ALFA V6エンジンとは(5)
前回までで、アルファが採用した60度バンク−60度6スロークランク−V6エンジンというものが如何なるものかを長々と考えてみました。
結局、「等間隔爆発も実現できバランスウェイトを適正に設けることによりV6エンジンとしてはバランスに優れたものとすることができるが、全長は他のバンク角を採用した等間隔爆発V6と比べても長くなるV6エンジン」ということができると思います。また60度バンクということからエンジンの幅を90度や120度バンクのものと比べて狭くすることも可能です。

では、アルファはどんなエンジンが欲しかったのでしょうか?思うに伝統の直4DOHCエンジンになるべく近いオーバー2L用多気筒エンジンが欲しかったのではないでしょうか?直4を搭載している車に換装できるようなオーバー2Lエンジンで、すべてが直4に近いが大排気量らしい高級感も持ち合わせる−こんなエンジンが欲しかったのでは。

例えば(結果論ですが)上限を3Lとすると、そのまま直4でいこうとした場合大きなシリンダーの大きな爆発力に伴う大きなアンバランスを封じこめることができない…大排気量らしい高級感は望めないことになりそうです(MMCのバランスシャフトがあれば(使えれば?)或いはオーバー2L直4の選択もあったかもしれませんね)。

と、いうことで6気筒以上の選択になるでしょう。上からいきますと例えばV8。V8をサイドバイサイドのクランクピンで等間隔爆発にしますと90度V8ということになります。実はこの90度V8も直6に並んでバランス優等生でこのままでかなりの高次までバランスします。サイドバイサイドなので、例えば向き合うクランクピン間にウェブを挟まずを得ない60度V6と比べてもそんなに全長は長くならなさそうです。いいことずくめのようですが、90度バンクということで、全幅が大きくなってしまうという欠点があるのでしょうか。しかし小型車の縦置きエンジンには絶対不可能なのかというと、そのようなことはなくその回答はアルファ自身がもっていました。TIPO33のV8エンジンをデチューンしたV8エンジンをフロントに搭載したモントリオールです。実に車両の全幅1700mm以下の1670mmを実現してます。これで排気量は2593cc…なんとかいけそうな気もしますが。しかし、やはりなんだかんだいって直4との互換を考えると全長も全幅も大きくなり重量も重くなりそうです。なによりコストも高くなりそうですのでやはりV8は現実的ではなかったのでしょう。

次に6気筒です。直6とV6があります。V6には一般的な形態として120度、90度、60度バンクがあることはいままでだらだら書いてきたとおりです。それから水平対向6気筒もありますね。直4との互換ということを考えると、長さも幅もV6が現実的です。直4に近いものでいいとすると長さが直3強で済んでしまうことは、あまりどうでもいいことかもしれません。つまり60度等間隔爆発の欠点である長さは許容できるということですね。長さにさえ目をつぶってもらえれば60度バンクは俄然有利になります。まずバランスをよくすることができる、それから全幅を抑えることができるということです。120度バンクは全幅が現実的ではなかったのでしょう。

あとは90度との一騎打ちです。まず長さに目をつぶってもらっているので、60度は等間隔爆発も、ウェブにふんだんにウェイトをつけて60度バンク等間隔爆発V6でこそ成し得る高次元までのバランスも実現できます。対する90度は、当時はまだ30度オフットクランクの考えがなかったため、90度-150度の不等間隔爆発が一般的でしたし、仮に30度オフセットクランクで等間隔爆発を実現していたとしてもバランスの面で60度には及びません。90度の有利なところは、長さが詰められるところでした。(あとはバンク間が広いため吸気系の取りまわしが楽であるという利点もあります。アルファは60度にしたためこの面でちょっと苦労しているような…)

また3Lを90度V6で作った場合120度ほどではないにしろまだ幅の問題もありそうですね。V82.5Lはモントリオールの例のように1700mmの車幅に収まっているようですが、1シリンダあたりがV8より当然大きくなるV6では90度バンクを直4搭載車に載せるのは辛いようです。実際急遽PRVを載せることになったPEUGEOT505などはキチキチですね。505は4気筒車とはいえはまだ車幅に余裕ばあったため載せられたのでしょう。

直4から長さも幅も大きく逸脱しない(あるいはしなければ良い)…という意味では「60度バンク−60度6スロークランク−V6」は最良の選択だったのかもしれません。幅も長さも直4並にでき、しかもV6としても(特にバランス面で)優れた面が多い形式と判断されたのでしょう。

では、V6エンジンは直4並の長さが得られるというだけで選ばれたのでようか?つまり直6は長さの問題だけで却下されたのでしょうか?長さえ許せば直6に越したことはなかったのでしょうか?
実はコンパクトに収まるという以外にも直6に比べV6が優れている点もあります。まずクランク軸のジャーナル軸受が直6が一般に7つであるのに対しV6は一般に4つで済みます。つまり抵抗が少ないということですね。

また、これ以降はアルファが採用した60度バンク−60度6スロークランク−V6に限った部分もありますが、バランス面で直6に負けない場合があるというのです。

例えば、その(4)で書いたようにこの形式のV6は直6では発生しないピッチングモーメントの2次が発生しています。ピッチングモーメントとはエンジンを横から見た場合の面の回転つまり、エンジンの前後に人が乗ったシーソーのうようににぎったんばったんするモーメントです。これがV6では出てしまうということですが、実は直6はエンジン自体のバランスとしては発生しませんが、他の要因として出てしまうというのです。何せ前後に長い直6です。ちょっとしたことが大きなモーメントになりかねません。そこで問題になるのは、バルブの開閉です。最前部と最後部のバルブが開閉する=動くことによりモーメントを発生させてしまうというのです。これがV6の内包するアンバランスからくるモーメントより大きくなることがあるというのです。意外にもこのバランス面ではアルファが採用した形式のV6の勝ちに成り得るということですね。

次に、これもその(4)で記した「ローリングは直6と同じところまでバランスする」という部分です。ローリングモーメントはエンジンを正面から見た面での回転、即ちクランク軸回りのモーメントです。クランク軸をねじ切るモーメントですね。で、これは直6・V6(くどいようですが60度バンク−60度6スロークランクでバランスを適正にとったV6です)ともに同じ3次から出ます。この先が説明できないのですが、エンジンが高回転になることによりこのアンバランスがクランク軸と共振してしまうという理屈になるようです。そして共振によりクランク軸がねじ切られてしまうという事態に…。この共振する回転数はクランク軸が長い直6の場合、6000rpmとか7000rpmとかいう領域に入ってきてしまうというのです。この点クランク軸が短いV6の場合もっと高い回転数が共振域となり事実状その領域には突入しないということです。V6選択の理由として自動車高速化の時代において高回転・高負荷の連続運転が往々にして行われる(特に欧州では)ことを考慮したためというのも決して小さな要因ではないようです(「横置きFFに使える」とか増してや「衝突安全性」は昨今の副産物でしょう)。

バランスの神様のように思えていた直6にもその面でのウィークポイントもあるのですね。だから一概にV6は全長を詰めることに特化し、ほかは諦めた6気筒ではではなさそうです。

このように、V6、その中でも60度バンク−60度6スロークランク-V6の優れた点を見出したアルファはそれが既存のDOHC直4と大きなサイズ違いにはならずに実現できるという点で当然の選択としてオーバー2L用のエンジン形式として採用したのではないでしょうか。

V6自体の歴史はそれほど深いものではなく、60度バンク−60度6スロークランクとなると前例がなかった(と随所に書かれていますが詳細未確認です)にも関わらず採用したのは当時のアルファにとって、またはエンジン一般として様々な有利な点をもっていたための当然の選択だったのかもしれませんね。

次はもっと気楽に当時のアルファの主力DOHC直4エンジンと比較してみたりしたいと思います。(おいおいまだ続くのかよ^^;)