【第4回・学科一般 問1】

 惑星が吸収する太陽放射量と射出する放射量とが釣り合う放射平衡の状態を考える。惑星表面と大気の温度(T)は一様で、ステファン・ボルツマンの法則に従い黒体放射σT4 を射出するものとして求めた地球の放射平衡温度が -18℃(255K)とすると、火星の放射平衡温度は何度か。次の(1)〜(5)のうち、最も近いものを一つ選べ。
 ただし、簡単のために地球と火星の反射率(アルベド)は等しく、地球と火星の太陽からの平均距離はそれぞれ 1.6億km、2.5億km とする。

(1)  -110℃ (163K)
(2)  -89℃ (184K)
(3)  -69℃ (204K)
(4)  -60℃ (213K)
(5)  -39℃ (234K)

  

 

解説:

 〜億km という大きな距離や T4 などというややこしそうな計算が出てきますが、最後以外は暗算で計算できるように問題は作られています。

 

太陽定数

 大気の上端(宇宙空間と大気との境目)にある面 1m2 に垂直に太陽光線があたるときのエネルギー(J)を太陽定数といい、ふつう S0 という文字で表しますが、太陽から1.5億km離れた距離にある地球では1370 [kJ/m2・s] という値になります。これは 1秒間あたり、1m2 あたりの面積に 1370KJ の光エネルギーが届くという意味です。ただし、この問題ではこの値を知らなくても解けます。

 

距離と光エネルギー

 太陽から放射された太陽光線は四方に球状に広がっていきます。遠く離れるほど同じ面積で比べたときの太陽光線のエネルギーは小さくなります。電球から遠く離れた場所ほど光が弱くなると言えばわかりやすいと思います。

 球の表面積は半径の2乗に比例します。

球の表面積 = 4πr2  ← 4×π×(半径)2

つまり距離が2倍になると表面積は4倍になりますから、逆に光エネルギーは 1/r2 だけ弱くなるということになります。単位面積あたりの光エネルギーは半径の2乗に反比例するということです。

 

 地球までの距離に来るまでに四方に“散らばった”光エネルギーをすべて集めたものと、火星までの距離に来るまでに四方に“散らばった”光エネルギーをすべて集めたものとは同じ大きさです。1m2 あたりの光エネルギー(放射強度)と球の表面積をかけたものがエネルギーの総和(散らばった光エネルギーをすべて集めたもの)となりますから次のような式がおけます。
 ここでS
0 は地球の太陽定数、S’は火星大気上端の太陽定数、r は太陽から地球までの距離1.6億km、r’は太陽から火星までの距離2.5億kmです。

 S0・(4πr2) = S’・(4πr’2)
地球の距離での    火星の距離での
光エネルギーの総和  光エネルギーの総和

S0・r2 = S’・r’2
S’/S0 = (r/r’)2   ・・・ (1)

 

放射平衡

 放射平衡が成り立つというのは、惑星に入射する太陽からの光エネルギーと惑星から出ていく赤外線のエネルギーが同じということですから、この両者が等しいという式をたてます。

地球: S0 = σ・2554   ← I = σT4 (ステファン・ボルツマンの法則)
火星: S = σ・T4

この2式より、

S’/S0 = T4/2554   ・・・ (2)

 

(1)、(2)式をまナ

(T/255)4 = (r/r’)2

T4 = 2554 × (1.6億km/2.5億km)2

T4 = 2554 × (1.6×108 km/2.5×108 km)2   ← 1.6億km(= 160,000,000 km) は       
                         指数で表すと、1.6×10
8 km

T2 = 2552 × (16×107 km/25×107 km)    ← 平方根をとる(=√ する)ことをふま
                         え、
暗算で平方根を求められる 16
                         や 25 にするために指数の桁をずらし
                         た(∵ 1.6×10
8 = 16×107 km)。                         

T = 255 × √(16/25)   ← 107は分母・分子で互いに打ち消される。

T = 255 × 4/5

  = 204 [K]

 

 

 答:(3)   

 

  


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