青い海と蒼い空 8

青い海と蒼い空があるかぎり               2005.07.31更新
「お前、何考えてる?」

 ゾロが横になったサンジの片足を肩にかつぎ、、目の前にさらけ出されたヒクヒクと蠢く秘口に己の分身である硬く大きく反り立った一物を埋め込み、グチュグチュと卑猥な音をさせながら問いかける。

 「ウ・・・・ン・・・・ハァ・・・・あぁぁ・・・・」

 ゾロの問いかけに答えようと薄っすらと瞼を開いたその中から現れた目は、ウルウルと涙に濡れ、色気を放出させているものの、その瞳は宙を彷徨い、何も映していないように見えた。
 今、目の前にいる自分を見ることもなく、彷徨う瞳の先に見えているものに嫉妬してゾロは更に腰を深く沈め、サンジの弱い箇所を何度も何度も攻め立てた。

 「今は、俺だけを見ていろ!今お前の中にいる俺だけを感じろ!!」

 理不尽な事を言っている自覚はあるものの、いつもと違って、サンジが行為に集中していないように感じて、少しだけ苛立ちを覚える。
 サンジの中の粘膜がゾロ自身に纏いつき、全てを絞りつくそうと蠢く感覚は一緒でも、いつものように頭の中が真っ白になったように快感に身を任せ、もっと欲しいと貪欲に求めて来ない。
 まだ快感が足りないのかと更に激しく一番感じる所に当たるように注挿を繰り返してから、サンジの中を埋め尽くしていた太く質量の増した物をギリギリまで引き抜いた。

 「あああ・・・ん・・・」

 抜かないでと言うように、柔襞が窄まりいやらしく蠢めく。

 「や・・・・・やめ・・んな・・・・・」

 サンジの意味をなさない言葉をゾロは最後まで聞くことなく、勢いよく一気に最奥まで身を沈めた。

 「うあぁ・・・ふぁ・・・」

 サンジの頬を包むように顔を固定し口付ける。
 貪るように口腔内をかき回し、舌をからめ、吸い上げる。

 なんだかわからない不安がゾロの心を占めていく。

 どちらの物かわからない銀糸を引きながらゾロの唇が離れていくのをサンジは寂しそうに見つめる。

 何かあったのかと問えばいいのかもしれないが、素直に答える男ではないことも知っている。
 それならばと身体に聞くことしかできない自分が情けなくなる。
 自分以外を見るな。俺だけを見ていて欲しいといつも思っていた。
 今、言わなければ後悔するような気がするのは何故なのか。
 嫌な予感めいたものが脳裏をかすめていく

 「俺を感じてるか?」

 行為をしている最中だけは憎まれ口がきけないからか、素直で可愛い反応をするサンジは、カクカクと頷いた。
 嘘ではない証拠にサンジの中心で立ち上がった物の先端からは、トロトロを透明の液体が溢れ続け、茎から伝い流れて後ろの秘口までを濡らしている。
 これだけ自分に感じているサンジの姿を見ても安心できない、貪欲な自分が嫌になる

 ゆるゆると腰をまわし、サンジの中のキツくて気持ちのよい場所を漂いながら赤く尖りきった胸の蕾に口付ける。
 先ほど、泣いて許しをこうほどにそこだけを弄っていたために、尖らせた舌でチロっとねぶっただけで、背を弓なりにして快感を表し、ゾロ自身を包み込む秘口が更にギュっと締まりゾロ自身を翻弄しようとする。

 「クッ・・・・」

 一瞬ゾロの動きが止まり、食いしばるような息が漏れ、サンジの中で更にグンと質量が増した。

 「目を開いて俺を見ろ!俺だけを、その蒼い瞳に映せ」

 ゾロは、薄っすらと開いた快感で潤んで光るサンジの瞳に自分が映っている事を確認するように視線を外すことなく、腰の動きを激しくしていく。

 「・・・あ・・・んん・・・ん・・ん・ん」

 ゾロの早くなるリズムに合わせるようにサンジの口から隠微な嬌声が漏れる間隔も短くなっていく。






 これが最後
 最後だから、しっかり憶えておきたい。
 暖かくて大きな手のひらも
 抱きしめられた時の温もりも
 熱い吐息と熱い瞳も
 イク時の無防備な表情も
 俺の中を埋め尽くす太くて大きな物も
 無骨なように見える太い指が以外にも起用に動いて自分を翻弄することも
 俺を翻弄しながら、精悍な頬を伝い落ちる汗を
 力強くて硬い筋肉で覆われた背中
 時々何かに嫉妬したように情熱的になる攻める律動
 疲れを知らないかのように飽く事なく貪る口付け


 たとえ脳が忘れてしまっても、思い出す事が出来なくても、きっと身体が憶えているはずだから。
 そうすれば、きっと寂しくはないはずだから。
 ああ、気を失ったらそれで終わりなのに。
 終わりたくないのに、
 もう我慢できそうにない。

 「あ・・も・・・・・ダメ・・・・」

 激しい注挿に2人の腹の間で挟まれグチュグチュともみくちゃにされたサンジの物をゾロが軽く握って上下に動かす。

 「あああああぁぁぁ・・・・」

 至高の瞬間、真っ白に世界が変わり、最後の時が訪れた。







 ゾロはサンジの覆いかぶさり激しかった行為の後の息を整え、いつもなら照れ隠しのようにクソ重いからさっさとどきやがれ!と
 憎まれ口をきくサンジの意識がない事に気づくと、起こさないように軽く抱きしめ、乱れた髪を優しく整えた。
 こんな甘いこと、サンジの意識がある時になんて恥ずかしくて出来ない。
 全く意識しない人間にならいくらでも出来るのに。
 そうして優しく髪を鋤いた手を頬へと移動して、滑らかな肌の感触を楽しもうとしたが、そこが濡れている事に気がついた。
 太い親指でその水を拭うものの後から後から溢れてくる。
 サンジの目尻から流れ続ける涙を見てゾロの表情が悲しげに歪んだ。

 「何がお前をこんなに悲しませてる?」


















 早朝、まだ日が登る前のいつもと同じ時間に目覚めたサンジは、すでに何かを決意した強い眼差しで横で眠っているゾロを見つめ、その頬に軽くキスをした。
 これくらいで起きたりしない事がわかっているから。
 それでも、少しでも今の自分で触れておきたかった。
 最後の悪あがき
 歪んだ苦笑いを浮かべる自分の頬を両手で叩いて吹っ切る為の気合を入れる。
 昨夜、早く体をつなげたくて脱ぎ散らかした服を拾い集めて着込み身支度を整えた。
 シワシワになった服を着るなんて普段ではあり得ないものの、今はそんな小さな事を気にしてる余裕がなかった。
 ゾロが目覚める前に全てを終らせる為に。










 キッチンで朝食の準備を済ませてから、眠っていたイスカをそっと起こした。

 「おはよう。」

 そう声をかけるサンジの表情がどこかいつもと違っている。

 「どうしたの?」

 痛む背中の傷を庇うように上半身をベットの上から起こしながら、イスカは聞かずにはいられなかった。
 それほどにサンジは何かを思いつめたような表情をしている。

 少しだけ言いよどむそぶりをしたが、グッと拳に力を入れて決意を瞳に宿す。

 「俺の記憶を奪って欲しい。」

 イスカの瞳を見つめ、そう口にしてから長身の体を腰から折り、深く頭を下げて頼んだ。

 「頼む。本当はこんな事頼むなんてオカシイのはわかってるし、そんな義理がイスカにはないのもわかってる。だけど、どうしても、そうしなきゃならない。俺が先に進む為にも。やつの為にも・・・そして、あなたの為にも・・・・」

 上手く言葉が続かず、サンジは唇を噛み締めた。
 イスカは、今まで見た事がないほどに儚く微笑んで、両腕を伸ばす。
 サンジは自然と彼女のベットの脇に膝をついた。
 彼女は細く綺麗な指でサンジの両頬を包み込む。

 「私のせいよね」

 サンジはハッとして目を見開くものの、大人しくされるがままにイスカの悲しげな瞳を見つめた。

 「貴方がゾロを忘れる必要なんかないわ。」

 イスカの手のひらはサンジの頬から首の後ろにまわり、優しく抱き寄せられる。
 右の眉の上に柔らかな唇が軽く押し当てられ、俺は目を瞑った。

 何かが瞼の裏に映し出される。
 それは、緑の広大な野原
 さやさやと葉を揺らす風は、その向こうに見える海から吹いてくる
 ゆっくりと首をめぐらせると横には誰かの影がある。
 知らない人ではないような気がする
 何故なら、ホンワカと心の中が暖かく感じるから。
 その影のように見える誰かと手を繋いで歩いている自分の目線は、その人の腰あたりを見ているようで何かを話しかけるたびに見上げているのがわかる。
 その人を見上げた時に目に入る空は真っ青で雲ひとつなく眩しかった。
 俺はどうしても顔を見たくなって目を凝らして、見上げた人物の顔に集中する
 少女だ。
 まだ、自分より年上というだけの幼い少女
 ウェーブのかかった肩より長く伸ばした髪が、海から吹き込む潮風に揺れていた。
 横顔からは瞳の色まで見えなくてもその瞳を彩る色がどんなに綺麗な色なのか
 本当は知っている気がする。
 そう彼女は…大好きな…

 「ねぇちゃ・・・・」

 『思い出してくれたのね。ありがとう。だけど、この記憶は、今の貴方にはもう必要無いものになっているから』

 だから、貴方が苦しまないように、私が預かっておくわ。
 貴方にはあの人が必要なのだから。
 貴方がどんなにあの人を愛しているのかわかっているから。
 サヨナラ
 愛しているわ
 あなたも
 あの人も


 あぁ、そうだったのか
 しっくりと心に馴染んでいるこの風景が過去の記憶だと自然に受け入れる事が出来る。
 そうなってみて初めて目の前にいるイスカに懐かしさと共にいとおしさをも感じ、
 身体の中が暖かいもので満たされていくのを感じた。

 イスカが泣くのを我慢したような笑顔で優しく俺の目尻からアゴにかけて拭う仕草をした事で、
 自分が涙を流している事を知った。

 ごめんなさい。守ってあげられなくて。
 ごめんなさい。悲しい思いをさせて。
 ごめんなさい。また苦しめる所だった。

 そう優しい光りを放つイスカの瞳が語っていた。

 「イスカ… 」

 「もうこれ以上、あなたを苦しめはしないから。」

 そう言うと、イスカはサンジの頸動脈にもう一度軽く指を押し当てた。
 先ほどまで心の中に浮かんでいた暖かな懐かしい風景は消え失せ、イスカとの出会いやここ数ヶ月の記憶が消えていく。
 同時に自分が何のためにこの女性と向きあっていたのかもわからないというように首をひねった。

 「あんた誰だ?」

 目の前で涙を流しながら優しく笑う女性があまりに哀しそうだったから、それ以上問うことをしてはいけないような気がしてサンジは慌てて立ち上がった。

 「あー、すまねぇ、茶も出さずに。すぐ用意するから。なんか寝ぼけてたみたいで・・・恥ずかしながら、何話してたのか憶えてなくて。で?俺達、何の話してたのかな?」

 どうしても何も思い出すことが出来ずに軽く頭を叩いてみる。
 そんなことをしても、ダメだと何処かで自分の声がする。
 あり得ない出来事なのに、俺はこれでいいんだと変な納得をしてしまっていた。
 疑問も抱かずに。

 「うわっ、もうこんな時間か。ガキどもが腹減って起きてきちまう。」

 慌てて朝食の準備に取り掛かる。

 「おかしい。あのクソゴム!また食べ物に手を出しやがった!こんなに食材が減っちまったら、次の島までもたねぇだろーが!全く仕方がねぇなぁ。」
 「ふふふ」
 「笑い事じゃないんですよっ!!」
 「だって、怒ってるはずなのに、文句言いながら、仕方ないって許しちゃってるんだもの。本当にあの子達が大好きなのね。」
 「はあ?許してるんじゃなくて、諦めてるんですよ 。」
 「そうかしら。何だか嬉しそうだったけど?」
 「あー、ちょっと一服してきます。」

 サンジは照れ隠しのように素早い動作でタバコの入った箱を胸のポケットから少しだけ出して見せ、足早にラウンジから出て行った。

 「そう、それでいいのよ。全て忘れて幸せになって」

 聖母のような微笑に一筋の涙が滑り落ちた。















 「本当に一人で?」

 ナミが『心配だ』と顔出して、もう何度もやりとりした話を蒸し返す。

 「大丈夫。アイツラのアジトの情報はバッチリもらってあるし、それにここまで進んできたこの船を逆戻りさせる訳にはいかないわ。私なら本当に大丈夫だから。ノースブルーに戻れば協力してくれる仲間だっているの。必ず両親は取り戻してみせるわ。」

 (そして、必ずまたここへ、アナタに会いに。)

 イスカは、忙しくキッチンで立ち働く後ろ姿を見つめた。

 「でも、灯台元暗しってやつだよな。まさか、殺されたと思ってたイスカの両親が、ヤツラの隠れ家の厨房で働かされてるなんてなぁ。あの間抜けなお頭のおかげで探す手間が省けたっていうか。ま、もともとがアイツラのせいなんだから、おかげって事はないか。」

 ウソップがイスカの荷物を運びながら呟く。

 「ゾロの力だけでも借りられたらと思ってこの船に来たけど、必要なかったみたい。」

 チロリとゾロを流し見る。

 「なぁんてね。お頭を倒してくれてありがとう。そして、さよなら」

 イスカは最後の意地悪とでも言うようにサンジの目の前でゾロへと抱きつき耳元にこっそりと囁やく。

 「私の弟をよろしくね。」

 ゾロは言われなくても、そうするというようにブゼンとした表情で頷いた。

 あのイスカが切られた後、まさかあんな話を告白されるとは思ってもみなかった。
 食事を終えて処置用の簡易ベットの横を通り過ぎる時、自分の大切な者を助けてくれた礼を言うべきだろうと、
 うつ伏せて横になっているイスカの顔の見える位置に移動した。
 すると、まるでそれがわかっていたかのようにニッコリ微笑んだイスカと目があったのだ。

 『あいつを倒してくれてありがとう。お礼にいい事教えてあげる。』

 イスカはゾロにチョイチョイと人差し指を動かし「内緒話なんだからもっと近寄って」と耳を傾けさせる。

 仕方ないと屈んだソロの耳に、明るすぎるイスカの囁き声響く。

 『私の弟、生きててくれたみたい。この船で見つけちゃってびっくりしたわ。誰だと思う?』

 《これだけ瓜二つってくらい似てるヤツがいるのに、サンジではなくチョッパーっていう笑えないオチじゃないだろうなぁ》
 と一瞬険しい表情を浮かべるゾロを見てイスカはクスクスと笑いだす。

 『ふふふ。なんで気付かなかったんだろ。こんなにそっくりなのに。ねぇ?取り引きしない?しばらく私の看病をしてくれたら・・・・・・』

 取引になんて応じるもんかなどと思っていたのも最初だけで、その交換条件を出された途端、即、オーケーしてしまった自分が情けなかった。
 それでも、彼女の出した条件は自分を動かす価値のあるものだったのだ。

 「あー、イスカさんズルイ!ゾロにだけなんて。俺もーvv」

 サンジがゾロに抱きついていたイスカと同じように別れの挨拶を済ませた。

 『一緒に来ない?』

 そうサンジに向かって口をついて出そうになる言葉

 私は確信しているけれど、記憶のないサンジにとっては信じられる事では無いだろう。
 勿論、私の力で思い出させる事は出来るけど、たとえ思い出したとしても、彼はここに残るだろう。
 ゾロという男がここにいる限り。
 だったら余計な事をしないで、今のままが彼の幸せのような気がした。
 大丈夫。
 彼がオールブルーを目指す限り、また出会えるだろうから。
 私たちも必ず見つけ出す。
 あなたを笑顔で迎えられる日を夢見て。

 もう、それだけで充分。





 「ホントに一人で大丈夫なの?」

 ナミはシツコイくらに繰り返す。

 「大丈夫。さいわい、船と人手もあるしね。」

 と、記憶を抜いて大人しくなっている忍者海賊団が待つ船を、苦笑いしながら握って立てた親指で差し示した。

 「だから、もう行くわ。みんなによろしく伝えてね。」

 「え、ちょっと待ってよ。もうすぐみんな集まるから。」

 イスカはゆっくりと首を横にふる。

 「 泣いちゃうからやめて」
 「でも!」
 「お願い!」
 「わかった…伝えてみるわ」
 「ありがとう」

 ニッコリと微笑んだイスカは、振り返らずに船を移ると、そのまま帆を張るよう指示を出した。
 船が進み表情が判別出来ないくらいの距離になって、ようやく大きく手を振った。

 『バイバイ、また、ね。』

 と聞こえるような気軽く一度だけ。
 一度も振り返ることもなく、ただ、彼女のキラキラとかがやく金の髪を風になびかせて。





 弟は生きている
 生きていてくれた
 嬉しかった
 そう
 だから

 『信じることで、きっと奇跡は起こせる』

 この言葉があれば、きっと











 チョッパーにとってイスカは、母であり姉であり、もしかしたら恋人のような存在だったのかもしれない・・・。

 「何で・・・・」

 イスカを探して甲板に出てきたチョッパーは申し訳無さそうに自分を見つめるナミの顔に困惑し嫌な予感に苛まれながら、彼女の居場所を聞いた。
 ナミは小さくなる船影を無言で指差す。

 「え?」

 欄干に駆け寄り小さくなった船へと目を凝らす。

 船尾に彼女のものらしい金色の輝きを発見した途端、チョッパーはもう届かない場所に向かって大声で呼ぶ。

 「イスカーっ!!」





 しばらく放心状態だったチョッパーは、彼女が黙って出て行ったことが信じられず、彼女の優しさや想いに気づけないでいた。
 涙が止まらず流れ続けている。

 「俺・・・・イスカのどごろに行かなぎゃ。ぎっと、助けを求めてるんだ。だがら、俺が!助けなぎゃ!」

 そう言ってフラフラと歩き出そうとするチョッパーに、俺が言えることではないのかもしれないけど。

 「そう・・・そうだな、そうかもしれない・・・だが、イスカは、そんなこと望んでねぇんじゃねぇか?」
 「何でそんなこと言うんだ?仲間じゃないのか?」
 「仲間・・・だったよな・・・」
 「仲間なら助けに行かないのか?」
 「それをイスカが本当に望んでいるなら・・・でも彼女は自分で解決する道とこの船を降りることを選んだ」
 「サンジは、俺が船を降りるって言っても止めてくれないのか?弱くて役に立たないから?」
 「本当にお前がやりたい事があって船を降りるって言うなら誰もお前を止めたりしない。それは、お前が必要のないやつだからって訳じゃない。仲間が本当にやりたいと望んでいることを止めて、足を引っ張りたくねぇからだ。好き嫌いの問題じゃねぇ。大切な仲間ってのは、そういうもんじゃねぇか?分るか?チョッパー?」

 チョッパーは涙を貯めた目に力を込めながら、俺を仰ぎ見た。

 「俺・・・、おで・・・、」

 その後は言葉にならず、声が枯れるまで泣き続けるチョッパーのそばで、サンジは何も言わず、ただ、タバコを吸い続けていた。











 「腹減った・・・・。」

 泣く事に随分とエネルギーを使い果たし、声もかすれてボロボロだ。

 「ほら、食え!!」

 サンジはチョッパーのために、特製スープをよそって差し出した。
 いつもなら、最初にナミかロビンが口にするまで食べる事ができない食事だ。

 「いいのか?」

 「いいに決まってるだろ?くだらないこと言ってないで、さっさと食え!」

 「・・・うん、ありがと・・・・」

 一口スプーンですくって口に運ぶ。

 「・・・・・おいしぃ・・・。」

 ズズっと鼻をすする音がラウンジ内に響く。

 「言っとくが、今日だけだ。俺ぁ、レディにしか優しくしない主義だからな。」

 サンジは聞こえないふりをして、チョッパーの帽子を軽くはじくと、ラウンジを後にした。


 そんなこと言って、ゾロにだって時々優しくするくせに、と思ったが、その言葉をチョッパーは口に出すことはなかった。
 明日からの食事にありつけなくなったら大変だから。
 そんな事まで、考えられる気持ちの余裕が生まれていることに気づき、そばにいてくれたサンジに改めて感謝し、彼の愛情のこもったスープを残さずに食べることに没頭した。





 扉を開けると、そのすぐ左側の壁に背を預けるようにゾロが座り込んでいた。
 ゾロは上目づかいにサンジを見上げ、微かに口角を持ち上げた。

 「で?俺の分は?」

 答えようと口を開きかけたものの、この静けさに不気味なものを感じる。
 いつもなら、「サンジぃ〜腹減った〜ぁ」と擦り寄ってくるクソゴムの姿が見えない。

 「そう言やぁ、ガキどもは?」
 「うるせぇから、(縛って)倉庫に放り込んどいた。」
 「ククク、そうか、なるほど・・・」

 ゾロと出会ったばかりの頃は、この口角を少しだけ持ち上げた顔は、自分の事をバカにしているのかと思って、すぐにケンカになっていた。
 でも、今は、これがゾロなりの優しさだということを知っている。
 不器用で、優しい男。
 俺はゾロとの視線を外さずに、横に並ぶと足を投げ出して座った。

 「なぁ、もし俺が、この船を降りるって言ったら、どうする?」

 ゾロは別段驚いた様子もなく、しばらく無言だった。

 どうしても、今、答えを聞きたい訳でもない。
 ただ、なんとなく聞いてみたくなっただけだ。

 俺は、タバコを取り出して火を付け、一口大きく吸い込むと一気に空に向けて吐き出した。

 その煙の行き先を見つめながらゾロは、ポツリと言った。

 「一緒には降りねぇ。」

 「そうか・・・。」

 本当はわかっていた答えだった。
 きっと、俺も同じように答えただろうから。
 でも、なんか、すっげー胸が痛いのは、どうにもできねぇな。
 聞かなきゃっ良かった・・・。

 「だが、ヤツを倒して、俺が、世界一の剣豪になれた時、お前が何処にいようが、必ず」

 ゾロの俺を見つめる目に力がこもる。

 「必ず?」

 「あぁ。」

 そう言ったきり、ゾロは口を閉ざした。

 「必ず、何だって?」

 本当はわかっていた。
 ゾロが、その先に何を言いたかったのか。
 そして、絶対にその先を口にしないだろうことも。
 それでも、どうしても、ゾロの口から聞きたくて。
 そうしなきゃ、何だか、俺ばっかりが、こいつの事を好きみたいで腹が立つから。

 だから、ちょっとふざけた調子で挑発してみる。

 「本当は、イスカの事が好きだったんじゃねぇのか?同じ顔なら、男よりも女の方がいいよな。普通・・・。」

 「ばかだなお前は本当に。俺はお前の顔や身体に惚れたわけじゃねぇ。そりゃぁ、好みだったのは確かだけどな。だがそんなのは後からついてくる付属品でしかねぇ。お前にはお前だけしか持っていない特別の物がある。」

 「特別なもの?」

 「ああ、お前の存在そのもの・・・気配って言ったらいいのか?」

 「気配?」

 「お前の身体から染み出る____潔く高潔で静か、それなのにどこか熱い____そんな気配に俺は惚れたんだ。」

 「!」

 「だから、似てる似てないなんて関係ねぇ。お前はお前だ。誰にも代わりはできねぇ。だから、ふざけた事ぬかしてんなよ!!」

 睨み合っているのか、見つめあっているのか、視線を外すことが出来なくなって、自然にお互いの顔が近づき、そして、重なり合
 う。

 「う・・・ん・・・」

 あまりにも本格的な口付けに、何も考えられなくなる。
 こんな事で誤魔化されないぞと思いつつも、腕をゾロの首に巻きつけ、自分からも舌を絡ませる。
 しかたない、今の幸せに流されてやるか。

 (でもな、クソマリモ、おぼえてろよ。絶対続きを言わせてやるからな!!)






 目覚めた時、一糸纏わぬ姿でゾロの右腕を枕にし、左腕で抱きしめられた状態だった。
 昨日は、あまりにも激しく体を繋げた行為をしたため、気を失ったように眠っていたようだ。
 ゾロは、まだ規則正しい寝息を立てている。

 俺は、起こさないようにゆっくりを体を起こすと近くにあったシャツだけ身に付ける。

 「おーい、俺の下着は何処にやった?」

 あまりにも体を繋げることに夢中で、何処に何を放り投げたかわからなくなってしまった。
 ゴソゴソと探し回る音で、めずらしくゾロがのっそりと体を起こした。

 「探し物はこれか?」

 大きな体の下敷きになり皺くちゃになった自分の下着を申し訳無さそうに指差しているゾロを見ていたら、もう少し話したくなって
 まだ、夜明けまでには時間があるからと、俺はゾロの傍らに一度腰を下ろした。
 昨夜の自分を好きだと告白してくれたゾロの情熱が激しすぎて腰が辛かったのもあるけれど、しばらく、せめて夜明けまではこのまま離れたくなかったのも事実で。
 そんな俺の考えてることがわかっているかのように、ゾロは黙って優しい眼差しで俺を見つめてくれる。

 「なぁ、俺がレディ好きなのはイスカの姿を求めてたんだと思うか?」
 「お前?」
 「だってなぁ、よーく考えてみたら俺が本気で口説き落とそうとしてるレディってのは、気が強くて笑顔の優しいキラキラと眩しいような人で、なんか似てるんだよなぁ。」

 自嘲気味に微笑するサンジの横顔を、目を見開いたゾロが見つめている。
 イスカに関する記憶は全て消されているはずなのに、何故?とビックリしているらしい。

 「記憶が戻ったのか?」
 「ははは・・・ホントあの人って、ちょっと抜けてる所があるんだよな。昔からそういうとこあったの忘れてた。自分ではきっとしっかりしてるとか思ってるんだろうけど・・・・肝心な所で詰めが甘いんだ。」
 「?」
 「確かに、イスカが来てから記憶を消される日までの数ヶ月分の記憶が無いのは事実だけど、あの人最後に俺の昔の記憶全部揺り起こして思い出させてから消そうとしてたんだろうね。少しは自分の事を思い出して欲しかったんじゃないかな。」

 ゾロは静かに横に並んで腰掛けると、黙って俺の話を聞いてくれる。

 「俺も全部思い出してビックリしたけど嬉しくてイスカを抱きしめ返そうとした。そしたらすぐに頭の中からどんどん無理矢理いろんなもん剥がされていって、俺・・・・それ以上持っていくなって頭の中でずっと抵抗して、でもそれを外・・・表情には出さないようにしたんだ。彼女に気づかれないように願いながら。だからかな、最後のイスカに抱きしめられた所からの部分だけ、何とかギリギリ守れたみたいで・・・全部思い出した後からの記憶が全部残った。けど、無くなったフリしてたんだ。その方がいいような気がして・・・なんでだろーな。」

 悲しそうに笑うサンジの頭にゾロは大きな手のひらを置いて優しくなでるようにしてからクシャクシャと髪を乱す。

 子供にするみたいなしぐさなのに、今はそれが心地いい。

 「お前にもちょっとした力があったんじゃねぇか?よかったな、思い出が残って。」

 自分の力を重く受け止めて戸惑うこともできるのに、なんだかなんでもない事のように軽い調子でそう言ってくれるゾロの優しさが嬉しくて、俺は泣きそうになる目頭に力を入れて、頭の上に乗ったままのゾロの腕を掴み、口元に持ってくるとその手のひらに唇を寄せた。

 「サンキュ」

 少しだけ濡れたように輝く瞳で上目使いにゾロを見つめるその顔に、ゾロは下半身をズクンと直撃される。

 「お前〜、そんな凶悪に可愛い顔したら、我慢できなくなるだろうがっ!」

 ゾロはそのまま、サンジを身体の下に引き込むと赤く色づく唇を噛み付く勢いで奪い取る。

 「ん・・・ん・・・・っ」

 サンジの口腔内を縦横無尽に動き回り、粘膜に刺激を与え、舌を絡め吸い上げる。
 ある程度満足したところで、耳朶に息を吹き込むようにチロリと舐めた後に甘噛みし、そのまま、首筋にも軽いキスを落とす。
 もちろん、口でご奉仕している間も両手が遊んでいたわけではない。
 背中や胸の中心の蕾などサンジの感じるところを撫で擦り、あっという間にサンジの体の中心にあるものは硬く立ち上がっていた
 愛し愛されている事を自覚した時からか、ゾロにどこに触られてもビクビクと感じすぎてしまうサンジの身体がいとおしい。恥ずかしそうに、身をよじる姿もまた嗜虐心を煽る。

 「まって・・・・・ん・・・・や・・・・」
 「待てない」

 俺を引き剥がそうを動く腕を一まとめにして頭のうえに縫いとめる。

 「待ってって・・・・ハァ・・・」
 「だから」
 「聞きたい・・・・ことが・・・あるから・・・・」
 「あ?」

 それでも愛撫の手を休めようとしないゾロをサンジは思い切りにらみつけた。
 睨んだ顔も色っぽくて、ゾロの中心に更に火をつけようなどとは微塵も思っていないのだろう。
 はふうと息を整えたサンジが上半身を起こしてゾロと向き合う。

 「イスカが・・・怪我をした時・・・なんであんなになついてた?・・・はたから見りぁあ、好きな相手に尽くしてるようにしか見えなかった・・・」
 「あれは!・・・・?ってお前、記憶なくしてたんじゃなかったのか?」
 「それだけいつも心の中にあって、思い返してたってことだろ。で、あれは何?」

 誤魔化されないぞと勢いで身を乗り出す。

 「・・・・・あれは・・・」

 ゾロは言いかけるも、耳をほんのり赤らめて言いよどむ。
 どうやら言い難い事情があるみたいだが、そんなのにかまってられない。
 どうしても教えてもらわないことには、俺の気持ちが先に進めない。

 「あれは何だって?」
 「イスカがくれるって言うから…」
 「何を?」
 「絶対怒るんじゃあねぇぞ」
 「怒るようなものなのか?!」

 俺は、ゾロの腕を振り解いてゾロの体を押しのけた。

 「怒らねぇって約束しろ!じゃなきゃ教えねぇ」
 「子供みたいな事言って…わかった。怒らねぇから言ってみろ!」
 「…お前の………あー、あいつが動けない間だけ、身の回りの世話したら、お前とあの女との思い出の映像をくれるって言うから。」
 「はぁ?」

 あの時のあの女の声が甦る。

 『あなたに都合の悪いサンジの記憶を全部消してあげる。それから、あの子の小さな頃の可愛らしい姿が焼き付いてる私の記憶を少しお裾分けしてあげてもいいわ。どうかしら?鼻血出ちゃうくらい超可愛らしい姿見たくないの?』

 「とか言われたら、普通やるだろ。」
 「馬鹿か。普通はやらないだろっ!」

 この男にしては珍しく下を向いてボソボソ恥ずかしそうに話していたのに、俺の言葉に反発するようにムッとして反撃を試みる。

 「なら、例えばナミのナイスバディをいつも無修正で見られるって言われたらどうする?」

 おっとそう来たか

 「俺ならギリギリまでスリットの入った見えそうで見えないドキドキする感じがメロリーンだな」
 「じゃ、それだったとしたら?」

 ナミの鼻血でちゃいそうな映像を想像しはじめたら熱の入り出したサンジに、ゾロは『俺はなんで他人に色めき立つこんな男が好きなのか』と少しため息を吐きだした。この状況を作り出したのが自分なだけに、余計に落ち込みそうだ。

 「うー、そこまでのサービスなら考えなくもないけど、・・・・じゃなくて、それとこれとは違うだろうが。」
 「いや、俺にとっては同じ事だ。お前の事なら何でも知りたいからな。」
 「!!」

 なんか今、ものすごく恥ずかしい告白を聞いたような気がする
 俺がゾロの事を知りたい思ったことなら山程あるけど、ゾロが同じように思っていてくれたなんて想像もしなかったから、なんだかはずかしくて、頬に血が昇ってくる。

 「誰かに聞かれたらどうす・・・・・!!」

 そこまで言って気が付いた。

 「「あっ!!」」

 やはり同じようにゾロも気が付いたらしい

 「やば、ガキども!」
 「俺は急いで飯つくるから、お前は倉庫から出してやれ!」

 2人で慌てて着替えながら、あまりにも馬鹿な自分達に呆れて笑いがあふれ出す。
 確かに男部屋でここまで大胆にエッチなことをしたことがなかったのだから、どちらかが気づいてもよさそうなものなのに
 大事な仲間達の事を忘れるくらい、自分達のことでいっぱいいっぱいだったんだから。

 慌てて男部屋から飛び出すと、わっと何かに飛びつかれた。

 「サンジ〜、メヒ〜くれ〜」

 情けない顔をしたくそゴムが俺の体にまとわり付いていた。

 「お前!どうやって?」

 俺が叫ぶとナミがその前に立ちはだかる

 「当たり前でしょ?この船に乗ってるのはあんたたちだけじゃないんですから。今回だけは邪魔しないように引き止めてあげたけど、次は無いからそのつもりでね、お二人さん」

 「ふふふ。何で部屋に入ったらいけないのか説明できなくて困っちゃったわ」

 チョッパーの手を握りながらロビンが流し目を送ってくる。
 これはもうバレバレだな。

 「どうでもいいから、早くメシー!!」

 俺達の気まずさなど吹き飛ばすように、この我らが船長の明るさにはいつも翻弄されることもシバシバだが、助けられる事も多い。
 それは、船員全員の思いでもあるだろう。

 この蒼いくて広い海と空のように澄んでいてそして優しいばかりではなくときには厳しくもあるこの大自然のように・・・
 いつも自分達を見守っていてくれる存在で・・・
 だからこそ、この船長と共に旅することが出来るのだ。
 例え、船が変わろうとも、乗組員が変わろうとも、この船長が変わらない限り、俺達の心も変わることがないだろう
 改めて誓い合うように俺達は肩が触れるくらい近くに立ち、どこまでも続く空と海を見つめ、そっと触れ合う指と指をしっかりと絡ませた。

 それが約束のしるしであるかのように

 それぞれの夢が叶うまで、一緒に旅を続けること
 それぞれの夢が叶ったら、一緒に・・・・






 Fin




やっと完結です。
こんな話に何ヶ月かけてるんだって感じですか?
とりあえず、9ヶ月かけてなんとか終了です。
バカップルを1組製造できたと思うのですがいかがですか?

ラブラブハッピーエンドには程遠いかもしれませんが
楽しんでいただければ幸いです。

また、ゾロ誕生の時期が近づいてきました。
今度はどんな2人の物語を書こうかな