砂の霧 〜 4 〜
|
大量の食材をホテルの厨房に特別に預かってもらい、すぐに部屋にもどってくると、俺は、ベットにそのまま仰向けに寝転がり、両腕を頭の下で組んでゆっくりと考える体制をとった。
(なんだかわからないがスモーカーって奴を信じるって訳じゃないが、とりあえず
この写真の男に会ってみるしかないよなぁ)
頭の下で組んでいた手を右腕だけ動かし、左胸のポケットに入っていた写真を取り出した。
(じゃなきゃ俺は何の真実にもたどり着けない)
今、自分に出来る事をやるしかないだろう。
『よけいな事を』と後でゾロに言われてしまうかもしれないが、何も教えずに消えたアイツが悪いんだし、逆に考えれば、全て俺に任せてくれたとも取れる。
俺が思った通りに行動していいのなら、あとはこの男に会ってみて、自分の今までの経験で培った人を見る目と勘を頼るだけだ。
まるでそう決心したのを見透かしたかのようなタイミングで呼び鈴が鳴った。
写真をポケットに戻しながら移動し、小さな覗き窓から廊下を見ると、先程のスモーカーって奴と大差ない体格のいい男が立っていた。三十路は軽く越えているだろう貫禄のある男だ。
まあ、教授とか助教授とか言われたら納得しそうな迫力があるのは確かだが、迫力がありすぎるようにも思える。要注意人物として頭にインプットしておく必要がありそうだ。
「はい、どなたですか?」
「突然お尋ねした非礼をお許しください。うちの研究員がこちらにいると聞いたものですから。ちょっと、彼女に急ぎの用がありまして・・・・」
「あぁ、そうなんですか。ちょっと今買い物に出てまして、すぐに戻ると思いますから、中に入ってお待ちになりますか?それとも、戻り次第、ご連絡差し上げるようにしましょうか?」
男は、少し考えるようなしぐさをすると、申し訳無さそうな表情を作った。
「大変申し訳ないのですが、よろしければ、こちらで待たせていただけませんでしょうか?」
「わかりました。いま、ドアを開けますから、少々お待ち下さい。」
そう言って鍵を開けながらも、本当に部屋の中へ入れてしまっていいのかどうか自問自答し続ける。
自分自身に何度も同じ答えを言い聞かせて、問題の男を中に招き入れた。
何が起こっても知りたいと自分で決めた事
誰も恨むな
後悔するな
思ったよりも話し上手であったこの男の名前はクラハドール
名刺に書かれた名前を信じるならば、だが・・・
考古学の話を聞いていると、いつの間にか引き込まれてしまうような話し上手な上に、好奇心と意欲に溢れた熱意が感じられてきて、とても全てが嘘で塗り固められたものだとは思えない。
実際に本気で携わっていなければ、ここまで詳しく語れるものだろうか?
目と鼻の間を真一文字に走る顔の傷についても、発掘中の事故でできたものだと言われれば・・・・
「この顔の傷、気になりますか?」
気をつけてたつもりだったのだが、無意識に傷を見ていたらしい
「あ、いやそういう訳では・・・・」
言い訳しようとした俺に、手の平をこちらに向けて、いいですからというように話そうとした口を止めると、自嘲気味ではあるものの俺に笑いかけてきた。
「気にしないでください。初対面の方は皆同じように反応されますから。あなたはまだ、驚かなかった方だし、逆に私の方がその反応に驚いたくらいですよ。」
以外な反応に意表をつかれたからなのか、上手く口車にのせられてしまったのか、
俺は、このクラハドールという男を注意深く観察する事ができなくなっていた。
たとえ、何か悪い事を考えていたとしても、疑いきれない何かを持っている男だった。
まいったなぁ。俺って、こういう奴、嫌いじゃないかも。これが演技じゃなければ、だが。
あまりにもいい奴なんで、思わず明日も会う約束までしてしまった。話を聞いているだけじゃよくわからないから本当の発掘現場で本物が見てみたい、なんて呟いたら、
「では明日にでもご案内しましょう」
なんて事になってしまったんだ。
はたしてこの展開はいいのか悪いのか、確かめたくても二人は帰ってこなかった。 |
|
|
|