【第3回・学科一般 問3】東西に走る山脈の南側から昇り始めた気塊が山脈の最高点(高度1600m、気圧855hPa)に達したとき、その温度は8℃、湿度は100%であり雲粒は存在していないとする。表に示した飽和水蒸気圧の温度依存性を利用して、この気塊が北側の平地(高度0m、気圧1013hPa)まで降りてきたときの相対湿度として最も近い値を、次の(1)〜(5)中から一つ選べ。
ただし、大気の乾燥断熱減率は10℃/km とし、水蒸気の混合比 w は近似的に水蒸気の分圧 e と空気圧 p により w = 0.622e/p で与えられるものとする。(1) 50% (2) 40% (3) 30% (4) 20% (5) 10%
表:水の飽和蒸気圧の温度依存性
温度(℃) 飽和蒸気圧(hPa)
30 42.45 28 37.81 26 33.62 24 29.84 22 26.44 20 23.38 18 20.64 16 18.18 14 15.98 12 14.02 10 12.27 8 10.72 6 9.35 4 8.13 2 7.05 0 6.11
[国立天文台編:理科年表平成6年(1994)版(丸善)により作成]
解説:
山越えの途中で雨を降らせた空気塊が平地に降りてきたときに何℃になるかという問題はよく出題されています。この問題では温度ではなく湿度を求めなければなりませんが、そのためには乾燥断熱減率、混合比、飽和水蒸気圧、湿度など空気塊や水蒸気に関する知識を総動員して考えなければ解くことはできません。かなり難易度の高い問題です。
この問題では「飽和蒸気圧」と言っていますが、「飽和水蒸気圧」とも言います。
問題を解いていく順番
問題を解いていく上で重要なのは「何を求めるのか」をはっきり意識することです。そのために、わかっていること、わかっていないことを表にまとめてみます。
ふつうの問題は2,3回計算すれば答がでてくる程度のものが多いのですが、この問題は表に示すように(1)〜(6)の順に求めていってやっと湿度が求められます。この表を見ながら計算をしていってもけっこう手間がかかるのに、実際の試験では、限られた時間の中でこの表に示したような解法の方針を考え、解いていかなければなりません。おまけに与えられた数値も細かいので計算に時間がかかり、へたをすればこれを解くだけで試験時間の大部分を使ってしまいます。
山頂 平地 高度(m)
1600 m 0 m 気圧(hPa)
855 hPa 1013 hPa 温度(℃)
8 ℃ t (4) 湿度(%)
100 % x (6) 飽和蒸気圧(hPa)
p1 (1) p2 (5) 現在の蒸気圧(hPa)
飽和蒸気圧 p1 と同じ e (3)
混合比
w (2) w (2)
山頂の計算
表から、8℃における飽和蒸気圧 p1 を読みとります。
p1 = 10.72 hPa ・・・ (1)
次にこの飽和蒸気圧と問題文中で示されている山頂の気圧を用いて、問題文中の式 w = 0.622e/p から混合比 w を計算します。
w = 0.622 × (10.72/855)
= 0.007799 ・・・ (2) ← 実際にはここまで細かく計算しなくても大丈夫
平地の計算
降雨によって水分が失われない限り(乾燥断熱変化)、気圧や温度の変化によって混合比は変化しません。つまりこの問題の場合、山頂での混合比と平地での混合比は同じ値です。
この混合比の値と平地の気圧の値を用い、再び w = 0.622e/p の式を計算して、今度は平地における水蒸気圧 e の値を求めます。
w = 0.622e/p
e = pw/0.622 ← e = の形に式を変形した
= (1013×0.007799)/ 0.622
= 12.70 hPa ・・・ (3)
これでやっと平地における湿度を求めます。湿度の式は次の式で表されます。
この式の分子、現在の水蒸気圧には上で求めた(3)の値が入ります。一方、分母に入る飽和水蒸気圧は次のようにして求めます。
山頂から平地まで1600m(=1.6km)降下するのですが、乾燥断熱減率は 10℃/km (1km降下すると温度は10℃変化するという意味)ですから、平地に到達したときの温度 t は、
t = 8 + (10 × 1.6) ← もちろん数式的には( )は不要です
t = 24℃ ・・・ (4)
表から、この24℃における飽和蒸気圧 p2 を読みとります。
p2 = 29.84 hPa ・・・ (5)
この値(5)を相対湿度の式に入れて計算すると、
x = (12.70/29.84)×100
= 42.6 % ・・・ (6)、最終的な答
これに最も近い選択肢は(2)の40%ですから、
答:(2)
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