ALFA V6エンジンとは(6)
何故、アルファロメオは60度バンクV6を選んだのか…ということをまったく勝手に想像してきました。そしてそれには当時のアルファの主力(にして(殆ど唯一の量産)エンジンであった直列4気筒DOHCエンジンから大きく逸脱しないという命題があったのではないかと仮定してみました。
これによって、幅・長さに適う60度V6が選択されたのではということにしてしまいました。ここでは大きさ以外についてもV6エンジンがアルファ4気筒エンジンに近いものを作ろうとしたのではないかと思える個所を挙げていきたいと思います。

まずエンジンの素材ですが、これは両エンジンのヘッド/ブロックともにアルミ合金です。所謂オールアルミエンジンですね。

それから、燃焼室ですが4気筒エンジンは半球面にセンタープラグを採用した2バルブクロスフローです。そしてV6エンジンの方も(オリジナルの12バルブ)半球面にセンタープラグです。これだけなら同じ形式のヘッドを採用すればよさそうなだけなのでそれほど驚くこともありません。…が御存じの通りヘッドの形式はまったく違ってますね。

何故なのか、これまた勝手に想像しました。あくまで基準は直4DOHCエンジンです。そうなるとV6のヘッドを片バンク毎DOHCにすると外側に大きく張り出してしまいます。これを嫌ったのではないでしょうか?直4DOHC並になるべく重量を中心に集めておきたい。それでなくてもV6にしたことにより重量が外に出ていってしまっているので。そうなると、カムは1バンクあたり1本!しかも中心(インテーク)側に寄せる!そしてこの形式で何が実現できればよいのかというと、あくまで半球面燃焼室とセンタープラグと2バルブクロスフロー。この結果さえ得られれば過程は問わないということだたのではないでしょうか?

そして採用されたのが、あの動弁機構だったのではないでしょうか?縦置きにした場合カムは車体の中心に寄り、外側に無駄な重量物を配置しないで、直4DOHC並の燃焼室とセンタープラグを実現するための複雑怪奇な動弁機構だった、とするとこだわりが感じられますね。(…がカムの「コストが高い」という理由もあったのでしょう。っていうかこれが最大でしょうね。夢はありませんが。)

アルファV6エンジンとは、基本を直4DOHCエンジンにしっかり据えながら、しかしまったく一から起こし形式や機構の共通点はほとんどないが得られる結果がその伝統の直4エンジンと同じ方向性をもった、そして結果的にはアルファロメオ最後のエンジンとなったエンジンだったのでしょう。

このエンジンはフィアット傘下時代の現在まで脈々と進化を続けエンジン暦(?)の約半分をFF用横置きエンジンとして生きていくという開発当初にはまったく予想だにしなかったであろう事態になりました。先見の明があったというのはいい過ぎで、たまたまとしかいいようがないのでしょうが強運の持ち主であることは確かです。
しかしこのエンジン、横に置くにはそれほど適していないと思われます。なんといっても全長が長いですね。3L対応60度バンク60度6スローV6として同じく縦置き用として開発されながらおそらく横置きも意識していたであろう日産VGの全長(プーリーからフライホイール取り付け面まで)が550mmを切っているのにたいし、アルファのエンジンは自分のクルマで適当に実測してみても550mmは越えているようです。ましてや横置き前提の90度バンクホンダC27は480mm前後ですからアルファは横置き用としては全く適していなかったのでしょう。
155V6を良く見ると、ディストリビューターがつかず、クランクアングルセンサーらしき板にプラグコードがささってます。メンテナンスフリーの意味もあるのでしょうが、全長を詰めるためデスビが置けなかったとも思えます。「全長を抑えるためのクランクアングルセンサー」なんてユーノスロードスターのような拘りでかっこよさげですが状況がまったく違いますね。あちらは「1mmでも後方に」に対しこちらはただ単に「置けない」のですから。

▲これ、所謂デスビじゃないですよね?
追記:これはコイルのようです。因みにやはり155V6にはデスビはなく、、エンジンの車体右側にアングルセンサーの役割を果たすものがあるようです。


それから、美しいインテークマニホールド。FFアルファV6のシンボルともなっていますが、これも60度という狭いバンク間で吸気の取りまわしがきついため思い切って外に出る部分も長くしてしてしまったというのが真相ではないでしょうか。国産車では共鳴チャンバーなどを用いているようですが、アルファは小細工しなかった結果かもしれません。もっとも美しくめっきしてあるため長く見えるだけで、実際はそれほど長くはないのかも・・・。

155V6のエンジンはSOHCエンジンとしては異例なほど鑑賞に堪えるエンジンだと思います。独特な動弁機構によるDOHC然としたカムカバーに筆記体でAlfa Romeo(見えないリアバンク側にもあります)。そのカムカバーにささるプラグコード(プラグコードは見えてなきゃあいけません^^;。これを隠したDOHCはちょっと…)、そして理由はどうあれ美しくそして6気筒であることを象徴するインテークマニホールド。

 ▲155V6用 2.5L SOHC 横置き

さてアルファV6はその後に登場したV6エンジンに影響を与えた、あるいはお手本となった等とよくいわれていますがどうでしょう。
60度バンクのV6という意味ではパイオニア的存在ですが、言い換えれば誰が最初にやったかだけの問題で、そういうシリンダー配置がとれることはどのメーカーにとっても既知であったでしょう。
確かに日本のメーカーのV6は、アルファの後に登場していますが、アルファV6を手本にしているようには見えません。バランスウェイトなどは、アルファがすべてのウェブに殆ど同じ大きさのものを設けているのに対し、日産VGではエンジンの両端ほど大きく中心付近は小さい配置です。トヨタの1VZも然りで、この最適(?)配置により両国産エンジンは無駄にエンジン長を伸ばさないようにしているようです(トヨタの場合FF横置きが前提なので全長を詰めることは必須条件だったのでしょう)。VGがベアリングビームを採用すれば1VZも、共鳴チャンバーも日産とマツダが…といった具合に国産同士でアルファにはなかったものをどんどん採用しあっていた感があります。そういった意味では、アルファのエンジンをお手本にしているようには思えないのですが…。

私自身155V6がはじめての6気筒エンジン車です。それまではすべて4気筒車でしたので、ほかのV6エンジンと比べてアルファV6が優れているか否かの判断はできません。しかし、その後登場した国産V6エンジンに対して、アルファが「お手本」になるほどよかったのではなく、アルファはそれらとは「違う」V6なのではないでしょうか?そんな気がします。DOHC化もしていない155用横置き2.5Lに何気なくナトリウム封入バルブを採用したりしているところなど、横一線に並びたがる(並ばないと生き残れない)国産エンジンとは別の価値観で生きていたエンジンに思えます。

その後、国際化の波に飲み込まれDOHC4弁化など最新の形態をとらざるを得なくなったアルファV6にはアルファ4気筒DOHCとの共通性もだんだん薄れていってしまったかのようです。それは技術の進歩という意味ではむしろいいことなのでしょう。ただこのV6エンジンは純血アルファが生み育て上げ(フィアットによりその生涯を終えた)4気筒DOHCの血が確かに入っていたと思いたいですね。