rouge・許容範囲
真っ暗な闇の中に、この身が堕ちて行く。
否。
そう錯覚しているにすぎない。
次の瞬間には、一面のあか。
赤。朱。紅。アカ。
どれも違うような気がする。
命を司る、あか。神聖なる、人間の、あか。
けれどもその匂いは吐き気を催す程の・・・・
匂いの所為でないことは分かっている。
これは自分が犯した罪への自責であり・・・・・罪?
独りで海へ出てから、生きていく為に他の命を奪う事は珍しくなかった。
それが悪い事だとも思わなかった。
そう。
生きていく為だ。俺がやらなければ、自分がやられる。野望の為にもそれは赦されない。
だから
俺は
闘いの後にクる、この異常ともいえる興奮をただの生理現象として捌いてきたんだ。
(俺は・・・・・何か間違っていたのか・・・?)
自分の下で絞り出すような呻き声と、時折歯軋りが聞こえてくる。
その表情を見れば、表しているのは苦痛以外の何物でもなく。
自分だってそんな顔を見たいわけではない。しかしこの時ばかりは本能としか言いようのないこの衝動を止められない。
意識を飛ばして身体だけが何かに操られて勝手に動いているような感覚。
何処にあるのかも分からない自分の正常な意識が、最も大事なものを壊してしまうと警鐘を鳴らしているのに、それが
この身体に届くことはない。
無意識に。
だが快感だけはもの凄く近くに感じる。
最後の一繋ぎを見失わないように、ひたすらそれに縋り付く。
こんな事が赦されるのだろうか。
少なくとも、自分の下できつく目を閉じている男は赦さないだろう。
リトルガーデンでの闘いを終え、一行はアラバスタへと進路を急いだ。
船に戻ってみればサンジ以外は満身創痍で。
あまりにも魅惑的なナミの姿は、火あぶりに近い脱出方法の成せる業だと後で訊いた。
そして、同じ方法で捕らえられていたゾロは、その前に両足を斬って脱出を試みるという、おおよそ人道からかけ離れた
アイデアを敢行しかけたらしい。
そして、その傷だ。
例によってぞんざいに自分で縫合していた。
きちんと消毒しなければ化膿して治りが遅くなるだとか、きちんと縫わないとみっともない痕が残るだとかいう観念は一切
持ち合わせていないらしい。医学に明るい者でなくとも、縫合したての傷口は目を覆いたくなる程の出来映えだった。
「何を考えてんだ、てめェは。」
不意に頭の上から声が聞こえる。聞き慣れたコックの声だ。表情を見なくてもその声色で少なからず怒っているのが分かる。
メインマストにもたれ掛かって酒を煽っていたゾロを見付けて、サンジはラウンジから出て、そのまま中央の甲板に
飛び降りた。
「今夜は酒は飲むなと言っただろ?血ィ、吹き出すぞ。」
「・・・俺の身体だ。ほっとけ。」
カチン、ではなく、いきなりブチッとサンジの中で何かが切れた音を聞いたような気がした。
サンジは酒瓶をゾロの手からひったくると、その前に膝立ちで迫り、肩を押さえてマストにゾロの身体を押し付けた。
「出来るならそうしてるぜ!とっくにな!!無駄に心配かけんじゃねェよ!それにっ・・・・・俺に、こんな殊勝な台詞、
吐かせんじゃねェ・・・・!」
肩に当てられた手は小刻みに震えているが、正面で俯いている顔は表情が見えない。しかし、それを見せないということは、
少なくとも自分では見せたくない表情をしているということなのだろう。
まだ完全に乾いてもいない足の傷がズキリと痛む。
そしてそれが、何かに乗って心臓へと振動を伝える。
鼓動が早まり、視界が暗く霞んでいく。
そして次に視界を充たすものは・・・あかだった。
「お前・・・また・・・・っ」
サンジの声で、僅かながら自分を取り戻した。
痛みに反応し、傷に添えていた手は、包帯の上まで染み出してきた血で真っ赤に染まっている。
無意識にそれを見つめていた。
そして、また目の前が闇に霞んでいくのを恐れるように、自ら目を閉じ、心配そうに覗き込んでいた目の前の男に口付ける。
「喰らい付く」といったほうが正しいかもしれない。
血に染まった手で頬を押さえ、逃げられないように反対の手で後頭部をきつく引き寄せる。
完全に相手の唇を覆い、その隙間から無理矢理舌を侵入させ、自分本位に犯していく。
時折聞こえる苦しそうな鼻声が、遠ざかっていく意識を引き戻しそうになるが、薄く目を開けて自分の血に染まった頬を
みれば、再び無茶苦茶にしたいという衝動が湧き起こってくるのだ。
ゾロは時々、闘いの後に残る異常な興奮を持て余していた。敵が強ければそれだけ身体も熱くなっていく。
それはサンジも同じように感じているらしく、二人が肉体関係を持つようになってからは、その後、必ずと言っていいほど
獣じみた激しいセックスをした。その熱を共有しあい、最後には穏やかに日常を取り戻せるというものなのだが。
今回は少し事情が違う。
サンジは仲間の危機に立ち会えなかった事を悔いている。
それを慰めるどころか、自分は何をしようとしているのか。
もはや自制の効かない意識の中で人間らしい部分が残っているとしたら、それはサンジを担ぎ上げ、格納庫へ連れ込んだと
いうことだけかもしれない。
「あっ・・・!」
シャツの上から辺りを着けて舌先で乳首を探し出す。
最初は僅かな膨らみだったそこが、執拗に舌先を往復させるうちにツンとシャツの上からでも分かるほどに勃ち上がった。
ジットリと濡れたシャツが貼り付く小さな豆を舌全体で転がす。
その度にサンジの口からは小さく息を詰めた声が洩れだした。
片手は頭上のキャプスタンに巻かれている錨綱を握り、もう片方の手はゾロの髪に滑り込ませ、受け入れているのか
拒否しているのか分からない微妙なバランスでそれを支えている。
いつもなら煽られるサンジの嬌声も、今は意味がなかった。
ただ自分の熱を解放することにしか頭が回らない。何より大事であるはずのこの身体にも、施すのは愛撫ではなく、
ひたすらに激しさを保ち続ける自分の衝動だった。
胸に舌を這わせながら、脇に置かれていた和道一文字に手を伸ばし、スラリと鞘から抜き去る。
唇を首筋に移動させ、白い喉元に刻印を残すようにきつく吸いながら、刀を逆手に持ち、ベルトごとスラックスの前を
スパッと切り裂いた。
「・・・!!」
僅かにサンジの身体が身じろぐ。
いつもなら、ゾロのこんな理不尽を黙って赦すサンジではない。しかし、今日は身体を硬直させたまま、大人しくその行為を
受け入れた。受け入れた訳ではないのかもしれないが、少なくとも抗議の意志は見せていない。
ゾロはそのまま下着と一緒にスラックスを剥ぎ取った。
自分の傷付いたそれとは比べ物にならないほど、白く綺麗な両足を掴み上げ、身体を二つに折り曲げるように持ち上げる。
それくらいで苦痛を訴えるサンジではないが、ゾロの眼前にその男を受け入れる部分があられもなく晒されているという
ことを自覚し、抗議とも抵抗とも取れない小さな声を発した。
しかしゾロがそれに一々応じることはなく、双丘を両手で押し広げながら、尖らせた舌を奥まった蕾へと強引に差し入れる。
「ひっ・・う・・・・んっ・・!」
入り込んだ舌が内壁や、尚もキュッと締まって何者の侵入も拒むような蕾を刺激するたびに、サンジの背中は跳ね、
鼻に掛かった高い声が溢れ出す。
ゾロは一度身体を起こし、左腕に巻かれているバンダナを解いて、それでサンジの口を塞いだ。
いつもならこんな事はしない。必要ない。
だが今は。
これまでの充分酷いといえる扱いを素直に受け入れているサンジの喘ぎ声など聞いてしまったら、この異常な熱は愛情へと
変わり、その身体を優しく抱くことで収まっていくだろう。
それで問題はないはずなのに。それならサンジを傷付けることもないというのに。
今の自分には、その道順がどうしても許せなかった。
どうしてこの男を傷付けたいなどと思うのだろう。そんな事は望んでいないはずだ。
なのに、闘いの時に呼び覚まされる自分の暴力性が、未だに萎えることなく胸の中に巣喰っている。
いっそのこと殺人的な蹴り技でそれを追い出してくれと願う気持ちもあった。
しかし、サンジは決して抵抗しようと言う意志を見せることはなかったのだ。
ゾロの唾液が尻を伝い、ポタリと床へ落ちる頃、ズボンの前だけを外し、自分のものを取り出した。
これまでの興奮の度合いに比例するように、激しく天を仰ぎそそり勃っている。
それをまだ充分に解されていない穴へと宛い、勢いを着けて強引にねじ込んだ。
「ふっ・・!!んん〜〜〜!!!」
バンダナで塞がれた口から一際大きな、悲鳴に近い声が発せられた。
挿入をされている部分は、ゾロが腰を進めるたびにメリッと肌の軋むイヤな音が聞こえる。
受け入れる準備をされていない所為で、その音が示す通りに激しい痛みを伴う湿り気が皮肉にもゾロの侵入を助けている。
サンジは涙をポロポロと零しながら、自由であるはずの両手をキャプスタンを挟み込むように両側から掴み、口元の封印を
解こうともせず、暴力とも言えてしまうような行為を甘んじて受けていた。
既にゾロの頭の中は、あのイヤな「あか」で充満している。
サンジの頬を見ても、サンジと自分の結合部分を見ても、それと同じ「あか」が飛び込んでくる。
バンダナを解き、その唇にキスを落として優しく舌を絡ませれば、それだけで快楽も安堵も簡単に与えられるというのに。
今は只、グチュグチュという卑猥な響きと、その残酷な色しか頭に入ってこなかった。
ひたすらに突き上げ、快感を得ようとする。
サンジ自身は力無く萎え、それでもお構いなしに抽送を繰り返していた。
思うように発散できない声は掠れ、もう涙も出し尽くしてしまったというように、両目はギュッと閉じられてゾロを見る
ことはない。
(もう・・・終わらせちまえ・・・)
何に対してか、ゾロがそう思った刹那、サンジの一番深いところでゾロの精が放たれた。
二度三度、痙攣するように腰をグッと押し付けた後、ズルリとその身を引き抜く。
ドロリと流れ出た精液は、あまりにも多い出血で濃いピンク色に染まっていた。
全身を細かく震えさせていたサンジは、抜き去られた感覚を味わった直後、それまでギュッとキャプスタンを握っていた
両手を離して、ダラリと自分の身体の両側に放り出した。
相変わらず口はバンダナで覆われていたが、上下する肩が呼吸の激しさを物語っている。
ゾロは大きく一つ息を吐いた後、静かに手を伸ばしてサンジのバンダナを解いた。
そしてその手で脇に放り出してあった刀の柄を握り、真っ赤に染まった包帯の片方に刃を当てた。
そして、
どしんっ!
重量感のある音が格納庫に響く。
「てっめ・・・いい加減にしろよ!!この、クソミドリ石頭!!!」
痛む身体でサンジがゾロを突き飛ばし、尻餅をつかせた。
それまでゾロの下で大人しく犯されていたのが嘘のように、怒りに目を吊り上げ、罵倒を始める。
「何のために俺が大人しく犯られてたと思ってやがんだっ!!これ以上てめェ傷付けるなんて、ふざけんじゃねェぞ!
こんちくしょう!!!アレで収まんねェようなら、最初っから犯るんじゃねェ!クソッタレ!!!」
「・・・・・・」
既に毒気を抜かれたように、尻餅をついたまま呆然とサンジを見つめるゾロ。
捲し立てても何も返そうとはしないゾロを見て、サンジはフッと表情を緩めた。
「俺ァよ、今回役立たずの最低野郎だった・・・お前との狩り勝負に夢中になって、仲間のピンチにも気付けなかったんだ。
だから余計にお前の・・・その・・・俺を犯りてェって・・・気持ちは分かるし、俺もそれで構わないと思った。」
僅かに痛そうな笑顔をゾロに近付け、両腕をその首に回した。
「けどな、それでもまだお前が納得いかなくて、お前自身を傷付けるってんなら・・・それは、俺の許容範囲外だ。
遠慮なくぶち壊すぜ?」
ニッと口角を上げた後、ゾロの反応を待たずに唇を重ねる。互いにより深く交えるように角度を着け、舌を絡ませた。
さっきは感じなかった、心地よい体温と湿り気を帯びた感触。
逃すまいと深く貪りながら、ゾロは両腕をサンジの背中に回し、子供を宥めるような優しい仕草で上下に何度も撫でた。
サンジもそれに応えるように、ゾロの髪を静かに梳いていく。
「・・・・・俺・・・」
額同士をくっつけたまま、ばつが悪そうにゾロが呟くと、今度はその唇に啄むようなキスが落とされた。
「悪ィと思ってんなら・・・・」
続く言葉は耳にも心地よい程に、優しい。
「もっかい抱いて・・・んで、イカせろ。それでチャラにしてやる・・・」
ニーっと笑った顔は、今度はサンジの持つ少年性が愛おしい程に溢れ出していて。
未だ頬に残っていた「あか」をゆっくりと舌全体で舐め取り、その味を喉の奥に流し込んでから、自ら口付けを与える。
同じ「あか」は目の前にあったのに、少し前とは比べ物にならない程に、暖かく、気持ちいい。
汚してしまったサンジの身体をタオルで余すところなく清め、初めから想いを注ぎ込むように愛撫を重ねる。
サンジの声も、体温も、その反応も、全てが変化を遂げていて、先刻は感じ得なかった充足感で全身が充たされていく。
何度も感じてきたはずなのに、何故忘れていたのだろう。
二人ほぼ同時に達した後、照れくさいような妙な気分になって苦笑していたら、
「バーカ」
愉快そうなサンジの声が、柔らかい唇と共に、耳元へ直接届けられた。
The
end.
|