「…一体、この豪華な食事をまともに食べている人間がどの位いるのかしら…」
「ま‥‥1割はいねェだろうなー‥‥いいんじゃねェの?年に一度の無礼講だ」
和室の大宴会場を貸し切って総勢数十名の夕食は、既に傍若無人・無礼講な宴会へと
様変わりしていた。
それを隅の方で冷静に観察しているのは、経理課のナミと企画室のウソップである。
「少なくともルフィは自分の分以上のモノを既に食べ尽くしているわね」
その2〜3席隣では庶務課のルフィがもの凄い勢いで料理を消化していた。
「ビビもこっちいらっしゃいよ。秘書課だからって酔っぱらいオヤジの相手することないわ」
「あ‥‥ナミさん‥‥」
通り掛かりに声を掛けられ、秘書課のビビがホッとしたような表情でナミの横へ腰掛ける。
「ああいうのはロビンに任せておけばいいのよ」
「ええ‥‥ホント、ロビンさんって重役のあしらい方がお上手ですよね。私も見習わないと」
「いや‥それは辞めた方がいいぞ‥‥」
ビビにビールを勧めながらウソップがチラッと斜め後ろのテーブルへ目を遣ると、
そこには大のオトコ二人による差しつ差されつな姿が。
「ところで、あの犬猿コンビは何してるんだ?」
「あ、あれ?」
ウソップに尋ねられてナミも視線を向けた先には、ゾロとサンジが並んで座り、
グラスを手に何やら怪しげな雰囲気を撒き散らしていた。
「例によって売り言葉に買い言葉で呑み比べをしているらしいわ。勝負は見えているのにネ」
「サンジが弱い上にゾロがウワバミだもんなー‥‥」
ウソップが改めてサンジへ同情の目を向けようとした瞬間、隣の空いている座布団に
その金髪頭が勢い良く倒れ込んできた。
「ぅおわっ?!」
勢いでサンジが手にしていたグラスのビールがウソップにかかるが、
文句を言いたい相手は既に意識がない。
「アラ、思ったより早かったわね。ゾロ、責任持って介抱しなさいよ」
「‥‥分かってるよ」
顔色はおろか、表情すらも変わっていないゾロは、そのままサンジを担ぎ上げて
宴会場の一番後ろからコッソリと抜け出していった。
(コイツ‥‥気は強ェクセに酒は弱いよな‥‥)
何の因果関係もない部分で感心しながら、肩越しでスースーと寝息を立てているサンジを
チラッと見る。
実は今回の呑み比べはゾロから仕掛けたものであった。
と言っても『お前、酒弱いもんな』の一言でも浴びせればすぐに乗ってくる事は
分かり切っていた確信犯である。
『寡黙で凛々しい』はずだったゾロは、『一緒に入浴+風呂上がりの色気』に
すっかりあてられ、犯罪者目前だった。
割り当てられた部屋に戻り、サンジを乱暴にベッドへ転がすが、
一向に目を覚ます気配はない。
(よく寝てやがる‥‥)
無防備に手足を投げ出して横たわるサンジのシャツにゾロの手が伸びていく。
風呂上がりは浴衣姿でくつろいでいたものの、『こんな姿でレディ達の前に出られるか!』と
食事前にコットンシャツとズボンへ着替えていた。
(浴衣だったら楽だったんだが‥‥)
シャツのボタンを一つづつ外しながら徐々に現れてくるサンジの肌に、
ゾロは無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。
風呂場で感じていたモノが、確実に劣情へと流れていくのが分かる。
ボタンが全て外され、前を思い切り開いて上半身を顕わにすると、
ゾロは少しだけ身体を離した。
(俺は‥‥このカラダに何をしようとしている…?一体何をして、何を充たそうとして
いるんだ?)
振り出しに戻るような自問自答が僅かな躊躇を呼んだが、
その時を見計らったようにサンジの頭が動いた。
「‥う‥‥ん‥‥‥」
「―――――っ!」
ゾロの正面に向けられた顔は、少しだけ開かれた唇がいかにもゾロを誘っているように見える。
そう思った瞬間、ゾロはギュッと目を閉じてサンジの身体に覆い被さっていた。
(石鹸の匂い‥‥)
耳の後ろに鼻先を潜り込ませて深く息を吸うと、風呂場にあったボディーソープの香りの後で
サンジの匂いを感じた。
(コレに欲情しちまうなんて‥‥末期症状だな)
ククッと自嘲の笑みを零すと、唇で頬をなぞりながらまだ眠っている顔を覗き込む。
(絶対、女の代わりになんかなれねェような野郎のツラ‥‥理由なんか分からねェが‥
コレに惚れちまったんだよな‥‥)
薄く開いた唇に合わせるように自分のそれを重ね、まるで相手に吸い込まれるように
舌を差し入れる。
大人しく納まっているサンジの舌を軽く舐め取ってから歯列をゆっくりとなぞっていった。
(ん‥‥あぁ‥‥‥‥キモチイイ‥‥これ‥って‥‥キス‥‥‥?)
朦朧とした意識の中で、サンジは与えられる快感を味わっていた。
(誰だろう‥‥凄ェ、テクニシャン‥‥‥しかも情熱的‥‥ナミさんか‥?ビビちゃん‥?
それとも‥‥)
あくまでも自分に都合の良い想像しか浮かばないのだが、酔いの所為でフワフワとした腕を
相手の頭に伸ばして感触を確かめる。
(あー‥‥コレは触り覚えがある‥‥確か‥‥‥この‥マリモ頭はァ‥‥‥)
掌で頭を撫でるように抱き込むと、相手の舌が更に奥へと侵入してきた。
(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゾロだ)
瞬間、パチッと瞼を開くと、焦点も合わない程近くにその人物の顔がある。
サンジは慌てて意識的に目を閉じた。
(いや、ちょっと待て‥‥‥‥‥‥コレは夢だ‥!俺は今、夢見てんだから
目は開けちゃいけねェ。大体キスってのは目を閉じてスルもの‥‥って、
そうじゃなくて‥‥!!)
急速に頭がハッキリとしてきたのだが、本来引き剥がそうとゾロの肩を掴むはずの両腕は、
何故かその肩を通り越して背中でクロスしてしまっていた。
サンジ自身もどうしてそうなってしまったのか理解できず、取り敢えず腕に力を込めて
締め付けてみることにした。
途端に苦しさを感じたのか、ゾロの顔が離れていく。
「‥‥なんだ、もう目ェ覚ましたのかよ」
相手の冷静な物言いが、逆にサンジの頭に血を上らせる。
「てめっ‥‥!!一体何がしてェんだよっ?!」
そう問いかける割に、ゾロの背中に腕を回したままの自分自身もなにをしたいのか
分かっていない。
すると眉間に皺を寄せるが、怒ったときとは違う、どちらかというと『切ない』という
感情に属するような表情を見せた。
「‥‥‥!」
サンジがハッと息を呑み口を閉じたのと同時に、ゾロの唇が音を発する為に開かれる。
「好きだ‥‥‥お前を‥抱きてェ‥‥」
それだけ言うのが精一杯と言うように、サンジの首筋へ顔を埋めて語尾を濁らせた。
(す‥‥スキ‥??隙‥?鍬‥?‥‥って、俺が‥‥鋤?‥じゃねェよ)
一瞬パニックの回避行動によりどうでも良いコトを思い浮かべてしまったサンジは、
フルフルと軽く頭を振った。
頬の辺りに、見掛けよりも軟らかいゾロの短く刈られた髪が触れている。
「お前‥‥‥」
ゾロの背中に回していた手を今度こそ両肩に乗せ、ゆっくりとその身体を離した。
「そんな口説き文句じゃ‥‥レディはオトせないぜ‥‥」
ニヤッと、いつものように口角を上げるが、薄明かりの中でも充分分かってしまう程に
赤面しているのがサンジ自身にも分かっていた。
それでもゾロは真剣な表情のままでそっと掌をサンジの頬に這わせる。
「お前は‥‥?」
「え‥‥」
「お前なら‥‥コレでオちるか?」
疑問を発した口元は、いつか見た軟らかい笑みを形取っている。
それを見せられた瞬間、周りの景色だけでなく、靄ついていた感情までもが
飛び散っていくような気がした。
「‥‥‥あぁ‥‥‥‥‥オトされちまった‥‥‥‥」
嫌味でも揶揄でもない、素直に驚いた表情を見せて、肩に置いていた手を再び背中に回す。
「なら、いい」
それにつられるように、ゾロの唇がゆっくりと降りてくる。
「お前だけオトせりゃ‥‥いい」
目を閉じてそれを受け止め、今度は自らも舌を絡めて芯から熱くなるキスを交わした。
(信じらんねェ‥‥)
外気に当たって冷め始めた肌に這わせる掌。
何の障害もなく、スルスルと思い通りの軌跡を描く。
眼下には息苦しそうなサンジの横顔。
赤く染まった目元と潤んだ瞳は、やり場のない熱を持て余していると
はっきりゾロに伝えていた。
(コイツの‥こんなツラ‥‥)
その表情にゾロの視線は釘付けになり、気が付くと手の動きが止まってしまい、
不審そうな目を向けられて我に返るという事を繰り返す。
「ゾロ‥‥‥?」
不安そうに呼び掛ける声は、普段罵声を浴びせられる口と同じ所から出ているとは
到底思えない程に、掠れていて色っぽい。
「お前が‥ンなツラするとは思わなかった‥‥恐ェか‥‥?」
低いけれども穏やかな問い掛けは、自分でも信じられない程に優しい声色だった。
サンジはそれに小さくコクンと頷くと、ばつが悪そうに口元を歪ませる。
そしてゾロは、まるでそれを治そうとするかのように、指先でそっとサンジの唇を辿った。
「実は‥俺もだ。女となら慣れた行為も‥‥相手がお前となると恐ェ気がする。
男が初めてってのもあるが‥‥‥そんなツラ見せられたら‥‥壊しちまいそうだ‥‥」
「‥‥‥!」
普段から口数が少なく、ベッドの中ともなれば殆ど喋った記憶のない自分にしては
随分多弁だ―――――我ながら感心しながら、無防備なサンジの表情にどうしても
頬が緩んでしまう。
「な‥ァんだ‥‥俺だけじゃねェんだ‥‥恐ェの‥」
「‥‥ん?」
「俺、さっきから凄ェ恐くてさ‥‥ホラ」
差し出された手はゾロの頬に添えられ、そこから微かな震えが伝わってきた。
「なんっ‥か、芯から震えがきちまって‥止まんねェの‥‥情けねェよなァ」
「それは‥‥お前が俺に、惚れてるからだ」
「なんだ‥‥そりゃ‥」
添えられた手に頬をつねられる。
不機嫌そうな言葉とは裏腹に口元は緩やかな微笑みが浮かべられていて。
「ンな理屈、聞いたコトねェよ」
今度は両手で頬を挟まれて、ゆっくりと引き寄せられる。
「でも‥‥当たってんな‥」
再度唇を重ねられ―――――深く長いキスに興じながら、ゾロはゆっくりと右手を
サンジの下肢へと伸ばした。
「息、詰めるなよ‥」
「んっ‥‥‥」
ゾロに言われて、慌てて息を吐く。
無意識のうちに呼吸を止めていた。
新鮮な空気を肺に取り込んだと同時に、下半身に異物感が広がる。
「う‥‥ンむ‥‥‥」
「痛ェか‥‥?」
痛くないと言えば嘘になるが、この程度で弱音を吐きたくないという意地から、
首を横に振って答える。
ゾロの指によって解されようとしている後孔は、サンジの意思と反してなかなかに
強情なようだ。
その内に『この程度で音を上げてたまるか!』と、何だか喧嘩腰な感情が
サンジの中に生まれていた。
そのお陰で余計に力が入り、ゾロを困らせているとも気付かずに。
「‥しょうがねェな‥‥」
溜め息混じりにゾロが呟くと、入りかけていた指が抜かれた。
「‥ひっ‥‥!!」
その感触すら、サンジの身体に緊張を走らせる。
が、すぐに抱き寄せられてゾロの胸にピタリとつけられた自分の胸に、
言い様のない暖かい安心感が広がった。
「おい、ココ」
後頭部を押さえられ、ゾロの肩へと顔を付けられる。
「どうしようもなければ、ココ、噛んでろ」
「え‥‥?」
「但し、息するの、忘れんなよ」
耳元でボソリと告げられ、ついでに耳朶にキスを貰い、サンジは言われるままに
ゾロの肩へ唇をつけた。
(ちょっと‥‥汗臭ェ‥‥)
しかしそれには不思議な程に嫌悪を感じることなく、さっきよりは幾分すんなりと
ゾロを受け入れることが出来るような気がした。
「‥ぅん‥‥っ‥‥」
溜まらず洩らしてしまった声に反応したのか、密着した腰の部分がピクリと動いたように
感じる。
それが嬉しくありつつも、やはり恥ずかしい気持ちが勝ってしまって、そのまま口を閉じた。
が、次の瞬間、後孔に更に大きな異物が侵入して溜まらずゾロの肩に歯を立てた。
「‥‥!!」
ゆっくりとした動きではあるのだが、増やされた指に痛みが伴う。
ゾロの指は風呂場にあったボディソープで潤されているとはいえ、
初めて男を受け入れようとする行為にどうしても緊張が解けなかった。
(やっぱ、恐ェよォ‥‥)
ギュゥ…っと目を閉じると、同じように肩を噛む方にも力が入ってしまう。
そうやって痛みと恐怖をやり過ごそうとしていると、突然頬に温かみを感じた。
「‥‥?」
ハッとして目を開けると当時に、それがゾロのキスによるものだと知る。
「ムリ‥すんな‥‥どうしてもダメなら、止めるから」
それはやはりどうしようもなくサンジをときめかせてしまう優しい笑顔で。
思わず目を逸らした先に、自分が噛み痕を付けたゾロの肩があった。
僅かではあるが、血が滲んでいる。
「‥‥‥」
サンジはそこへそっと顔を寄せて、舌先で血を舐め取った。
「‥‥っ!!」
その途端にゾロが全身で反応を示す。
「お前‥!ンなコトしたら‥‥!!」
「いいぜ‥‥かかってこいよ」
鉄の味が残る舌先で、今度はゾロの頬をペロッと舐める。
それはささやかなサンジからの宣戦布告。
しかしやっとの思いで浮かべた挑戦的な笑みも、微妙に潤んでいて迫力に欠ける。
「お前‥‥中途半端に色気ねェなァ‥」
「‥ンだよ‥‥レディみたいにもっと色っぽくしろってか‥?」
表に出ている片眉を吊り上げて見せるが、ゾロはクッと軽く笑みを零しただけで
サンジに覆い被さり、ベッドへとその身体を沈み込ませた。
「いや‥‥もォ充分‥‥」
その時、サンジが下半身に感じていたゾロの熱は、これまでで最高であったように思えた。
サンジの身体を俯せにさせ、その上にのし掛かるように自分の身体を重ねる。
潤滑油代わりに使ったボディーソープや、サンジ自身から溢れ出す液体が
シーツを汚しているが、そんなことまで気にしている余裕など既にない。
男との行為が、今までしてきたどんな女とのセックスよりも困難であるということは
容易に想像が付く。
それでもゾロは、サンジという男を手に入れたかった。
「ふ‥‥っく‥‥!‥‥っあ‥ぁ‥‥!!」
サンジの身体にかかる負担は大変なモノであろうとは分かっているが、実は自分もかなり辛い。
サンジが欲しくて堪らないと自己主張を憚らないゾロ自身の暴走を食い止めることと、
サンジからの半端ではない締め付けに必死に堪えているのだ。
この苦痛は、ハッキリ言って女性との比ではなかった。
「ぃ‥‥ぅう‥‥‥‥ゾ‥ロ‥‥っ!」
それなのに、腰を押し進める度に繋がった箇所から発せられる淫猥な音や、
自分の名前を紡ぐ掠れた上に艶めいた声を聞くだけで、痛みも苦しみも飛び越えてしまう。
今のゾロには、露天風呂で欲情しそうになったサンジの白い尻と、
そこへやっとカリまで納めた自身しか見えていない―――というよりは、
どうしてもそこばかりを凝視してしまっていた。
それではいけないと、視線をサンジの背中に這わせて上げていくと、
その先では小さな金髪頭がフルフルと震えている。
(‥俺の辛さなんか‥‥比じゃねェよな‥)
フッと軽く息を付くと、腰を支えていた手を片方だけサンジの下肢へと伸ばす。
弱々しくではあるが、頭をもたげていたそこを軽く握ると、サンジの背中がビクリと跳ね、
少しだけゾロを受け入れるような収縮をしたように感じた。
その気持ちよさに腰を押し付けたくなるのをグッと堪え、
手の中にあるサンジ自身をゆるゆると愛撫した。
「あ‥‥ぁっ‥‥!」
声だけでなく、溢れ出す雫がその快感を伝え、サンジの身体を少しずつ解していく。
ゾロは手の中にサンジの昂まりを感じると、再び腰を進めてサンジの中へと埋めていった。
「あっ‥‥!!っく‥‥ぅん‥‥」
苦しみだけだった声色は、段々と艶を持ち始める。
全てを呑み込んだサンジの中で、ゾロはまた一回り成長し、
深いところで小さな抽送を繰り返す。
「すげ‥‥イイ‥‥‥」
「ぁ‥あぁ‥‥‥でも‥‥俺‥‥‥」
首を捻ってゾロの方を向こうとするが、力がまともに入らない上に前髪に邪魔をされ、
その表情は伺えない。
しかしその首筋に、先刻舐め取られた自分のそこが重なり、
徐々に律動は激しさを増していった。
ガクガクと全身を揺すられて、シーツを握り締める指先が白くなるほどにサンジは
ゾロを受け入れる行為に必死である。
「あっ‥!!」
一際大きな声が発せられたと同時に、ゾロの手の中のサンジが弾ける。
それを受け止めながらゾロも自分の限界を知り、サンジの一番深いところで思いの丈を遂げた。
全てを出し切った後の余韻に暫し浸った後、ズルリと結合を解いて相手の顔を覗き込むと、
瞼を閉じたまま、力無くその場に横たわるだけのサンジがいた。
(やべェ‥‥やりすぎたか‥?)
そのまま意識を飛ばしてしまったサンジの前髪を掻き上げて、額にキスを落とす。
それまで何かというと突っ掛かってきてケンカばかりしてきた男が、
こんなにも儚く、可愛く見えるようになるとは思いもしなかった。
サンジを起こさないように湿らせたタオルで軽く身体を清めて布団を掛けると、
ベッドサイドに置かれていた彼のタバコを一本取り出して火を点ける。
サンジ好みのヘヴィな煙で一度だけ肺を充たし、そのまま灰皿で揉み消すと、
自分も布団へと潜り込んだ。
ダブルベッドとはいえ、それなりに良い体付きの男二人が寝ると狭いものである。
しかし、今のゾロにはその窮屈さが、また嬉しくもあった。
明日、隣で目を覚ましたコイツの第一声は何だろう。
そんな事を考えながら目を閉じ、寝息が二人分になるまでそれ程時間はかからないはずである。
社内で噂の犬猿コンビにとって短くも充実した社員旅行終了後、
一部の女子社員によって結局男二人がダブルルームで一夜を過ごしたという事実が、
新たな噂として社内を駆け巡っていたことなど、
当の二人が知る由もなかった――――――――――
The
END.
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