【第15回・学科一般 問1】

水蒸気を含む未飽和空気塊が、周囲の空気と混合せずに、また凝結することなく断熱的に上昇するとき、その空気塊の水蒸気密度、相対湿度、混合比それぞれの増減について、次の(1)〜(5)の中から正しい組み合わせを一つ選べ。

(1) 増加  増加  増加
(2) 一定  増加  一定
(3) 減少  減少  減少
(4) 一定  減少  増加
(5) 減少  増加  一定

 

解説:

一見、簡単そうに思えますが、実は空気中の水蒸気を表すいろいろな量についての正確な理解が求められています。同じ水という物質ではあるけれど、水蒸気は気体、それが凝結してできる雲粒は液体であり、両者の状態が違うのだということをしっかり区別してください。

1) 水蒸気密度

 水蒸気密度とは、下の式で示すように、単位体積(1m3とか1cm3)の空気中にどれくらいの質量の水蒸気が含まれているかを示すものです。

 問題文の「未飽和空気塊が、・・・ 凝結することなく断熱的に上昇」という記述は、水蒸気(気体)から雲粒(水、液体)の変化がおこらないということ、つまり右辺の分子の水蒸気量[kg]は上昇しても一定に保たれるということを示しています。
 一方、上空に行くほど周囲の気圧が低くなるために、水蒸気を含んでいる
空気塊の体積(右辺の分母)は膨張(=体積が増加)します。

 結局上昇によって、上式の右辺の分子は変化せず分母だけが大きくなるのですから、左辺の水蒸気密度は小さくなることになります。

∴ 減少

2) 相対湿度

 相対湿度とは下の式で示されるように、空気塊に含まれている水蒸気の密度を、そのときの温度で空気に含むことのできる最大の水蒸気密度(これを飽和水蒸気密度という)で割って100を掛けたものです。水蒸気密度 [kg/m3]の代わりに水蒸気量 [kg]で表すこともあります。

 

 例えてみると、相対湿度とはコップ(空気)の中に水(水蒸気)がどれくらいの割合入っているか(50%?、80%?、100%?)ということになります。重要なのはこのコップは温度が変わると容量(飽和水蒸気量)変わるということです。変なコップですがあくまでも例え話ですから。
 さて、温度が下がるとコップの容量は小さくなります(逆に温度が上がればコップ容量は大きくなる)。すると中の水の量は変わらなくても、コップが小さくなっていくために、コップの容量に対する水の割合は増えていくことになります。やがてコップいっぱいに水が満たされますが、このコップいっぱいに水が入っているときの状態が相対湿度100%ということになります。さらに温度を低くすると、コップの大きさ以上の水を入れておくことはできませんから、水はコップからあふれ出します。ですから相対湿度が100%よりも大きくことはありません。あふれた分の水(
空気に含みきれなくなった水蒸気)は、もはや水蒸気としては存在できず、凝結して雲粒(水滴)に変化します。 

 この問題では凝結が起きないと言っているので、コップから水があふれ出すことはありません。つまり、コップの中の水の量(水蒸気量)は変わらないのです。1) 水蒸気密度の結論として、上昇によって右辺の分子の水蒸気密度は小さくなりましたね。また、上空に行くほど気温は下がるので分母の飽和水蒸気量もやはり小さくなります。
 このように右辺の分母・分子ともに小さくなるのですが、
分子の水蒸気密度よりも分母の飽和水蒸気密度のほうが減少が大きいので、結論として左辺の相対湿度は上昇により大きくなります( この下線部については下の※印を参照)。

∴ 増加

3) 混合比

 混合比とは下の式で示されるように、水蒸気を含んでいる空気塊全体(湿潤空気)の中に含まれる水蒸気の質量と乾燥空気の質量の比はいくらであるかということを表すものです。

1) 水蒸気密度 で説明したように、上昇によって右辺分子の水蒸気の質量は変化しません。そして右辺分母の乾燥空気の質量もやはり変化しません。なぜなら、空気塊が膨らんだり縮んだりして体積が変化しても、その質量が変化するわけではないからです。つまり、分母・分子どちらも変化しないので、左辺も変化なしです。

∴ 一定

 答: (5)

 

 ※ この問題で 2) 相対湿度の増減は、上で説明したように「分子の水蒸気密度よりも分母の飽和水蒸気密度のほうが減少が大きい」ということを知っていなければ求められません。これをきちんと理解するには飽和水蒸気量の温度変化のグラフと気体の状態方程式を理解していなければならず、話がかなり難しくなります。そこでちょっと消極的な方法ですが、もし 2) の相対湿度-増加 がわからなかったとしても、1) の水蒸気密度-減少と 3) の混合比-一定 ということがわかれば、消去法により答は(5)しか残らないことがわかります。

 

 

 


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