Ma・・・・・
若い女性ばかりを狙った障害事件が続いていた。
年下なのに、あっという間に捜査1課の課長にまで上り詰めたあの女は
「若くて美人でスタイルも抜群な私が狙われたら大変でしょ!さっさと捕まえてらっしゃい!」
と、何故か逆らうことのできない威圧感でもって、
その事件の捜査を俺1人に押し付けやがった。
「ここか」
俺は、事件が頻繁に起こっている現場に立っていた。
事件が起こったのは夜中の12時過ぎ
今はまだ皆が家族そろって夕飯を食べているくらいの時間だが、
それでも、あっという間に陽は沈み、闇の世界が広がっていた。
確かに人気のない暗い道だが、人家が全く無い訳ではない。
だが、ここを通る理由がわからない
事件の被害者達も『何故自分がそこを歩いていたのかわからない』と
おかしな証言をしていた。一人残らず全員が、だ。
それもあって、気味が悪いと皆事件の担当になるのを嫌がったのも
あの女が俺に無理矢理やらせた理由でもあるのだろう。
街灯が届かない道の先には、大きな洋館が暗い影の塊となってそびえ立っている。
「とりあえず、聞き込みでもしてみるか」
後から考えれば、俺はこの時すでに、何か強い力に惹かれていたのかもしれない。
「ここは・・・・?」
ぼんやりした頭をブンブンと横に振ってぼやけた視界を振り払うと
自分の周りが何か光る物で包まれているのがわかった。
「なんだこりゃ」
目には見えにくいガラスのような物質なのだろうか
触るとヒヤリと硬い感触がするものが自分の半径1メートルくらいを
すっぽりと囲んでいて、まるでまん丸いガラス玉の中に閉じ込められているようだ。
「その通り」
頭の中で現状の把握をしようと考えていると、その自分の頭の中を覗いていたかのような台詞が聞こえてきた。
「マリモ頭のクセに認識力はあるんだな」
「あぁ?」
俺はムカつくのを必死で我慢しながら声を主を探そうと振り仰いだ。
あり得ないと思いながらも、声が上から聞こえてきたのだから仕方が無い。
「ほぉ、驚かなかった人間はお前が初めてだ」
怪獣のようにでっかい人間が、俺を覗き込んでいた。
肌が透き通るように白く、髪は金色に輝いて、顔の造作も美しく整った男。
しばらく、その顔に見とれるように呆然としたものの
フフという目の前の男の笑い声で正気にもどり周りの観察へと戻った。
服装は時代錯誤的だが、今の世の中コスプレしてるヤツなんざ、ごまんといるし・・・
うわ・・・
部屋の家具や調度品なども、中世の世界を題材にした映画にでてきそうな
ロココ調の財も技術も駆使した豪勢なものが揃っている
こんな部屋なら天蓋付きのベットとか似合いそうだな・・・
しかし、これら全ての物が男に合わせたビックサイズとは!
「いや、俺が小さくされてるのか?」
どう見ても、あの洋館の大きさを思えば、そう考えるのが妥当だろう。
「ふふふ・・・頭のいい人間は嫌いじゃない」
美しい男は、面白い玩具を見つけた子供のような笑顔で笑っていた。
俺は確か・・・
この洋館には誰も住んでいなく、時々別荘として利用されているらしいことを聞き込みで知った。
昨夜、少しだけロウソクでの灯りが灯っていたらしい証言を得、
もしかしたら誰かがいるかもしれないと思い
この洋館の門の前まで来たものの、インターフォンらしき物が見当たらず、
どうしたものかと困惑して立ち尽くしていたら自動装置がついているような自然さで門が開いた。
これは、家主に招かれていると考えていいのだろうか
しばらく敷地内に入るのをためらっていると
『入りなさい』
という、耳に心地よい男性の声が聞こえてきた
声から想像するとまだ、20代前半くらいだろうか
常識ならばスピーカーから流れてくる雑音まじりの音のはずが
何故か、直接頭の中に響いてきたような気がした
「失礼します」
カメラやマイクがどこにあるのか探し出すことはできなかったが
とりあえず、自分の声を拾って家主に届けてくれることを祈りながら門をくぐった
建物まで真っ直ぐ伸びた道は太く、車が2.3台並んで走ることができるくらいで
すぐに入口のドアに辿り着けると思っていたのだが、俺の足で5分歩かされるほどの広さがあった。
建物の正面には大きな噴水があり、今は水も枯れてしまっているが、
ここで、人が暮らしていた当時は明るく水が輝いていたのだろう想像がつく。
噴水の周りをロータリーのように回って玄関までの階段を数段登ると
一枚板で作られた重厚な両開きの扉が2枚並んで閉まっている。
金色だったであろうくすんでしまった細工の綺麗な取っ手を握ろうと手を伸ばすと
触れる直前に扉がゆっくりと内側に開いていく。
ロウソクの灯りでほんのり明るく照らされた玄関ホールは、
自分のアパートの部屋の何倍あるのかというほど大きく
吹き抜けになっている天井も高いようだ
しばらくそのまま待つものの、誰も出てくる様子がないのでしかたなく
勝手にお邪魔させていただくことにした
1歩建物の中に入ろうと片足を踏み出した瞬間、
ゾワリと背中が総毛立ち、周りの空気が変化した事を伝えてきた。
玄関ホールの硬い大理石の上に踏み込んだはずが足はいつまでも地面に着くことは無く
そのまま、暗闇み包まれるように落下していく感覚だけが残る
「しくじったか?」
意識が遠くなっていく
今まで外れたことのない第六感が危険を知らせて来なかったことに安心しきっていた自分の甘さを
反省する時間もなかった
「何百年ぶりだろう。人との会話を楽しんだのは・・・」
目の前の大男は良く見ると綺麗に整った顔をしていた
どう見ても20歳そこそこだろう
細身で長い手足、真っ黒な燕尾服の上に闇のようなビロードのマントを羽織っている
全てが闇のようなその中で白い白磁のような肌と金色の髪の毛がキラキラと
暖炉の暖かな炎に照らされるように輝いていた
「何百年も生きてる爺さんには見えないぜ?」
俺の言葉に彼は悲しそうに微笑んだ
「ずっと1人だったからね。もうあまりにも昔すぎて記憶がない」
俺は、彼が嘘をついているとは思わなかったし、知っていたような気もする
ただ、本当のことを話していると自然に頭で理解してしまっていた
彼が何者であるのかも・・・
「なら、これからは、あきない程度に楽しめばいい」
俺がいつでも相手になろうと深く考えもせずに当たり前のように言葉が流れ出る
自分で自分の行動を不思議に思いながらも
恐怖も後悔もわいてこず、胸の鼓動が早くなるだけ
「マリモ頭君、私は食事に出かけてくる」
「ロロノア・ゾロだ。マリモ頭じゃねぇ」
「では、ミスターロロノア、君の食事はその後だ。大人しく待っていたまえ」
めちゃくちゃ偉そうな態度と口調で、
いつもの俺ならムカついてしょうがないところだろうに
何故か全く腹が立たない。
「おい、お前の名前は?」
カツカツを靴音を響かせて扉へと向かっていた男に呼びかける。
サラサラの金の髪をふわりとなびかせるように振り向き、
心臓に直接響くような隠微な微笑と声は、一撃のもとに俺を虜にしてくれた。
「私の名はサンジ。この名を知ったものは二度と外の世界には戻れぬよ」
ああ、いいだろう。
こうなったら一生お前に付き合ってやろーじゃねぇか
突きつけられた事実にも甘美な幸福感しか感じない
今は、サンジのそばにいられるだけで幸福なのだと酔いしれる
彼が帰ってきたら、ここから出してもらえるように頼んでみよう
彼をもっと近くで感じられるように
あの髪や頬や唇に触れられたなら、どんなに甘美な心地がするだろう
サンジのことを思うだけで幸せだった
ガタンという音で目が覚めた。
ガラスの丸みに身を任せて眠りについてからどれくらい過ぎたのか・・・・
ロウソクの緩い光りの中にサンジの身体が横たわっているのが見えた。
「おい、大丈夫か?おいっサンジ!」
ゾロの声に反応するようにサンジの身体がビクと痙攣するように動いた。
その細くて薄い胸が苦しそうに大きく喘いでいる。
「くそ!おいサンジ。これをなんとかしろ!俺をここから出せ!!」
バンバンと球体を内側から力いっぱい叩いても、割れる気配すらない
頭を動かすだけでも、そうとう苦しそうなサンジは
何か呪文のようなものをブツブツと呟いて指を噛んだ。
ポタリと赤い血が指を伝い落ちていく。
それが、床に落ちた瞬間
俺は元の大きさにもどっていた。
逃げるなんて考えもしなかった
ただ、
この美しい男を助けたい一心で
抱き起こし自分の膝に頭を乗せると、
何の躊躇いもなく自分の腕にナイフを走らせ
流れ出る赤く新鮮な血をサンジの口へと流し込んだ。
その俺の血が飲み込めずに、サンジはゲホゲホと咳き込み全て吐き出してしまう
「駄目・・・だ・・・男の・・・血は・・・」
「そんな贅沢言ってる場合じゃねぇだろがっ!」
俺は自分の傷口に吸いつき、口内に己の血を貯めるとサンジ唇に覆いかぶさり
口移しに飲み込ませた。
知らなかったから出来たことだった。
まさか、ある条件を満たした男の血以外、
本当に受付られない身体だとは
思いもしなかったから。
条件を満たしていなかったなら太陽を浴びるのと同じく
灰となって消えていたかもしれないなんて・・・・
「君は私を殺す気だったのかい?」
そう笑って訊ねられて、俺は驚き過ぎて硬くこわばっていた首をギシギシ言わせながらゆっくりと横にふった。
自分の手で、この美しい男を殺さずに済んだとこを
神に感謝するぐらい安堵していた。
意識を取り戻したサンジの口から本当の事を知ったときは
心臓が凍りつき、手の震えがしばらく止まらなかった。
恨み言をふざけた調子で笑い事にしてしくれたサンジの身体を
おもいきり抱きしめた
失わずにすんだ男の体は死んだように冷たかったが
それでも心臓だけはゆっくり
トクトクと時を刻んでいた
だが、ある意味、俺はサンジを殺したも同然だった。
その日から、サンジは華が枯れてゆくように痩せ細っていったのだ。
「おい、どうしちまったんだ?ちゃんと飯は食ってるのか?」
あの日から1週間が過ぎていた
落ち窪んだ瞳には生気が感じられなくて、
俺は今にもこいつが消えてしまいそうな恐怖を感じていた。
「どうしたらいい?どうしたら元のお前に戻せる?」
サンジは儚く微笑むだけで、何も語ろうとしない。
だから俺は自分の直感だけを信じて・・・
きっと、今自分が動かなければサンジは消えてしまうから
だから
サンジの乾いた唇に口付け口を開かせると
ふさがりかけていた腕の傷に爪を立て引き裂いた
「やめ・・・」
嫌がるサンジの口の中へ無理矢理自分の血を流し込むと、
吐き出さないように口をふさぐ
サンジの喉が音を立てて自分の血を飲み込んでいく
みるみる肌は艶をおび、真っ青だった頬がばら色に染まる
バチと音がしそうなほど勢い良く見開かれた瞳が潤んで俺を見つめ
悲しげな色をはく
「駄目だ・・・止められない」
サンジは自ら俺の腕の血管にキバをつきたて、ゴクリゴクリと飲みくだしていく
急激に吸い出された血液は、献血で許される量をはるかに超え
眩暈を覚えたゾロの身体が大きく揺れて倒れそうになる
「俺の血なんざ・・・いくら吸ったってかまわねぇ・・・」
このまま吸い続けられたら自分の命が危ういとわかっているのに
ゾロはサンジを引き離そうとは思わなかった
「!」
「お前になら・・・好きなだけくれてやる」
「な・・・ぜ・・だ?」
不思議そうに目を見開く美しい男を俺はいとおしくて仕方がない
俺の血でこの男が生きていてくれるのなら
この命、惜しいことなんて何もない
同じ時間を生きられず、どうせ先に無くなってしまう命なら
せめて俺がくたばるまでは一緒にいたいから
「私の時間はお前の何千・・・いや何億倍もゆっくりと流れている
お前との時間など、瞬きをするくらいあっという間の出来事だ
だから、人に情をうつすことがないようにしてきた
なのに、何故私はこんなにも苦しい・・・
今まで長い間生きてきて、こんな気持ちになったのは初めてだ
なんなんだ?教えてくれロロノア。この胸の苦しさは何なんだ?」
衝動を抑えることができずに、サンジの唇を奪い貪るように蹂躙する
「愛してる・・・サンジ・・・苦しくて胸が張り裂けそうなほどお前を愛してる・・・・」
「愛?・・・・グゥ!!」
サンジは胸を押さえ、美しい顔が苦しみに歪む
何かを堪えるように荒い息の口元を手のひらで被っている
俺の直感が外れたのか?
震える腕でサンジを抱きしめる
腕の中で痙攣を起こすように苦しんでいた身体が
突然、静かになった
「おい、サンジ!!」
この愛しい男を亡くしてしまうのではないかという恐れに
震えが止まらない
神様、お願いします
どうか、サンジを助けてください
俺から愛する、この男を奪わないでくれ!!
力いっぱい抱きしめた俺の腕の中でサンジが微かに身じろいだ
よわよわしく胸を押す力にホッと安堵し、胸の中に抱え込むように
起き上がるのを助け、自分の身体に寄りかからせる。
「・・・・大丈夫・・・・キバが抜けた・・・だけだ・・・」
サンジは固く握り締めていた拳を開くと
その手のひらの上には、真っ白な2本のキバが載っていた
「!!!」
驚くゾロの自分を支える為に腰のあたりを押さえてくれている手の上にサンジは自分の手を重ねて握った
「もしも・・・私が・・・人間になれたなら・・・・・・」
「条件はとても簡単だ」
サンジは壁に額に入れて掛けられていた今は亡き先人達の言葉を読みあげる。
〜吸血鬼を心から愛している人間の血は甘く男女の別なし
この甘き血以外、受け付けることかなわず
汝、心の臓騒ぎたるを経、奇跡をまとう〜
「愛してくれた者を自分も愛することができれば奇跡は起こる」
濡れたように魅力的な瞳が俺を見つめている
俺は誘われるように歩み寄り、期待を込めてサンジを見つめ返した
「ふふふ・・・愛してるよ、ゾロ、君を」
俺に向かってのびる腕を捕まえ引き寄せ、キバのない滑らかで甘い唇を味わう
「嫌がっても、死ぬまで一緒にいてやるさ」
唇を割り開き、口腔内をも蹂躙し舌をからめて吸い上げ快感を引き出す
荒い息を継ぎ、膝がくずれるサンジの腰を抱き寄せ耳元で吐息のようにささやいた
その言葉に上気してバラ色に頬を染めながら微笑む、この美しい顔を心の中に刻む
愛しい体を抱き上げ歩き出す
1つになって愛し合うために
『サンジ、愛してる・・・』
fin

ぎりちょんゾロ祭期間内に間に合ったかな?くらいのギリギリに
はぁはぁ息切れして作った作品です。
でも、いったいどこがお祝いイラなのか・・・という
ただ単に私が描きたかっただけのもので・・・・
サンジ君も目がいっちゃってるし・・・
こんなベタな雰囲気に・・・
愛が無い訳じゃないっす・・・・
と思っていた所で、いきなりこのイラじゃなんだからSSくっつけよ
とイラに合わせた話を書き始め、こんな話になりました
ちょっとはラブラブ感が出ましたでしょうか?
かなりベタな絵と話ですが、少しでも気に入っていただけたら幸いです。
かなり、2人への愛はこもっているはず!
最初に更新した話を読み返してみて・・・・ってなったので
文章部屋に移すついでに、少しだけ加筆修正させていただきました。
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