースでは未確認)。このような事実からも、「ふわふわなサスペンション」や「ふんだんに使われた遮音材」と同レベルで「安楽装置」のような記述をしてある記事はどこかちょっと認識を誤っているような気がします。 更に究極の例として、直4ではありませんが1989年からホンダF−1NA3.5V10、LRA101Eエンジンにもバランサーシャフトが組みこまれていたようです。 |